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閑話 楽園崩壊のお話

「ふんふんふん♪」

鼻歌を楽しそうに奏でながら、テーブルを丁寧に拭いていく。

そしてテーブルが拭き終わると、汚れた布巾を丁寧に水で洗い汚れを洗い流す。

最初はよほど頑丈なものでない限り壊してしまっていたが、アルスの献身的な指導もありその手つきは、今では手慣れたものになっていた。

「さてと、これで一通り掃除終わりっと!」

クーノはそうつぶやくと、ゆっくりと椅子に座りこんだ。

「アルさん。まだかなー」

一人になり、やることもなくなった彼女がいつもつぶやく言葉だ。


アルスがいなくても、クーノにはフランソワやアロワといった友達がいる。

どちらもアルスがいてくれたからできた友だ。

だが、二人とも一つ上の上級生であり、同じ貴族と言っても身分も違うのだから訪ねにくい。

それに、アルスがいないと、クーノは授業中ずっと一人なのだ。

改めて、一緒にいるアルスのありがたみが身に染みる。

「でも、そんなこと言っていられないんですよね…アルさん」

アルスは自分のために、無茶をしたのだ。

今度は自分がアルスに救いの手を差し出さなくてはならない。


トントン!


クーノがそんなことを考えているとき、ちょうどドアがノックされた。

「はーい!」

扉に駆け寄りながらクーノは考える。

今日は休日だ。

フランソワあたりが気を利かせてきてくれたのだろうと。

「久しぶりだね!クーノ!」

クーノが扉を開けるとそこにはクーノが見知った人物が立っていた。

「お父様!どうしてここに!?」

驚くクーノの声にも関わらず父であるルバーン卿は、いつも娘に見せるさびしそうな笑顔を浮かべた。

「お前が心配でね。

実は、王都でデリオット卿のご子息が起こした事件に関して、極秘の会議があったんだ。

私もそれに参加していたんだよ。

いや、お前がそんな大変な目に合っているとは思わなかった。

大丈夫だったかい?」

父の心配そうな声に、クーノは元気に答えた。

「はい!お父様!

見ての通り、私は元気に暮らしてます。

そうだ!

私、掃除ができるようになったの!

あと料理も!

今度の休みに家に帰ったら母様やメイドのマーチをビックリさせるつもりなんです!

あっ!

このことは母様たちには内緒ね!」


「そうかそうか…私は嬉しいよクーノ」

そう元気に返す娘の頭をルバーン卿は何とも言えぬ気持ちで撫でていた。

娘の交友関係はあの少年(・・・・)を含めすべて知っているのだ。

だからこそ、これから告げることに、彼女は喜んでうなずくだろう。

だが、それは娘を決して幸せにはしないだろう…

だが、あの絵師に逆らえば、あの彼(アルス)のようにすべてを崩され、壊され、消される。

それだけは、避けねばならないのだ。

そこまで考えて目の前の娘に視線を移した。


これからいう一言は、絵師の最後の一筆になる。


そう、考えルバーン卿は口を開く。

顔はにこにこと笑顔で、目の前の娘も笑顔なのにもかかわらず卿の口の中はカラカラに干からびていた。

「じ、実はなクーノ。

今回来たのは、そのことだけではないのだよ」


「え?では何かあったのですか父様?」

「実はね。私は先の会議でランダル卿と話をする機会があってね。

お前のことを話したら、ぜひ息子の(・・・)嫁にと…提案をされてね。

どうだろう…お前が望むならこの話受けようかと思うのだが…」

ルバーン卿の突然の言葉にクーノの思考はフリーズした。

ランダル家と言えばアルスの家だ。

そこから自分に結婚の話が来ている…

「えぇ!!で、でもそれでは、ルバーン家の事はどうするのです?」


「ああ、心配はいらないよ。

実はな…お前が学院に行っている間に母さんが身籠った。

今はまだ詳しく言えないが、医者の話では男の子である確率が高いそうだ。

お前には家のことでいろいろ無理をしてきたんじゃないかと思う。

だから、今回の話もお前が望まないのなら…」


「い、いいえ!

う、受けます!わ、私のような不束者でよければ、ぜ、ぜひ!」

アルスと一緒の暮らしがずっと続く。

まるで夢のようだとクーノは飛び上がって喜んだ。

もしかして早くもブーケの効果だろうが…などと考えてしまう。


「そうか!いやぁよかった。お前がそう言ってくれて私のランダル卿によい返事を出せる!」

そういうとルバーン卿は踵を返した。

「あれ?父様、せっかくですからお茶でも、いかがですか?」

クーノの声にルバーン卿は振り向かずに答えた。

「いや、私もこの後また急いで領地に戻らなくてはならない。

お前の顔が見れただけでも十分さ。

では、しっかり勉学に励むのだよ」


「はい!父様!

父様もお気をつけて!」

その言葉にクーノは笑顔で返した。


娘の幸せそうな声を聴きつつ、なぜかこみ上げてくるものを拭きながら、ルバーン卿は学院を後にした。




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