第八話 初学食のお話
「とりあえずだクーノ。今日は学校に行ったらあの先輩がどうなったか探るぞ」
と朝食の後片付けをしながらクーノに確認する。
あの恥ずかしい話の後とりあえず腹が減ったので朝食にしたのだ。
ちなみにクーノでは物を壊す可能性があるため、朝飯の支度は全て俺が行った。
家事ができるようになるまでの我慢だと自分を納得させたが、俺が支度している間に朝風呂に入っていい感じにさっぱりしたクーノを見るとどうしても納得できない。
「どうしたんですかアルさん?」
ずいっ
俺の気持ちを知ってか知らずかクーノが顔を近づけてくる。
「…なんでもない。ちょっと納得がいかないだけだ気にするな」
「?」
だからさっぱりした顔を近づけるな。
俺だって風呂に入りたい。
昨日の今日で全く風呂に入る時間ないんだぞ。ったく
とにかく、今日行うことを説明しないと始らない。
「とにかく、今日は
1. クーノがボコボコにした相手がどうなったかを確認する
2. 相手について調べる
3. 力の制御
以上の3つを優先順位の高い順で行う。
これは状況によって変わるから覚えとけよ」
その言葉に頷くクーノ。
「わかりました、でもどうやってあの人について調べるんですか?私たち…」
「その前に確認だ。クーノにちょっかいを掛けている上級生の名前はマルク・フォン・デリオットで間違いないな?」
喋りきる前にクーノに確認するこれは重要なことなのだ。
「はい間違いありません。そんなことより一体どう調べるって言うんですか?私たち友達なんて一人もいませんよう」
確かに、俺たちはボッチだ。ボッチが2人集まっても何にもならない。
「大丈夫、そこはアテがある」
「あてですか」
「ああ、とりあえず学院が始まるまで時間がない、急いで支度して登校するぞ。残りは昼休みに話そう」
「はい」
窓の外からは生徒たちの声が聞こえ、既に登校しなければならない時間帯であることを知らせていた。
俺とクーノは急いで支度をして寮の部屋を飛び出した。
――――――――――――――――――
授業も終わり、俺とクーノは中庭で話し合いの場を設けた。
「さて、クーノお前が昨日ボコボコにした先輩だが、全治二週間だそうだ」
俺は事前調査の結果をクーノに告げる。
もし怪我をしているなら、医療棟に行っているはずだと当りを付け、午前中に仮病を使いわざわざ医療棟まで行ってそれとなく聞いて回ったのだ。
すると、何処にでも一人はいる、おしゃべり好きの女医が教えてくれた。
なんでも、夕方頃階段から足を滑らせて腕の骨を折っていたとのこと。
「あ、あう。どどど、どうしましょう?仕返しされるに決まってますよー」
案の定パニックに陥るクーノ。
そんなクーノに俺はあくまで冷静に告げる。
「落ち付け。逆に考えてみろ。普通ならクーノは呼び出されてもおかしくない。なのに、どうして階段から落ちたって嘘を言った?考えられる理由はそれをネタにお前を脅すため、それしかない」
ヒッ
脅すという言葉を聞いた瞬間小さな叫びを上げるクーノ、やはり相当なトラウマのようだ。
そんなクーノに構わず俺は相手の行動を予測する。
「ただ、向こうも脅してくるのは傷を完全に治して、必ず2人以上でくるはずだ。
じゃないと今回のように抵抗された時、また返り討ちにあってしまうからな。つまり俺たちに残された期間は二週間。その間に相手に対して備えを完璧にしておく…いいな?」
「は、はい…でもどうするんですか?」
「とりあえず、クーノは力の制御ができてない。ある程度、制御出来る様にする事。じゃないとどこ連れてっても物壊すから、わかった?」
これだけは何とかしてもらわないと現状は俺がメイド状態なのだ。
「はい、わかりました」
「とりあえず、できれば生徒に話を聞きたいところだけど、俺もお前も友達居ないんだよな」
と独り言のように呟く。
…まあ朝も言ったアテはあるんだけどね。
「そうですよ。どうやってあの人の事調べるんですか?他に脅されてる女性が居たとしても侯爵家に逆らえないって言って協力なんかしてくれませんよきっと」
