第十八話 そして自治州へのお話
今回は少なめです。
「さて…検問だ。手筈通りわかってるな?」
俺は隣で目立たぬようにコートを羽織りうずくまった少女に改めて確認を取った。
「うん…でも本当にそんなことって…本当なの?
議会のメンバーが僕を切り離すために、今回の事を画策したって…」
やはり俺の事を信じ切ることができないのだろう。
俺の想像も含めて話した絵師の絵の一部をいまだ信じずにいた。
あの後、少女を救出し、羊皮紙を見せながら俺の考えを話して聞かせた。
自治州議長の娘…エリーナは突然の話に戸惑い、自治州への帰還と俺の言ったことについて自治州の頭脳たる円卓会議の議員たちに直談判をし確かめるといってきた。
俺としては、渡りに船な提案だったので、急遽町から馬車を用意し、エリーナにとっては来た道を戻るような形で自治州に舞い戻ってきたのだ。
「よし!次!」
呼ばれて馬を進めると、番兵の仏頂面が一変驚きに変わった。
「ひ、姫様?
レグルニアに極秘裏に向かっていたはずでは?」
「うん。
急遽確かめなきゃいけない事が出来たんだ。
このことは上に報告せずにここを通してくれないか?」
「し、しかし、隣のそのダートは誰なのですか?
早朝、にいた第五守備隊の者も消えているではないですか!
そんな不審な状況で、この門を通すことはいくら姫様でも見過ごすわけにはいきません!」
「そ、それは…」
番兵の当然の主張に口ごもるエリーナ。
当然と言えば当然だ。
朝早くにレグルニアに向けてたった自治州自慢のお姫様が出ていくときに乗っていたはずの高級な馬車や守備隊がすべて姿を消し、俺みたいな胡散臭いダートと肩を並べ馬車の御者席に座っているのだから。
「失礼。
私、商人をしているアル・ランドールというものです。
まあ見ての通りしがないダートですが。
実は姫様はレグルニアに向かう途中で盗賊に会い、その際護衛についていた者たちとはぐれてしまわれたのです。
そこを偶然、私がみつけ失礼かと思ったのですが、自治州にこうしてお届けしに参った。
という次第でして…」
「そ、そうなんだ。
それと、これは内密にしてほしいんだが、盗賊の中にレグルニアの軍服を着た者も何人かいたんだ。
このままでは国同士のいさかいひいては、戦争になるかもしれない…」
「な、なんと!それでは…」
「いや、ことは高度に政治的な問題だ。
だから、いったん円卓会議に報告し、これからの対応を考えたい。
だから僕がここを通ったことは内密にしてほしい。
おねがいできる?」
「はっ!了解であります!
姫様!
仲間の事は残念でしたが、お気を確かに!
我ら、自治州に住む者にとって姫様は希望の星なのです。
どうか、我らを名君であったお父上のようにお導きください。
…おいこの馬車は問題なし!道を開けろぉ!」
俺の誘導と、エリーナのたどたどしい言葉が余計真実味を与えたのか、顔が一瞬のうちに真っ青になった番兵は姿勢をただし敬礼をすると道を開けた。
「な?
うまくいったろ?」
「うー
僕としては、だますようで心苦しいんだけど…」
「はぁ?
不可抗力だ。
それに、お前が確かめるって言っただろ?」
「確かに…そうだけどぉ」
「なら黙ってついてこい。
…俺としては州民のお前に対する評価の方が気がかりだがな」
門を通り過ぎた所で改めてエリーナがつぶやいた。
彼女としては、盗賊に襲われたことよりも自分が番兵に嘘をつくことの方が心苦しいようだ。
俺はその態度に妙な違和感を覚えつつ自治州の町を何事もなく進んだ。
自治州の中心に近づくにつれて、子供の笑い声や商人の怒号が聞こえ始めた。
なかなかに豊かなところであるようだった。
「それで、本当に議会のメンバーが関わっているの?
僕にはいまだ信じられないんだけど…」
「任せろ。
俺にとっておきの考えがある。お前はただ耳を澄ましていればそれでいい。」
いまだに俺の言葉を疑うお人よしのエリーナに俺は、余裕を持って返した。
人は群れれば群れるほど弱くて醜くなる場合も存在するのだ。
そして、その分化けの皮もはがれやすくなっている。
馬車は、ゆっくりと円卓会議が開かれているであろう。
議事堂へ向かっていた。




