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第四話 クルルとメアリのお話

リックは俺の話を聞くと、しばらく黙っていたがようやく口を開いた。

「…なるほどな。

大体の話は分かった。

なら問題ない。

お前さんがこれを売ろうとしなければ、おそらくは目をつけられることはないだろう。

だが、だとしたらお前のアイディアはおそらく解析されている可能性が高い。

国営工房はその性質上、レグリニア国内でしかこの機構の魔道具を許していない。

だから、国外ならば俺クラスの人間がこの剣を見ない限り、おいそれと呼び止められることはないだろう。

だが、リスクを考えるのならやめとけ。

それにお前さんならこれ以上の魔道具を作り出せる。

焦ることはないさ」


と、リックは何でもない事のように話す。

確かに、案はないわけじゃない。

だが、リック自身は元々“探究者”だからなのだろうか、アイディアに関する執着がないように感じる。


「ああ、となると問題がある。

さっき話した俺の同居人の話だ。

彼女がどうなったのか…

…俺が考えているよりもずっと早く、ここから離れなくてはならないかもしれない」


俺の深刻そうな顔にリックが慰めるようにつぶやいた。

「まあまあ、あんまり焦ってもしょうがねぇ。

今日はぐっすり休んで明日考えろ。

明日はここにある武器をいくつか下の町に下す。

お前もついてこい。

そろそろ外の世界に触れてもいいだろ」


「…わかった。

あと一つ聞きたいことがある。

ここ2年でレグルニアの国営工房から、この機構以外に何か発表されたものはないか?」


「んーいや、ないな。

この機構は魔道具に対する応用がかなり聞くと結構有名になったんだが、それ以外はなんも出てないぜ」

「…わかった。ありがとう」

俺は丁寧に武器をしまうと、フラフラと工房を後にした。

そして、全力で頭を動かす。

何が起きてる?

詳しくは聞けなかったが、このリボルバー機構の剣以外に、俺のアイディアは漏れていない。

もし、ほかも解析されているのなら、さっさと発表するか、特権保護のために国内の探究者かギルドに連絡が行くはずだ。

それすらないということは、状況が見えてこない。

だが、この“見えない状況”から見える可能性もいくつかある。


・アーメルが何かの理由であのノートを手に入れた可能性。

もしそうなら、クーノたちが危ない。

だが、別の可能性もある。

クーノが俺の死を知る、もしくは行方不明であることを知り、あの部屋を引き払った可能性だ。

それならば、俺にかなり執着したアーメルが俺の私物を回収させたかもしれない。

彼女たちが無事ならば、俺はどうでもいい。

のんびりとここで今までの生活を続けられる。


もう一つは、

・誰かが意図的に、俺のアイディアを少しずつ漏らしている可能性。

もし、俺の荷物を処分した業者が、コリンばあさんみたいな商人であった場合、俺のノートは回収され一番価値が高くなる時を待って、情報を公開するだろう。

むしろその状況の方がわかりやすい。

しかし、それだと国営工房から発表されるという事実の辻褄が合わなくなってくる。

「糞っ! 情報が少なすぎる!」

いくら考えても、~かも、もし~といった不確定要素が多くなってしまう。


募る不安を振り払って、俺が自分の小屋に入ろうとしたとき、部屋の中でクルルの声が聞こえてきた。


「クンクン…はぁ~アルスの匂い…」

「あらあら~クルルちゃんは本当にアルス君が好きなのね」

「当然だ、我の大切な番なのだからな!」

「あらあら~アルス君は幸せものね~」

「おい…」

俺は今まで考えていた深刻な問題がすべて吹っ飛んで、あきれたようにクルルを見た。


「あ!アルス?あわわわ!

ず、ずいぶんと早かったではな、ないか!

我はちょっとな!

そ、そう!

おぬしの衣服を洗濯しようと思ってな。

ア、アハハハハハハハ!」


「…ま、まあいいや。

メアリさん、またクルルと裁縫ですか?」

「ええ。

クルルちゃんと一緒にお裁縫するのが、最近の私の楽しみよ」

クルルと楽しそうに微笑む女性は、リックの奥さんのメアリだ。

俺がここに来たとき彼女は死にかけていた。

原因は風邪をこじらせただけだったが、この世界では重病の類に入る。


幸い、よく効く薬草はこの近くに自生していた。

お陰で簡単に治すことはできたが、リックは今でも感謝し続けてくれている。

そして、最近のメアリさんは、クルルに色々なことを吹き込みクルルも熱心に聴いている。

まあ、俺としては微笑ましい光景の一部だ…たぶん。


「えーとメアリさんクルルを借りても大丈夫ですか?」


「ええ、いいわよ。

クルルちゃん、明日は料理を教えるわ!

男は胃袋よ!

そこさえ抑えれば後は勢いよ!

一気にベットにGOよ!」


「うむ!

承知したメアリ殿!

男は胃袋だな!

任せろ!」


「…いくぞクルル」

二人の会話は全然問題ない、だがそれを俺の前で行ってしまうってのは問題あるんじゃないのか?

俺は妙にニコニコしたメアリと、元気にこちらに向かうクルルに何も言えずに外にでた。


「じゃあ、行くぞクルル」

「うむ、こい!」

俺は一気に距離を詰めクルルに掌底をかけようとする。

しかし、クルルも負けじと、俺の掌底をよけつつ、腕をとると俺の勢いを利用し背負い投げをかけてくる。

俺とクルルはこの2年、ずっとこの訓練を続けている。

もし今の俺たちの状態で敵に見つかっても、撃退できるようにだ。

幸いにもスキルが広まっているこの世界では、格闘術はあまり広がっていないようで、かなりの相手に応用が利くだろう。


「ハァっ…ハァっ…なかなかやるなクルル」

「フッ!

アルスは我をなめすぎじゃ。

我もただ黙ってやられるだけではないわ!」

お互いに軽口を叩きながら技をかけあう。

最初は手加減をしていたが、今では本気でかかっても俺が押されてしまう。

まったくもって悔しいが、クルルが優秀だからであり決して俺が弱いわけではない…と思いたい。


そんなことを考えていた一瞬の隙をついてクルルが決め技をかけてくる。

必死に逃げようとするが、完全に技が決まっており抜け出せない。

「あ゛~痛い痛い!ギブギブ!」

「フフフ…アーッハッハッハッハ!

我の勝利だ!」

「ああ…ったく強くなったな」

「う、うむ…もっと褒めてもよいのだぞ」

最初の高笑いはどこへやら、すぐ近くにあるクルルの顔はなぜか真っ赤だ。


「じゃあ、今日のところはここまでしておくか…」

「うむ。アルス、我は腹が減ったぞ!」

「なら、夕食は俺が作るからお前はメアリさんの…

って聞いてるか?」

「…」

俺は立ち上がりながら、クルルに話しかけるが、本人は絶望的な顔をして、動きが止まってしまった。

「おーい!クルルどした?」

「…そうであった…アルスは料理ができてしまうではないか!

こ、これは、非常にまずい…」

「?…ああ、それがどうした?」

「ハッ!?

まだだ、まだ終わったわけではない!

メっメアリ殿に相談せねば!

作戦を練り直し必ずや、落としてみせる!」

そう、つぶやくとクルルは一目散に小屋に駆け込んで行ってしまった。

「…まあ、いいか。

飯の支度しよっと…」


とりあえず、メアリさんにクルルの事は任せておこうと考え俺は小屋にある厨房に向かった。



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