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第五十三話 夢の終わりのお話

今回少しグロイかもしれません。

今さらかよ!と言われそうですが…

アーメルは自らの馬車に戻ると、満足そうに指先についた血を弄びながら抑えきれないと言った表情で独り言のように呟いた。


「全く、我が思う以上に奴は面白い存在じゃったな」

アーメルのその言葉に、対面するように座っているフェルトが同意するように頷いた。

「フフフ…やはりアーメル様もそう思われますか。

私もそう思いますよ」

そう言うと、フェルトは膝に眠るソフィリアの蒼い髪をゆっくりと撫でた。

馬車がゆっくりと動き始め、心地良い揺れが馬車の中を満たしている。

丸一日以上洞窟を歩きまわった彼女にとっては、寝るなという方が無理な話だった。


「私はこれまで様々な人間を描いてきました。

権力欲が強い者。

独りよがりな者。

善人。

悪人。

幸せな人。

不幸な人。

だが、彼はまるで違う。

彼は彼の望む全てを手に入れてきました。

それも誰にも手を借りず、全て自分の力だけで…

そんなダート…いえ、“無能でありながら全能者同じ様にあり続ける”なんて初めてですよ。

だが、彼をそのような形にしたのは紛れもなく“集団からの疎外”が原因です。

だから彼は、彼自身に優しくしてくれる人間をおしみなく庇う。

その庇い方、救い方、守り方は異常です。

私は彼のその行動から今回の絵図を描きました。

どうでしたかアーメル様?

私の絵図を彼は正確に理解していましたか?」

その問いに笑いをこらえきらない様子で、アーメルは答えた。


彼女の顔や服は、アルスの血で赤く染まっており、異様な様相を呈していた。

「ああ…あ奴は全て理解しておったぞ。

そして、お前の予想通り、全て分かった上で、自らあの娘どものために命を差し出しおったわ!

