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第五十一話 対峙のお話

あの何も、誰もいなかった草原に大勢の人がいる。

たぶん千人以上は居るだろう。

そして、その中心に真っ赤な馬車が見えた。

その横にもう一つ、俺たちが最初に乗って来た馬車と全く同じ馬車も見える。

だが、その後ろ、馬車よりはるかに大きい何か(・・)がいくつも見えた。

厳重な魔術結界が施されているのだろう。

魔法陣が光の壁を形成し、さらにその光の面が立方体を形成していた。

明らかに、何かが封印されているようにしか見えない代物だ。


「あ!アルス見て!あの馬車、アーメル姉さまのだわ!

私たちやっぱり見捨てられてなんて無かったのよ!」

そう元気に呟くソフィリアの言葉に俺は平静を装って答えた。

これは絵の中だ。

俺は今まで嵌められていた。

そして、狙いが誰だったかがようやくわかったのだ。


「ああ、そうだなソフィリアが正解だ。

お前は立派に成長してる。自信を持てよ。………俺がいなくてもな」

「え?何言ったの?最後聞こえなかったわ」

「良いんだ…気にするな。とにかく下に降りよう」

嬉しそうなソフィリアとの言葉のやり取りもそこそこに俺たちは地上へ向かった。

俺たちを下ろした飛竜は一声鳴くと空に飛び去って行った。

おそらくは主であるヴァルヴァデの元に戻るのだろう。

そう思った矢先、入れ替わるように兵士が俺たちを取り囲んだ。

その兵士たちに向かい、俺は声を張り上げた。


「私は敵ではありません。

今回、こちらにおられる第四王女、ソフィリア様のお目付け役として同行しておりました。

ランダル家が嫡男、アルスといいます。

今回の龍痕街視察の途中に我々は魔獣に襲われ、生き残ったのは第四王女ソフィリア様と私のみです。第四王女のお命を危険にさらし、誠に申し訳ありません!」

そう言って頭を下げる。

「全くじゃ」

若い女の声が聞こえた。

その声と共に、兵士たちが綺麗に整列し、あの紅い馬車まで一気に人が割れていく。

そして、馬車の中から従者を連れて全て紅い女性が出てきた。

「アーメル姉さま!」

ソフィリアが嬉しそうに声を上げる。


第二王女アーメル、確か王族の中でも一、二を争う軍拡主義であり、才能主義である女。

…そして、恐らくだが、ヴァルヴァデが“歪みきった乙女”と称した人物。


「ソフィリアよ、よく無事でおったの…わらわは心配しておったぞ」

そう言ってにっこりと優しそうな頬笑みを浮かべるアーメル。

「はい!姉さま!大変でしたけどソフィリアはこの通り元気ですわ!」

ソフィリアの元気な声に

「うむ、ではソフィリア、疲れたであろう?我が馬車にて王宮まで送ろう。

そこのダートは…」

「彼は私を助けてくれたのです姉さま!」

ソフィリアのその言葉にアーメルがこちらを見た。

顔はニコニコと善人の笑みを浮かべていたが、目だけが嗤っていた。

「ほう、そうか…では、彼も元の場所に送り届けよう。そのための馬車も用意してある。

さ、ソフィ此方に…」

そう言ってソフィリアに、手を差し出すアーメル。


そんなアーメルに笑顔で答えてからソフィリアは名残惜しそうに、俺に呟いた。

「はい!姉さま。 アルス、ありがとう…私を守ってくれて。

それでね、私考えたんだけど…」

「ソフィ!何をしておる?みな今までお主たちを探していたのじゃ、あまり手間をかけさせるでないぞ」

「はい!姉さま!やっぱり準備が出来てからにするわ!きっとあなたもびっくりするから」

「そうか、楽しみに待ってるよ…君のやりたいようにすればいい。

君は十分強くなった、もう子供じゃない。」

「フフフ…そうさせてもらうわ」

そう言って笑顔で俺の手を離れアーメルの元へ駆けてゆくソフィリア。


「さあ、お前はこっちだ」

後ろで兵士が死刑宣告のように俺に告げた。


―――――――――――――――――――――――――


どれくらいゆられていたのだろうか、窓も全て閉ざされた棺桶のような馬車の中で俺はひたすら運ばれていた。

やがて馬車がとまり、ドアが開くと、アーメルが従者を伴い馬車に入って来た。

「こ、これはアーメル様」

俺は最敬礼で迎えるもアーメルの反応は冷やかだった。

「良いぞ、お主はもう守るべき自国の民ですらない。わらわに対し礼儀を示す必要ももうないぞ」

その言葉に体が一瞬だけ硬直する。

「わ、私は追放ですか?」

俺の言葉にアーメルはゆっくりと首を振った。

「いんや、お主は抹消じゃ。ランダル家もそれを了承した。

お主は無茶をやりすぎた。

無能ごときが有能者の道を閉ざす事は国の方針に反する」

「かしこまりました。謹んで罰をお受けいたします」

俺はただただ頭を下げ続けた。


俺の姿にアーメルが面白そうに口元を歪める。

「おや?どうしたのかえ?もっと自分を主張してよいのじゃぞ?

