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第八話 すれ違い変わりゆく昔のお話

「それで、ここが例の屋敷かのう…」

クルルが見上げるその屋敷は町外れの寂れた場所にあった。

「そうだよ。

ここの錬金術師“人形老”ジア・オウロドスの屋敷だよ。

ギルドから話は通ってるはずだから、行けばギルドが注文した、作業用ゴーレムを譲ってもらえるはずだ」

「うまくいけば…であろう?」

「…まあ、策はある」

クルルの言葉に俺は押し黙るしかない。

この依頼、簡単な割りに高額で、誰も受けていないのが不思議だったのだが、あの受付エルフに話を聞くと、この“人形老”かなりの偏屈で腕は一流なのに、気に入った奴にしか会おうとしない。

しかも気に入らなければ自分の作ったゴーレムをけしかけるもんだから、依頼を受ける人すらいない状況なのだ。

ちなみにギルドが知っていた最後の知人は、飲み仲間のフラエブ爺さん。

しかしそのじいさんも2年前に亡くなってしまったそうだ。

だからなのだろう。

ますます偏屈に磨きがかかり、最近では誰も状況を把握できない完全なお化け屋敷として有名なのだ。


「そうか、お主のことだ。

何か考えがあるのであろう。

我は、かまわぬ。

早く行こうではないか!」

「へいへい」

そんな会話をしつつ俺たちは、屋敷の門を開け中を見る。

門を抜けた先にある庭には、植物が一定のバランスで配置され手入れもされていた。

驚いたことに庭には落ち葉ひとつ落ちていない。

完全に美しいが、どこか不自然すぎる光景だった。

その庭を素通りし、俺は扉についたドアノッカーに手をかける。

不意に扉の中から激しく口論する男女の声が聞こえてきた。

「さっさと、いけばいいじゃろ?

研究を途中ですっぽ投げる半端者にはちょうどよいわ!」

「だから、いったん学院へと遺産断片(レガシーコード)の解析に戻るだけだって言ってんだろ?」

「ふん!

わしはな、教えてと言ってきたくせに中間報告だか知らんが、中途半端に戻ろうとするその姿勢が気に食わんのだ!

中途半端な“モノ”は正確に他者へ伝わることなくその発展を阻害する害悪にしかならんのだぞ!?

まあいいわ、お前が作った中途半端な“コア”なんぞ何に使うのかは知らぬ。

ほれ、さっさといって来い糞ガキ!」

「ちょっと!

レディに向かって糞ガキってどういうことよ!」

「何がレディだ!

身の振り方も知らん。

小便くさいガキが一丁前にレディとは笑わせるわ!

せいぜい、遺産断片(レガシーコード)を解析して来い!

正確な結果をわしの所まで持って来るのじゃぞ!!

ではなっ…と、何じゃお前らは」

扉が開き、中から見事な白い髭を蓄えた老人とやんちゃという言葉を絵に書いたような元気そうな女の子が出てきた。

二人とも扉の向こうにまさか人がいるとは思わなかったのだろう。

一瞬の間が出来ていた。


その二人に対し、俺は申し訳なさそうに頭を下げる。

まずは第一印象が重要なのだ。

そこから交渉にもっていく。

それが理想だ。

「あのはじめ…」

「な、なんじゃ貴様らは!ガキはこいつだけで十分なんじゃ!

勧誘・セールスならお断りじゃ!

わしは今“探求者”としての偉大かつとんでもなく面倒くさい仕事を絶賛やっておる。

一般人はさっさと帰れ!」

「そうだそうだ!私が“あの方”から仰せつかった命の元、学院の代表としてここに来てるってのにそう易々と他の奴に弟子入りされちゃあ、こっちの面子が立たないんだよ!」

「お前の面子なんぞどうでもいいんじゃ!

ほれ!いつまでここにいる機じゃ!

さっさと学院に行けこの馬鹿者が!」

そう老人に背中を押され、少女は「わっ!!」っと驚きの声をあげる。

そして手に持っている、どこか見覚えのある花の刺繍が刻み込まれたケース鞄を大事そうに持つと老人を睨み付けながら玄関を飛び出した。


「押すな糞爺!!

こいつにゃ、私の大事な成果物が入ってんだぞ!

ったく…ってあんたダートだな?」

しばらく老人をにらみつけていた少女は俺を見ると顔色を変えた。

「ああ、そうだが…なにか問題でも?」

いつものことだがなるべく平穏になんでもないように返事を返す。

難癖を付けられるのはいつものことだ。

ここは、無能が立ち入っていい場所ではないと考えていてもおかしくはないのだ。

しかし、俺の考えとは裏腹に少女はにこっと笑顔を見せた。

「なんかあったらすぐに私たちに声をかけろよ?

弱者を助けるのが私たち結社“人々を助ける偉大なる術(アルス・マグナ)”の役目のひとつだからな」

その言葉を聴いたとたんフンっ!と面白くなさそうに老人は鼻を鳴らした。

「ご立派な結社じゃのう…手を伸ばせるだけ伸ばして支えきれなくなって崩れていくのが落ちじゃて」

「だから、ある程度、手を貸すだけだって、“あの方”も言ってたしな。

“自らの手の届く範囲の人を助けなさい”って、考えて助けてっから大丈夫だ!」

そこまで言って少女は理解したといわんばかりに声を上げた。

「ああっ!

わかった!

あんたダートだから手に職を付けたくてここにきたとか?

だったら話は早い!

おい糞師匠!

なんかすぐに覚えられそうな簡単な物を教えてやれよ!

やっべ!

馬車もう来てるし!

んじゃな!」

そこまでいうと元気いっぱいに門まで駆けていった。

いつの間にか、見たこともないような豪華な馬車が止まっており、俺のよく知っている学院のマークがついている。

馬車に載っている人物はわからないが、窓にはこれでもかというくらい金髪ロールらしきものが見える。

あれでは外を見ることも不可能ではないのだろうか…

誰だか知らないが、ずいぶんな趣味だな、まるでどっかのお嬢様を思い出す…

そこまで、考えて俺の思考は引き戻された。

老人が渋々といった感じで声をかけてきたのだ。

「それで…おまえさんは手に職を付けたいのか?」

こちらの意見をまったく無視した形でどんどん話が進んでいく状況に俺は自分の顔が引きつるのを感じた。




更新が遅れて本当にすみません。

私の生活の諸事情により今まで更新できませんでした。

待ってくれていた皆さんありがとうございます。


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