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第二十四話 説教と説得と始動のお話

ひさしぶりに投稿するので、誤字脱字多々あると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。

「それで、これからどうする?

アルが言った通り、議員たちは排除したよ」


俺と、エリーナの二人だけの円卓で今後のことを二人で話し合う。


「んー?

ああ、実はなぁ…

あんま考えてないんだ」

俺はぶっきらぼうにそう伝えた。

本当に正直言って全く考えていない。

議員たちの排除は本当にうまくいったが、それ以上に厄介なのがこの先待ち受けていると思うとあまり考えが浮かばない。

相対する者たちがあまりに強大で情報がなさすぎるのだ。


「え…

こ、困るよ!

僕はアルと契約したんだよ!?」


俺と、エリーナの二人だけの円卓でそう彼女は叫んだ。

雇ったばかりの俺がいきなりこんなことを言い出すのだ、当然だろう。


「まあまあ、大丈夫だ。

何事もな、定石や安牌といった、「まずやっておけば間違いないこと」が存在するんだ」

「わかった!!

それをやればいいんだね!」

「いや、それが通用する時期はとっくに過ぎている」


俺の言葉を聞き、一瞬だけ目を輝かせたエリーナはがっくりと肩を落とした。


「なんだょぉ…、結局ダメってこと…」

「だから、邪道で突き進む。

お前には、ここにいる自治州のために働くすべての人の顔と名前を覚えてもらう」


そういうと俺は事前に持ってきていた分厚い羊皮紙を取り出した。


「ええっ!む、無理だよ。

この建物にだって千人以上の人が勤めてるんだよ!?

それを覚えろだなんて…」

「なら、自治州はお仕舞だな…皆もさぞ悲しむだろう。

お前が自分では無理だと逃げ出したせいで自分たちの住む場所がなくなるんだから」


円卓に無造作に放り投げた羊皮紙を嫌そうに見つめるエリーナに俺はさらに追い打ちをかける。

指導者とは、導き手とは誰かを導く前に導く対象が誰なのか認識しなくてはいけないのだ。


「だーっ!わかったよ!やるよ!やるってば!でも私の才能は1500ちょっとだから、こんなにたくさん覚えきれないよ…

もっと才能が2000とか最低でも1700くらいある人じゃないと…」


と、ぶつくさ文句を言う。

当然と言えば当然だ。

才能が高い人間…特に1000以上の人間が今の国を支配している。

そして、国の文官や官僚と呼ばれる人々は1500以上が相場だ。

重要な役職に就く人間ほどその才能が高くなる。

だから、勘違いしやすいのだ…俺に言わせれば。

もちろん、才能の高い人間が質の高い仕事をこなすのは理想だ。

だが、その役職につく人自体の精神が成熟した人間であることを重要視しているかと問われれば、疑問が残る。

それが、国の腐敗を作っているのだ。

そして、人間自身の限界も…


「大丈夫だ。優先順位をつけろ。

無理じゃなく、できる範囲を少しずつ広げる感じで覚えるんだ

何事にも初めがある。

世間で言っているような才能の違いなんて本当に些細なことなんだ。

お前が覚えるのが苦手であれば、覚えることを繰り返すんだ。

毎日…毎日…

そうすれば、頭が覚える。

できるようになる」


「でも、私…」

俺は羊皮紙に向けていた目線をエリーナに向けた。

一つ一つをやってもらって自信をつけさせなくてはいけない。


最初の反撃は成功したがまだまだこちらは力不足、だからこそ成長してもらわなくてはならない

その最初の…成長するための一歩だ。


「いいか?

お前の才能は俺より高くて素晴しい。

惚れ惚れするよ。

眩しくて直視できないくらいだ。

きっとお前は俺が渇望したスキルや魔法が覚えられるんだろう。

俺ができないとあきらめた無数の事を何の変哲もなくこなすんだろう。

だけど、お前は今何をすればいいか迷ってる。

独りでなにもできなくて赤ん坊のように泣いている。

そして俺はお前を助けるすべ(・・)を知ってる。

おかしいだろ?

