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第十話 帰り道のお話

「糞っ!」


イライラしながら、また地面を蹴る。

人形老の屋敷から帰る途中、俺はずっとこんな感じだ。

あの老人から聞いた話がまだ信じられない。

自分のやったことが裏目に出たのか?

何をどこで間違えたのか全く分からない。

最善を、十全を尽くしたはずだった。

しかし、結果が一ミリも理想に近づけていないのだ。

これでは何の意味もない。


「またかのう…、どうにもこうにもお主は手を出さぬと決めたのであろう?

ならば、自分の事だけ考えていればよいではないか?

まったく自分で決めたことで悩んでいては世話ないのう。

そこまで悩むならいっそのこと会いに…」


「できるわけないだろ!!

俺がほいほい姿を見せれば、またアーメルが殺そうとするだろう。

そして、俺の生存を知ったあいつらは守ろうとするだろう。

そして、傷つく、自ら望んでだ。

最後には死んでしまうかもしれない。

自分の無力がわかるから、相手が傷つくことがわかるから、それだけはできない。

だから、消えた。

無能は所詮無能だ。

だから覆せることもあるが、だからこそできないこともある」


言いかけたクルルに俺は思わず怒鳴ってしまった。

だが、気づく。

クルルが、無駄に俺に突っかかりモヤモヤを吐露させたと分かった。

まったく気を使わせすぎだろ…かっこ悪くて涙目になりそうだ。

ようやく気持ちが落ち着いたと見たのだろう。

クルルはさらに問いかける。


「ならば、お前はどう生きる?

無能で有能なお前は何をすれば…お前は自分に納得がいくのじゃ?」

「まったく、お前はほんとにいい時にいいことを言ってくれる」


そういってクルルをその瞳を見た。

目線は外さない。

爬虫類の瞳は相変わらず俺を見つめている。


「フフフフ…

苛立ったお主もなかなかのものだったが、やはりその意気じゃ。

さあ、ではアルスよお前はこれからなんとする?」

「決まってるさ、俺は…俺のせいで間違った道に進んでしまったのならそれを止めるのが俺のするべきことだ」


うんうんとうなずくクルルは森に視線を向け嬉しそうに声を上げる。


「その前にやることができたぞ。

さーて、どこぞのバカが騒いだゆえ、怖い怖い野盗に見つかってしまったのう」


振り向けば森から数人の男が出てくるところだった。

数は9、まあまあな人数と言える。


「おいおい、男の声がしてきてみれば、かわいい嬢ちゃんじゃねえか!

おいお前ら!女は生け捕り、男は殺せ!

なーに相手はダートだ。

なぶり殺して楽しもうぜ!」


リーダーらしき男の言葉に俺は嗤う。

久々の肩慣らしだ。

自分がどこまで強くなったのか知るいい機会だろう。


「さっさと死ねや!」


すぐそばまで迫った下っ端らしき二人に挨拶代わりと腰に下げてあった、ランタンを投げる。


「悪あがきを!」


予想通りランタンを叩き落とした男たちの足元めがけ、俺は火球を投げつける。


「ぎゃあああ!!み、みずぅ!」

「お、お頭らあぁあ!たすけてぇ!」


足についたランタンの油によって、あっという間に火達磨になった男たちはすぐさま火を消すために走り出した。

必死に仲間のところと。


「よ、よるんじゃねぇ!馬鹿野郎ども!」

「こいつ!?

ダートのくせに魔法を使いやがる!気をつけろ!」

「ウソだろ!?無詠唱の魔法なんて聞いたことねえぞ!」


混乱に陥った野盗ども、その脇をすり抜けるように近場の盗賊の足に切りかかる。

足は刀の切れ味もあってかいともたやすく切り落とされた。


「ぎゃぁぁあああっ!あ、足が!俺のあしがぁぁ!」

「うんうん、相も変わらずいい切れ味だ!」


足を切られた男が倒れこむ。

そしてそこへ火達磨になりかけた男が彼の腰にある水袋めがけて襲いかかった。


「ば、馬鹿!こっちに来るんじゃねえ」

「うるせぇ!水、みずくれぇ、熱いんだよ!」


さらに二人の足を切り落とし、これで残りはリーダーを入れて4人だけだ。

残りに切りかかろうとしたその時だった。


<しずまれぇぇ!>


グシュっ!


大きな叫び声とともにリーダーの男は火達磨になった男たちの首を切り落とした。

男の響き渡る叫び…何かスキルを発動させたのだろう。


「落ち着けお前ら!

こいつ、魔道具をもってやがる!

ダートのくせに一丁前に高級なもん使いやがって糞が!ぶち殺してやる!

おめえらも一斉にかかれ!

相手はダートだ!女はそのあとゆっくり犯してやればいい!」


意気込む男に俺は足元に倒れている男を踏みつけると余裕ぶった笑みを浮かべる。


「まあまあ落ち着いて、そのまま何もせず殺されてくれれば俺も安心で、お前らも永眠できるだろ?」

「うるせぇ!死ねやコラぁ!」


俺を襲おうと男たちが武器を振り上げたその時だった。


「遅いぞアルス。いつまで待たせるのじゃ?」


風が通ったかと思った刹那、俺が全く関知できない速度で払われたクルルの手は、寸分の狂いもなく俺に立ちふさがっていた男たちの首を落としていた。


「そういうなって、しかし相変わらず強いねクルルは」

「無論じゃ、腐っても竜族なのでな。

お主との戦いのように正々堂々などとは思わぬ。

むしろお主との戦いで懲りたぐらいじゃ、それで残りはどうする?」


クルルの言葉に、俺は足をなくし今ももがく男たちに視線を向けた。


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