クーノの言う通り調べることも大変だが、”相手の地位”これが今回最大のネックだ。
基本的ないじめを止める方法として、最善の手は、いじめている本人が自分より格上であると認識している人物にいじめをやめるよう忠告してもらう事がリスクも後腐れもない一番良い方法である。
しかし、今回のケースの場合、いじめている(ちょっかいをかけている)貴族を調べると、爵位は侯爵であり、家柄も相当な名家であることが分かった。
それより立場が上の人物というのはなかなかいない。
そして彼の被害にあった人間は各学年に必ず一人は居るらしい。
クーノを襲ったときに自慢げに彼が話していたそうだ。
それでも彼が人気者なのはひとえに家柄と弄ばれた本人たちが黙っているからだろう。
いじめをやめさせるにはそれ以上の情報が居る。
一通り状況を頭で整理した後、とりあえず当面の行動を話しておく。
「朝も言った通り情報源にはアテがある、ひとまず放課後にそのアテに当たるとしよう」
「はい」
そしてひとまずは昼休みの作戦会議を終え、昼飯を食べるため学食に向かった。
とりあえず腹ごしらえだ。
何時もなら弁当を作ってくるのだが、今回はそんな時間がなかったしな。
「クーノ実は俺、学食って初めてなんだちょっと教えてくれよ」
「えっ!?そうなんですか?いいですよ。簡単ですから」
学食は学生のために安く食えるってわかってはいるんだけど、ただでさえ金ないしね。
ちょっとでも節約しておきたいのだ。
食堂は学院内に複数あるらしいのだが、俺たちが来た第一食堂は、広々とした店内に生徒がまばらに座っている。
するとクーノが看板を指差しながら俺に説明してくれた。
「あそこにあるのがメニューで隣に書いてあるのが値段です。
大体みんな180アソートで買えますよ。決まったらあそこにいるおばさんにメニューを言ってお金を払えばいいんです」
というと看板も見ずにクーノはカウンターに向かった。
「おばさーん、お子様ランチくださーい」
なんだと!?
驚く俺を余所にクーノは平然としている。
「はいよ、お子様ランチね。180アソートになります。お子様1つ!!」
((うぃっす!))
店番をしているおばちゃんが勢いよく厨房に掛け声を入れる。
「…」
この予想を斜め行く現状に頭がフル回転させる。
俺はどう動こうか…
…確かにまだ12歳だしね。
俺の感覚が違うのだろう。きっと…きっとそうさ。
しかし、お子様ランチってこっちの世界にもあるのか…
この世界のお子様ランチ…気になる。
しかし、元の世界との年齢を含め四捨五入すると30歳の男性がお子様ランチを頼むというのは…俺の尊厳のとか色々…
しかし、気になる…
考える事およそ10秒、俺は未知の誘惑に負け恐る恐るカウンターに向かった。
「お、おばさん…俺にもお子様ランチ…」
少々、いや大分恥ずかしく思いながらも俺はお子様ランチを頼んでみる。
一度、そうこれは一度だけの言わば試しだ。
しかし、人生と言うのは無常だ。
「あれ珍しい。今日は二人もお子様ランチ頼む人が居るとはねぇ…180アソートになります。お子様1つ!!」
((うぃっす!))
な、何だと…
返された返事に顔が熱くなりながらも震える手でお金を渡す。
…俺の中の大事なものが一つ壊れた気がした。
「あれ?アルさんも私と同じお子様ランチですか?これすごくおいしいんですよ。しかもトーストの上に旗まで乗っててとってもかわいいんです!」
笑顔で話すクーノを複雑な気持ちで見やる。
…平然としてられるお前がうらやましいよ。
と思いながら料理を受け取りテーブルに着く。
お子様ランチはかわいい熊の焼き印を押されたトーストが2枚。
上には学院のマークが付いている。
その他は普通だ。
野菜に、スープ…栄養バランスも問題ないようだ。
おいしそうに食べるクーノに俺はなんか納得できないながらも、せっかくの昼飯がもったいないと食べ始めるのだった。