俺より優れているであろうお前が、劣った俺に助けを求めた。

だから才能なんて偏見で、物事をみるな。

俺はお前の才能に応えたわけじゃない。

お前の自治州を助けたいという思いに応えたんだ

やってみろ」

「…わかったよ。

アルがそこまで言うなら…」


ようやく、エリーナはしぶしぶと言った感じでうなずいた。


「よし、じゃあここは任せた。

俺は俺でやることがある」

エリーナを無理やりに承諾させ、俺は円卓を後にする。

「ちょっと!?どこ行くの?」

「この自治州の全記録に目を通す。

ついでに文官全員と顔を合わせる。

お前と交わした契約書を見せれば奴らもむげにはできないさ」

「まってよ。僕も…」

「まずは、1000人分の顔と名前を覚えろ。

そしたら、来てもいいぞ。」

「そ、そんな…僕、アルがいなきゃ無理だよ。

…怖いんだよ。

議員たちに追い出されて、それでもここに戻ってきたけど、なんかもう僕がいたころの分意気じゃないみたいで…

だからしばらく一緒にいてよぉ…」


やはりというか、さっき納得するそぶりを見せ始めたのにまたぐずり始めた。

予想はしていたが、一人になるのが嫌なのだろう。

父親の死後、無理やり言いくるめられ説得させられ、その身一つで見たこともない国に売り飛ばされた目の前の少女は、俺の知恵を借りて、売られた借りを返した。

だが、息つく暇もなく、また強大な敵が迫っているこの状況。

そんな中で一人では心細くなるのも無理はないのだろう。

俺は彼女の目を見た、真ん丸で幼さを残したその眼は、うっすらと目に涙をためてこちらを見つめている。


「無理を通すには、道理を多少なりとも逸脱する必要がある、お前は逃げずにここに来た。

考えることを放棄して周りの雑音に流されていった“お飾りのエリーナ・ウォルノ”はあの事故で死んだ。

今いるのは、民のため自治州のため、自分の命と運命を賭ける“自治州の一議員であるエリーナ・ウォルノ”なんだ。

大丈夫。

お前は自分の意思でこの道を選んだ。

そのことはお前自身が誇っていい大切なことだ。

だからできる。

信じるんだ」


俺は、反論の余地さえ与えず一方的にまくしたてるとそのまま円卓を後にした。


「これだけってことか…」


俺は見渡す限り広い部屋に10数人、直立不動で立っている様を見てつぶやいた。


「ええ、そうですよ。

議員たちが、腹いせに自分たちになびく職員をほぼすべて連れて行きました。

後に残ったのは使えないとか、誰にも靡かないとか、そんな連中ですよ。

どうですか?

なかなかでしょう、我が自治州は?」


そう、皮肉を言った初老の男は、死んだ魚の目をして投げやりに語りかけてきた。


「ああ、なかなか、いいじゃないか。十数人も現実を視れる者たちがいるのなら、ここは安泰だ。あとは、人を増やし、金を回し、出て行った奴らが羨むほど発展させれば言うことなしだ」

俺の自信たっぷりな声にみな顔をしかめた。

当然だろう。

誰もそんなことはできないと思っているのだから。


「はぁ?

馬鹿が!!

ダートでもこれくらいわかると思ったが、わからないようだから教えてやる!

ここにいるのは、使えないと判断された者たちなんだよ。

どの議員からも誘われず、今の窓際役職にすがるしか能がない。

それが我々なんだぞ!」


俺の態度が気に入らないのか、目の前に立つ初老の男は文句を叫び、自分で言ってて泣けてきたのか、目がしっとりとうるみ始めていた。

精神が崩れる寸前なのだろう。

彼らにとってみれば明日をもしれぬ身なのだ。

だが、俺にとってそれは日常だ。

常にその身を危険にさらしているものからすれば、彼らの悩みなどとても小さなことだと思える。

だが、初めてその身を危険にさらすものからすれば、それは恐怖しかないのだ。


「だからなんなんだ!

ここにいるのは、理由はどうあれ、今の自治州がなくなってほしくないと思う人たちだ。

エリーナ・ウォルノと志を共にするものだ。

人が足りないなら、雇えばいい。

敵が攻めて来るなら、真っ向から立ち向かい自分たちの居場所を守れ!

そのための力をお前たちは持っている!

だから…」


俺は初老の男をしっかりと見つめると、息を吸い込み、叫びをあげた声よりも、明るくはっきりとそして、怒鳴らず言葉を紡ぐ。

「俺に協力してくれないか?」


説教と説得とそして止まっていた自治州が少しずつ動き出した。


「あっ!!

あいつに覚えるのは十人程度だけでいいって言っとかねぇと…」



―――――――――――――――――――――――――――



「“肉狂”様、バジルの香草焼きが出来上がりました」

「うむ、ではこちらに」

ニコニコと彼の目の前にとある肉が並べられた。

それは、あるものの()()()()()だったが、“肉狂”は満足げにうなずいた。

「そうだよ。

ナナ、君に聞かせていた話はもちろんフェイクだ。

私の絵ではすでに君は食卓に並んでいることとなっていたんだ。

そのために、盗賊まで雇ったがね?

私は、今回如何しても君が食べたかった。

君はメイドの中で誰よりも優秀で誰よりも私に忠誠を誓っていたね。

だから、愛おしい君が私の体の一部となることを今は喜ぼう。


…いただきます」


一方で狂気をはらんだ()は着実に描かれつつあった。


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