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第五十五話 親子喧嘩のお話

「あら?遅かったのね、てっきりもう少し早く帰ってくるものだと思ってたけど…」

そういうとヴァルヴァデは、やってきた白い竜に人語で話した。

「別に帰ってきたわけではない!

その男を救おうとしたら、すでに馬車は焼け落ちていた。

地面が溶けるほどの火力は母以外ありえない。

だから戻ってきただけのこと!

それに我は母上を許したわけではない」

そう返す白い竜もまた人語で答える。

「あら、ずいぶんとうまくなったじゃない。

短期間とはいえ、さすが我が娘、もう人語を返せるよう器官を調整したのね。

それはいったい誰の為なのかしら…ね?」

そう優しそうに返す龍の声にも白き竜は鋭い瞳をやめなかった。

「ふん!ごまかされぬ。

今一度聞く。

なぜ、アルグレン共がただ捕えられただけと言わなかった?

なぜ、死んだ等と我に言ったのだ!

母上の力を持ってすれば、捕えられたと分かった瞬間に救い出すこともできるはず!

何のための竜族の長、なんのための選ばれし龍なのかっ!」

そう、返すとさもおかしいといわんばかりにヴァルヴァデが笑い出した。


「プッ!フフハハハハ!!

何故!?

今更ね。

今のこの情勢にいまだ危機感を覚えないのは我ら竜族と巨人族、あとは海に住んでる奴らくらいよ。


あの忌々しい賢者が作りし集団…“探究者”が才能を測る術を見つけて以降、人間どもは飛躍的に数を伸ばした。

そして帝国は相変わらず、“勇者召喚術式”を用いて異世界から強大な力を持つ人間を召喚し続けているわ。

何より人の国が優秀なものを、より優秀な形で伸ばそうと躍起になっている今、奴らに対し何か手立てを考えなくては、いずれ我々は滅ぶ。

それが他の竜や老龍共には理解できてないのよ。

確かに人は脆弱よ。

だが、だからこそ奴らは違った意味で我らより進み続けている。

それをわからせるために、彼らの一番大切なものをお粗末にも奪わせたんじゃない。

あなたに彼らは死んだと告げたのもその一つよ」


その言葉に白い竜は戸惑いを見せる。

確かに人間は現在勢力を拡大させている。

だが、最強生物として名高い龍である自分の母親が、これほど危険視しているとは思っていなかったのだ。

「しかし…」

反論しようとする白い竜の言葉を遮って龍は語り続けた。


「あなたも理解したはずよ。

彼との戦いで自分が真に死に直面した時に現れたあの恐怖を。

確かに、竜は強いわ。

でも強すぎるのよ。

だから恐怖を理解できない。

恐怖は生存本能を呼び覚まし、そして今まで繕っていたお飾りな見栄や意地をすべて壊すわ。

今回捕えられた竜たちは感じたはずよ。

特にあの負けず嫌いのアルグレンはね…

このままでは駄目だと。

そして今まで静観していた竜共も懲りるでしょう?

レグリニア王国のあの穢れきった乙女のお陰で我々は意識を一つにでき、そして人間どもに対抗するための人も手に入れることもできた。

彼は不器用な人間よ。

生き続けていればいずれ、悪辣な人間どもと戦うことになる。

人同士で殺しあってくれればこれほど楽なことはないわ。

そして、私の力を使い続けていれば、彼はいずれ竜になる。

我々にとっていいことずくめではないかしら」

そういって、ヴァルヴァデは倒れているアルスを見つめた。

しかし、その視線を遮るように白い竜は一瞬で奪い取ると威嚇するように叫んだ。


「グガァアアアアア!!

いくら母上でも、我の命を救ったものに対して失礼であろう!」


「あら?そうかしら、でもどうするの?

彼には私の力をすでに与えたわ。

あなたが入り込む余地はもうないけれど、あなたは命の借りをどうやって返すつもりなのかしら?」


「ふん!

無理やり力を渡しておいて何を言うか!

こやつが望まぬのであれば、我は母上の力を抑えるための契約を結ぶ。

母上の思い通りにはさせぬぞ!」

そういうと、白い竜はアルスをつれ、洞窟から飛び去って行った。

その様子を面白そうに見続けたヴァルヴァデは、楽しそうに娘が飛び去った後を見つめた。

「そう、それでいいわ。

私も、すべてがうまくいくなんて思わないもの。

でもどうするのかしらね。

あなたは、彼と一緒に居続ければ、必ず心惹かれるでしょう。

あなたも彼に負けず劣らず強がりだもの。

自分の心に気づいた時、あなたは私の力を抑え続けることができるのかしら?

その時は、真っ直ぐなだけでなく、もうちょっと柔軟になっていることを願うわ」


そうつぶやいたヴァルヴァデは、ゆっくりと洞窟の奥へ消えていった。



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