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第六話 職人としての第一歩のお話

次の日、不機嫌なクルルにしがみつかれたまま眠ってしまった俺は、そのホールドから何とか脱出すると、リックと今後の方針を話し合うことにした。


「でだ、お前は一体どうしたいんだ?」

向かい合って直ぐに、リックはそう切り出した。

「ん?どうしたいって?」

俺がオウム返しに聞くとリックはもどかしそうに叫んだ。

「馬鹿野郎!!

気になるんだろ?

悩んでるんだったら、自分がどうしたいかってぇのを…」

「いや、どうもこうも俺は何もしないよ」

「はぁ?」

俺の言葉にリックは気の抜けた声を上げる。

「だからさ。

なんもしないんだよ。

今まで通り、生活して…

まずは冒険者として金を貯めるって当初の方針通りやっていくつもりかな…

基本ここの町を拠点にね。

レグルニアと帝国とをつなぐ交易所であるこのサンレグラはちょうどいいと思うんだ」


「…でも、いいのかよ?」

リックは俺の目をじっと見つめ問いただす。

そこには無言の圧力があった。

俺の真意はどこにあるのか、気になっているのだろう。

「ああ…

いいんだ…情報が少ないし、何より俺はあの国には戻れないからさ。

俺ができることはもうないんだよ。

だから、計画通り金を貯めて、行商人にでもなるさ。

世界を見て回るとかロマンだろ?」


「本当か?

お前、実は一人で動こうとして…」

その言葉に俺は昨日のクルルを思い出す。

あの後、一晩考えて出した結論なのだ。

「大丈夫だ。

そこまで言うなら、理由を説明するよ。

もし、アーメルが狙って俺の技術を盗んだら…それだけだ。

国内に戻っても何にもならない。

もし偶然、俺の技術が漏れたのなら、俺が出ていくだけ意味がない。

そして、俺の同居人はちょっとボケた所もあるが、“加護持ち”なんだよ。

そんな国にとって重要な“戦力”に責任を押し付けて罰を与えるより、そのまま俺にすべての責任を押し付けておいた方が楽なんだ。

アーメル自身の失態も隠すという二重の意味でもね。

だから、彼女が危険な目に合うことはまずありえないよ。

俺の行動は変わらずさ。

むしろ、ここで下手に俺が動けばアーメルに気取られ逆に危険なんだよ。

以上、考察終わり!!


安心してくれリック。

ところで、もうそろそろ町に行くんだろ?

ついてくよ」

しかし、俺のその言葉を聞いても、リックはしかめっ面のままだった。

どんだけ、信用されてないんだよ。

「まあ、お前がそこまで言うなら俺はなんも言わねえよ。

じゃあ、作ったもんを運び出すとしようぜ」

俺たちはさっそく工房にある荷物を専用の馬車に積み込み始めた。


――――――――――――――――――――


半日以上をかけて山から下りた俺たちは、宿にクルルを預けると、顔なじみの武器屋の前に馬車を走らせた。

ちなみに、クルルを宿に預けたのは理由がある。

彼女は何かと目立つのだ。

武器の仕入れに余計なトラブルは避けたい。


店の前に到着すると、途端に俺と同じくらいの男が店からやってきて、いつものように挨拶をすると俺たちの馬車を店の裏手に運んでいく。

ここで奉公している男の子だ。

彼に構わず俺たちは店の中に入った。


「おーいドルソいるかー?」

リックの掛け声に、人のよさそうな初老の親父が奥から顔を出した。

「おう!!

いつもすまないなリック!」

「いいってことよ。

頼まれてた武器は裏に回してある。

小間使いに渡しておいたぞ。

確認してみてくれ」

「いや、いいよ。

お前さんを信用してるからな。

それとアル!

お前のあの魔道具…たしかカイチューデントウ…だったか?

あの遠くまで光を飛ばせる道具が便利だって評判でよ。

また作ってくれって依頼が来てんだ。

頼めるか?

もちろん前金はかなり出すぜ?」

「なら丁度いい、今ある分を先に下しておくよ」

俺の態度にリックが驚いたように声を上げる。

「なんだなんだぁ?

