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第十三話 馬車の中身のお話

「いやいや、どうも待たせてしまってすみません」


俺は部屋に入るなり、そう告げた。


「別にかまいません。

私としても彼らに人質として縛られているのは苦痛でしかありませんでした。

ありがとうございます」


そう話す目の前の男は、見事なまでの美丈夫だった。

あの豪華な馬車に乗っていたのは、この美丈夫だったらしい。

顔だけではなく、体もある程度筋肉がついており、決して盗賊なんかに後れを取るようには見えないのだが…

そんな俺の視線に気づいたのか美丈夫は照れながら言いにくそうに口を開いた。


「いや~彼らに御者を人質にとられてしまって。

私は何もできませんでした。

しかし、あなたはすごいですね。

あの盗賊どもをあっという間にやっつけてしまうんですから…」

「いえいえ、ここにいた奴らを倒したのは私じゃなくてもう一人の方です。

私はただ見ていただけですよ」

「でも、あなたが連れてきた盗賊は君を相当恐れていました。

あの女の子よりも…

彼女があの若さで次々に敵を屠っていくほどの強さを持っていることも驚きですが、それ以上にダートであるあなたに怯える盗賊たちが、私にはとても新鮮に映ってしまって…」


そう返す美丈夫の視線は鋭い。

顔の表情は照れ笑いを続けるくせに、視線は鋭くこちらを射抜いている。

その視線を半ば無視する形で俺は話を進めた。


「さすがは、探究者の方

今回はたまたま運が良かった。

それだけですよ。

彼らのリーダーをたまたま私が殺してしまいまして、いやーまぐれは恐ろしいですね。

それ以降、何故だか彼らは怯えてしまって…

まあ、縛り上げて事情聴取は簡単にできたのでよかったのですが、あの怯えようは、いささか以上に面倒で、私の連れに後処理を任せてしまいました」


俺の愛想笑いも意に反さず、美丈夫は話を続けた。


「そうですか、ところでこれからどうするおつもりですか?

私としてはレグルニアに用がありまして。

その途中にこんなことに…まったく、めんどくさいですよね。

兎に角あなたのような底知れない方に護衛を務めていただければ、私としては心強いのですが…」


そこまで言い続けた美丈夫に俺はそれ以上しゃべらせないようにかぶせて答えを突きつける。

こちらもやることがあるのだ。


「では、近くの町までお送りしますよ。

そこからは、なんでもいいんで護衛を雇ってください」


そういって俺は、美丈夫から視線をそらす。

他にも盗賊にとらわれていた女子供がいた。

たぶん売られるためにいたのだろうが、こいつらの所在も確認しなくてはならない。

そう考えていた時だった。


「いいえ!

出来れば私はあなたに送っていただきたいのです」


そういって美丈夫は身を乗り出してきた。

なんでこんなに俺に固執するのか…わからない。


「失礼を、私の名前はマルマルと申します。

私の今回の任務は探究者様をレグルニアに迎えに行くことなのです。

ですが私は、盗賊に襲われても何もできなかった。

探究者様に使える身である私が情けない話です。

研究のお手伝いでしたらいくらでも対応してきたこの私が、命の危険を前に何もできなかった。

だから私は探究者様に恥じぬようお仕えしたいのです。

あなたを参考にして私の至らぬ点を克服したい。

そのために、できるだけあなたの傍であなたの行動を観察したい。

いささか以上に迷惑をかけるというのは分かっています。

ですが、どうかお願いできないでしょうか?」


そこまでいって自分の事をマルマルと名乗った美丈夫は深々と頭を下げる。


「確かにあなたのお気持ちはわかりました。

マルマルさん頭をあげてください。

それはできないのです。

ここに囚われていたのはあなただけではない。

各地で攫われてきたと思わしき女子供がいる。

それをギルドに届け事後処理としてここを解体しなければいけません。

その調整は最低でも1週間ほどかかるでしょう。

その間待つことができますか?

唯でさえ遅くなっているのに、あなたが使える主に対しても不義を働く結果を作ってしまう。

それでは申し訳が立ちません。

それと個人的に私はレグルニアにあまり良い感情を持っておりませんし、ここはどうか町までの護衛でお願いできないでしょうか?」


俺も頭を下げる。

このマルマルと名乗った美丈夫の姿勢はとても感心した。

だからこちらも誠心誠意対応する…見かけだけだが。


「わかりました。あなたがそこまでおっしゃるのでしたらそれで構いません。

では、それが終わったらあなたは何処に行かれるのでしょうか?

私はあなたのようなダート…いえ、あなたのような方を始めてみました。

礼儀正しく、とても勇気がある。

ぜひまたお会いしたいのですが…」


こいつまだ食いついてくるのか…

このマルマルと名乗った美丈夫は、じぶんがなにもできなかったことをかなり反省しているのだろう。

だが、こちらはあの羊皮紙を目にした以上やらなければならないことが山積みなのだ。


「さあ…私は一介の行商人にすぎません。

明日の予定はないに等しいんですよ。」


「…わかりました。ではせめてお名前だけでも…」


そう、聞かれて俺は初めて、自分が名乗っていないことに気づいた。

まあ大抵の人間は仕事でもなきゃダートの名前なんて知りたくもないだろうし。


「大変申し訳ない!!

申し遅れました。

私、アル・ランドールと言います。

職人ギルドに所属しておりまして、主に魔道具を販売し生計を立てております。

どうぞお見知りおきを…」


「わかりました。アルさん!

よろしくお願いします」


そこまで言って俺たちは固く握手をする。

まあ短い間だが、協力関係を築ければ上々だろう。

…アルさん…

そんな風に呼ばれていた頃を一瞬思い出した。



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