王宮の頭でっかち共もこれくらい潔いとやりやすいのじゃがな…」

「姫様いい加減、御顔を拭きませんと…」


従者のネティスがせめて顔だけでも、とタオルを差し出すがアーメルは見向きもせずに、布にくるまれたアルスの腕をフェルトに触れるように渡した。

「ほれ、約束の品じゃ。

精々、こいつであの馬鹿坊ちゃまを喜ばすがよい」

「おお!ありがたき幸せ!」

アーメルの言葉に、フェルトは声を弾ませ、布を手探りで一枚一枚丁寧に広げ中身に触れた。

「おぉ…流石ですねアーメル様。

これさえあれば、私はまたあの欲に純粋な声が聞ける事でしょう。

それにしても…これがアルス君の腕ですか…

豆だらけの指に、荒れ放題の肌…これが彼の強さを象徴している。

強さと同時に脆さも持った強者の腕です」

「まあ、その奴ももうすぐ蒸し焼きに…」


ガクン…


そこまで呟いた時、馬車の揺れが止まり外から兵士が声をかけた。

「アーメル様!“読み手”マルヴェリオ様が到着いたしました!」

「ほう…我が翼の一翼がついたようじゃな…では、報告を聞くとしようかのう…」

そうアーメルが呟くとお付きのネティスが扉に手をかけた。


「あ゛~まじだりぃー!姫さまぁー早く開けてくれよ!こっちは大仕事こなして、今にも死にそうなんだよ~」

と外から明らかに場違いな声が聞こえてきた。

「無礼者が!姫様に向かってなんて事を!」

「よい、ネティス。我が“深紅の翼”の者たちは我が認めたもの達…

それなりの権限は与えておる。

そしてこれも我が許した権限の内の一つじゃ。

それを弁えて我に物申すのか?」

「…申し訳ありません」

そう、けだるそうに言ったアーメルにネティスは一礼すると馬車の扉を開けた。

「あ゛―っと、マルヴェリオただいま戻りましたぁ」


と呟きながら、入って来た男は、声に似合わず、見た目は若く声さえ出さなければ、好青年という言葉がぴったりの男だ。

しかし、周りに漂う印象がその全てを台無しにしていた。

パリッとしていたであろう、貴族の服も彼の猫背により皺が目立ち、整えていない髭がその悪印象をさらに悪化させていた。

「姫さまぁ、マジ人使い粗いっすよー。竜共との交渉+αなんて、もっと他の糞ったれの“肉狂い”とかにやらせてくださいよ~」

「相変わらずじゃのう、マルヴェリオ。しかし、“肉狂い”は我が父上の命で共和諸国とエルフ共相手に通行条約の締結にいっておるでな。

お前しかおらんのよ。

で、どうであった?」

その言葉に“読み手”ことマルヴェリオは眠そうに書類を出して読み始めた。

「うぃ~っす。姫様の予想に反して、竜共は大人しく街から離れて行きましたよ」

その言葉にアーメルが眉をひそめた。


「…なにも要求しなかったのか?我らが、子竜共を罠にかけた事は向こうも承知しているはず、何もないはずがない!」

その言葉にもマルヴェリオはけだるそうに答えた。

「えぇ…そうっすよぉ。竜共の保有する“関税率の優先的決定権”の廃止にさえ、あいつらはピクリとも反応しませんでした。

それどころかその条件さえ承諾する始末ですよ。

…それだけ言い残して下僕の飛竜共を街から引き払いましたよ」

その答えにしばらくアーメルは黙っていたが、唐突にマルヴェリオに問いかけた。


「…長であるヴァルヴァデから何か言伝を預かった竜はおったか?」

「えぇ?いいえありませんでしたが…」

「そうか……我はどうやらトカゲ共をみくびっておった…」

と、マルヴェリオの答えに、しばらく考えていたアーメルだったが、顔を上げると大声で叫んだ。

「姫様?」

「直ちに、アルスを処刑した場所に戻るのじゃ!我の考えが正しければ、一刻も早く奴を殺しつくさねば成らぬ!急げ!」



その場所は一面焼け爛れていた、草木は燃え落ち、むき出した大地は一部解けマグマのように真っ赤に染まっている。

つい先ほどまで、ここには植物が少なからず生えていたとは到底思えない場所に成り変わっていた。

「姫様それ以上は危険です!馬車にお戻りください!」

そう叫んだネティスの制止をまるで聞いていないかのようにアーメルは馬車を降りた。


「とかげぇえどもぉぉ!あれは我の玩具であるぞぉおおおおお!」


今までの余裕をかなぐり捨ててアーメルは叫んでいた。

その場にいる誰もが、何も喋れない。

今まで冷静沈着の印象しかなかった人間が、突然叫び出したのだ、その今まで聞いた事もない叫びに誰もが圧倒されていた。

唯一人を除いては…

「…ねえさま、どうしたの?」

アーメルの叫びに、眠そうに眼を覚ますソフィリア。

「…ソフィリアか?

すまぬのう。少し気に入らぬ事があった故、つい取り乱してしまったわ」

ソフィリアの声に少しは正気を取り戻したのか、アーメルがゆっくりとソフィリアの方に振り向いた。

「!!っお姉さま!どうされましたの?その血は!」

そう言うや否や、馬車から飛びだしたソフィリアはアーメルの元に駆けよると、アーメルに抱きついた。

「フフフ…大丈夫じゃソフィリアよ。

お主がこうして抱きしめてくれたからのう。

我も安心出来ると言うものじゃ。

…しばらくこのままで抱きしめさせておくれぇ」

とソフィリアから見えない位置で凶悪な笑みを浮かべ、そう語りかけると、体についた血をソフィリアに擦りつけるかのようにギュッと抱きしめた。

「ええ、大丈夫ですわお姉さま。

私もう子供ではありませんもの。

…それに私気付いたんです。

今まで皆に酷い事を言ってしまっていたと…

だからお姉さまにも…」


「つまらぬ…」


ソフィリアが姉の胸の中で囁いた言葉に、アーメルは醒めたように呟いた。

「お姉さま…?

どうかされましたの?」

戸惑うソフィリアを無理やり引き剥がすと、アーメルは無表情でソフィリアを見降ろした。

「つまらぬ…

人形は、滑稽であるからこそ愛でる価値があると言うもの…

夢から醒めてしまえば、これほどつまらぬものはないのう…

…アルスめ。

我の楽しみを奪い取りおってからに…

…もし、奴がこれまで見通しておったとしたら、今度の絵図は完全に我の負けであろうな。

いやはや、恐れ入る。

成ればこそ、今回彼奴を殺せなかった事は、後々我の障害になるであろうな」


「あ、アーメル姉様!

ど…どういたしましたの?

それと、どういう事です!?

アルスはどうなったのです!?」

ソフィリアは豹変した姉に、戸惑いを隠せない。


だが、アーメルはそんなソフィリアをつま先から頭まで、ゆっくりと眺めるとふと呟いた。  

「まあ、良い…

まだ、楽しめる点もある。

のう、ソフィリアよ。

お前の体についたその血は、一体誰のものだと思う?」

アーメルは今までソフィリアには決して見せることのなかった凶悪な笑みで、そう問いかけた。

投稿が遅れてすみません。

此処からあと、2話程酷い話が続きますが、その後は主人公がボチボチあらがっていく予定です。


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