おめえこの品が売れるかどうかわからねぇのに追加の品を作ってあったのかよ」

「まあね…これでもかって程、確信してたよ」


ドルソの言葉に、俺はいくつか作っておいた道具を袋の中から取り出した。

前世の知識があるから、こういった便利な道具も作れる。

確かにこの世界にはランタンがあるが、残念なことに周囲を照らすだけの代物だ。

だから、指向性を持たせた光を発する道具を作ってみた。

そうすれば売れると踏んだのだが、当たったようだ。

もちろん、この懐中電灯は俺の名前で登録申請を鍛冶ギルドにしてある。

光る部分の魔石の形、周りの光を反射する素材すべて報告した。

アル・ランドールの名前で。


俺の言葉に、ドルソが声を上げる。

「おお!

それなら話がはえぇ!

なら金はどうする?

アソート硬貨か?

それとも魔石にするのか?

なんなら、隣の共和国のルド硬貨でもいいぞ?」

「おいおい、ずいぶんとサービスいいな」

ドルソの言葉に、思わず声が出る。

本来こういうものは、買い取る側が優位になることが多い。

それを利用し、相場が下落している硬貨をつかませる場合も結構あるのだ。

特に取引相手が社会的に弱い立場ならなおさらだ。


しかし、俺の驚きにもドルソは威勢よく答えてくれた。

「まあな!

注文があるってものあるが、ダートでもしっかりと根張って生きてんだってことを証明してやりてぇんだよ。

才能だのなんだので苦労したのはお前だけじゃねえ。

俺も自分にない才能様のおかげで、目が利かねえだの気が利かねえだの、偏見にまみれた時代を生きた世代だからよ。

応援してやりてえのさ」


「わかった。今のところ3つあるから、こいつを先に買い取ってくれ」

「おうよ。

ちなみに今はレグルニア貨幣が勢いに乗ってるぜ!

だいたい3つで3万アソートだな。

アソート硬貨だとそんくれえだがどうするよ?」


「なら今回はおとなしくアソート硬貨でお願いするよ」

今回は貨幣を代金としてもらったが、魔石も不変の価値を持つ、前世でいうところの金と同じようなものだ。

何故なら、その幅広い用途があげられる。

何しろ魔力の結晶なのだ。

たとえば、魔力の切れた魔法使いが、魔石を粉末状にした液体を飲み魔力を補充する。

他にも【回路】式の魔道具を使うための動力源になる。

そして、魔法は身近にあふれている。

だから、需要は必ず存在するのだ。


「ほれよ!

大事に使え!」

と、テーブルに金色に光るアソート貨幣が三枚置かれた。

「ああ、ありがとう」

そういって受け取る。

学院時代に自分が小遣い程度にもらっていたものとはわけが違う、自らが稼いだ貨幣に思わず口元が緩む。


その様子を隣で見ていたリックが呆れたように続けた。

「おいおい、それくらい慣れとけよ。

それと、金の使い方もな。

なんなら俺が今晩娼館にでもつれてってやろうか?

おめえもそろそろ色ってもんをだな…」

「いいよ。

クルルに殺される

っていうか、茶化すなよ。

俺に冗談は通じてもあいつには通じないんだぞ」

とリックの提案を却下する。

「ははっ!!

まったくだ!っとそうそう、ドルソ!

俺の荷物は、明日取りに来るぜ。

アル、そろそろ行くぞ!」

「おう、じゃあな!

また頼むぜ!

アルもな!」

「ああ…」

武器屋を出ると途端にリックがあくびが漏れる。


「ふぁ~

アルス、お前はどうするんだ?

俺は明日の朝には小屋に戻る予定だが…

先に待ってるクルル嬢ちゃんの事もあるし、どうすんだよ?」


リックの言葉に俺は素直に考える。

冒険者ギルドでは、文字通り、冒険じみた魔獣退治から、近所のお使いまで様々な依頼を受けることができる。

だから一番所属人員が多く、もっとも人々の生活に密着しているのが冒険者ギルドなのだ。

俺はまだギルドに登録しただけだ、今のうちに簡単な依頼をこなし、ある程度、感触を確かめておくのもいいだろう。


「いったん宿に戻って、クルルと一緒にギルドに行ってみるよ。

簡単なお使い程度なら今日中にできそうだからね」


「おう、そうか。

まあ、頑張れよ!」

そこまで話して、俺は宿屋でイライラしながら待っているであろうクルルを迎えに歩き出した。


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