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第十七話 偶然の出会い

すいません、今回いろいろと視点が変更します。


「姫様、ここを超えれば、かの王国でございます」


夕暮れを進む馬車の中、暗い雰囲気を漂わせてた女中がそう語りかける。


「うん…わかってる。

これも、オルドス自治州再興のため、僕の身一つで帝国の脅威から解放されるんなら安いもんだよね。」


だが、そう語った少女の足は小刻みに震えていた。


「僕は…何も怖くないよ。

お父様は、もういないし、母様も小っちゃい時になくなっちゃったけど、ナナが一緒だし。

片腕のないナナが、無理をして一緒に来るなんて言うからさ。

僕もしっかりしなくてはいけないよね!

そ、それに、その“肉狂”という人は噂に聞くほど怖い方じゃないんでしょ?」


そう、戸惑った声を出した女中の向かいに座る少女に、女中は優しく語りかけた。


「はい…とても、とてもお優しい方ですよ…」


ヒヒィィィイン!


その時、馬の鳴き声とともに、馬車が勢いよく傾いた。


――――――――――――


俺の目の前でいま、一方的な虐殺が起きていた。

護衛の兵士らしき男たちは、なすすべもなく待ち伏せしていた盗賊たちに切り触れられ、倒れた後も2~3人の男たちに取り囲まれて袋叩きにされている。

このままでは、崩壊はあと数分と言ったところだろう。

俺とクルルはその様相をただただ、ずっと見守っていた。


「それで、助けんでよいのか?」

「ああ、別にかまわない。俺たちはこのまま木陰で盗賊たちが襲う様子を眺めているだけでいい」

「フム…なんとも退屈な…

まあ、よいそれなら、我はこの燻製肉を…」


と言うと懐から拳大の肉を取り出し、齧り付こうとするクルル。

だがそれをすかさず奪い取る。

まだ聞きたいことがあるのだ。


「まて!

ミルドの件は俺の手筈通りやってくれたよな?」

「ふん!

もちろんだ!」


そういうと、俺の手から肉を奪い返した。


「しかし、よくわかったの。

のうかすいたい?であったか?

あんな場所に腫瘍があるとは、まあ、摘出はいささか難儀であったが、お主の言った通りの施術で肌にほとんど傷は残らなんだ。今はおとなしく宿で休んでおるよ」

「それならいい。

腫瘍の方は、まあ…たまたま知っていたってだけだ。

それにミルド自体の症状も見事に〈クッシング症候群〉と一致したからな。

行動力があって、イライラしていた。

だから、仲間を試すなんて行動に出たんだろう。

また、手足は細いはずだが、胴は少し肉がついていた。

まあ、食事すらままならない状況だったとしても、太ることはありえないほど不自然だ。

胴体のみの異常な肥満と異常に元気でイライラする…

まあ、元が大人しそうな奴だからあんな感じなんだろうが、大体が病状と一致するんだよ。

まあ、お前のお陰で腫瘍を摘出できたからな。

それさえできれば、〈クッシング症候群〉の治療は終わりだ。…たぶんな」


「ふむ、お主がそこまで言うのなら、本当に安心なのだろう。

しかし、本当に良いのか?

あの娘が何の問題もなく生きて行けるようにするなど、到底無理な話であろう?」


クルルが続けて問いかけるが俺はそれに答えず目の前の光景を見続けた。


「そろそろだ、助けに入るぞ。

その答えはあとで教えてやる。

お前の取り除いた腫瘍は結構な役割を果たしていたんだ。

今の俺らみたいになっ!」


「むうっ!いつも後でと言うのだな!

ハッ!!

そういえば、まだあの男をどうやって見分けたかについてまだ教えてもらっておらぬ!先にそちらを話すのだぞ!」


ぶつくさ文句を言うクルルを置いて俺は走り出した。

まずは、一人狙いを定めて火球を投げつけた。


――――――――――――――――――――――――― 


「そ、そんな計画が…ひ、姫様抵抗してはいけ…」

そこまでつぶやいた女中はすべての言葉を紡ぐ前にこと切れていた。

残された少女は目の前の現実をただ呆然と眺めていた。

とても、信じられるものではなかった。


「で?こいつでいいのか?」

「ああ、あとは例の奴らに引き渡せば、俺たちは金持ちだ」

「さーてお嬢ちゃん、おとなしくしてろよな?

依頼主は最悪、体でも構わないって言ってんだからよ?」


――――――――――――――――――――――――


「ぎゃあ!!!

竜!竜だぁ!」

兵士を殺し馬を殺し、馬車を取り囲んでいた盗賊から突然悲鳴が上がった。

竜となったクルルが馬車を襲っていた盗賊を食い殺していたのだ。

口の中で噛み殺し、それを他の盗賊めがけ吐き捨てる。

それだけで、男たちに狂気が伝染した。


「相変わらず手際いいんだよなー」


そうつぶやきながら、俺は盗賊たちの首に刃を当てていく。


「なんだ!てめぇは!よくも仲間を!」

「りゅ、竜だぁ!みんな逃げろぉ!」

「た、助けてぇ!」


恐慌状態にあった盗賊たちは散りじりに散っていく。

クルルが暴れお陰で、俺が全く相手にされないのがうれしくも悲しかった。

一通り盗賊を蹴散らし、馬車の中を覗き込むと、俺のお目当てがそこにいた。


「こんにちは、お嬢さん。

私は偶然(・・)ここを通ったしがないダートのアル・ランドールと言います。

さっそくですが、私を雇いませんか?」



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