例えば、馬車が魔物に襲われた時、周りには兵士は誰もおらず、ソフィリア一人を守るのが精一杯だった…とかな」

その言葉に俺は首を振った。

「いえ、今回の責任は全て私にあります」

俺の言葉にますます口をゆがめるアーメル。

「ふん、つまらぬの。

まあ、ある意味そうでなければ此処に来た意味がないからの。

お主が必死に足掻くのは、あの娘どもを守りたいからであろう?

お主が自分が助かりたい一心で、弁解すれば、今回の“ソフィリアを危険に晒した”という罪は全てあの娘たちに行き着く。


確かにお前はフェルトが言っていたように聡明だ。

そうじゃな…お前の望みかなえてやらんでもない。

その代わり今回、起きた事の裏側を全て話して見せよ。

絵師の絵図と見事、同じであればお主の望みをかなえよう」

その言葉に俺は再度深々と頭を下げた。

「ありがたき幸せ…」

そう感謝の言葉を述べると、俺はアーメルに向き合った。

「今回、絵師が殺したかった人物は二人います。

一人は俺、もう一人はクレオです。

理由は簡単です。

俺は無能で、クレオは帝国の間諜だった」


やはり、ニコニコとさも可笑しそうにアーメルは嗤う。

「ほう、何故そう思う?クレオが自らそう口にしたのかね?」

「いえ、そう考えたのは状況証拠しかありません。

彼は死ぬ直前まである民間伝承…子供を脅す殺し文句を話していました。

“悪い子は悪龍ヴァルヴァデに食べられてしまいますから”と

私は知識には自信がありますが、それでもそんなお伽話、聞いたこともなかった

そして、私はあの龍痕街の中である龍に出会った…

お伽話の悪龍ヴァルヴァデに。

奴は言っていました。

北の方ではちょっと名の知れた龍だと。

北と言えば、今も昔も帝国の領土が広大に広がっている。

だから、クレオが帝国の民ではないかと考えたのです」

「ほぉ…

なかなか面白い妄想じゃの。

じゃが、あまりにタイミングが良いのう。

そんなに危険な企みなら聡明なお主が話を聞いた時点で、気付いてもよさそうなものじゃが…」


「いいえ、今回私は襲われる瞬間まで気付きませんでした。

そして、気付いたとしても俺は此処に…依頼を受けたでしょう」

「ほう、面白い。わざわざ死にに来るというのかえ?」

アーメルの問いに俺は頷く。

「絵師はそこまで見越していました。

だからフランソワ達を使った。

フランソワ達からの話なら俺は断れないからです。

彼女たちが話を持ってきたのが、父親達が会議をした時期とほぼ同じなんです。


それを聞いた彼女たちは俺をなんとかしたかった、だがそんなに都合よく名誉挽回の機会が転がっているでしょうか?

おそらく絵師は、会議の話をフランソワ達に人伝手で知らせた。

そしてタイミング良くソフィリアの視察の話もちらつかせ、彼女たちに食いつかせた。

俺に話す事も含め全て計算して…

ある人が言っていました。


俺は全てを捨てて、全てを手に入れていると…


そんな奴を殺すのは至極簡単です。

俺が全てを賭けてでも守りたいと思わせるものを目の前に置けばいい。

後は俺が勝手に命を賭ける。

そして、俺は自分のものであるならどんなものでも捨てるでしょう。

今までもそうしてきましたから、本当に俺にぴったりの絵図ですよ。

だから、俺がこの話に乗った時点で、俺は死ぬ事が確定していた」


「ほう、あくまで人為的に起こった事と言い張るのかえ?

竜共がお前たちを襲ったのはあくまで偶然とかたづけることもできるのではないかえ?」

その答えに俺は首を振った。

「それはあり得ません。

襲ってきた竜は皆、一様に縛られていた。

彼らは誇り高い、ゆえに基本的に嘘をつく事がありません。

そして…その事が、アーメル様が今回の絵図に関与していると教えてくれていた」


ニコニコと笑顔を崩さずにアーメルが俺の目を覗きこむ。

「ほう…」

「アーメル様は最近、竜共の不意を突いて子竜たちをさらいましたね。

周りには討伐したと言っていますが、聞いた話の通り、竜達が勝手に我が領内に侵入したのならもっと大々的に話を広げているはずだ。

干渉帯としての龍痕街の実権を竜共に握られているのだから、すこしでも強みを持っておきたい。

しかし、何も聞かない。

ソフィリアから聞いて初めて知ったくらいですから。

そこまで隠すには何か裏がある。

貴方は竜共に子竜たちが勝手に領内に入って来たと言って、取引を持ちかけた。

龍痕街の実権と、俺たちを襲う代わりに子竜を解放しようと。

俺も、可笑しいと思いました。

いくら、過失があると言っても子供を殺されたなら当然のごとく竜達が黙っていません。

戦争になるでしょう。

それでは、ただの資源の無駄遣いだ。

貴方としても本意ではない。

だから取引を持ちかけた…

先程草原に展開していた部隊は貴方が龍痕街に駐留させる予定の兵士たちです。

そして貴方が、本当の…龍痕街を視察する任を負っている」


「なるほど、確かにお主の言う通り、あそこにいた兵士たちは龍痕街に駐留させる予定の兵士たちじゃよ。

じゃが、お前の話には少し疑問が残るのう。

私の愛しいソフィリアをそんな危険な場所にわざわざ放り込むなど到底理解できん。

しかも守っていたのがお前のような無能であろう?

計画した絵師はお前が死にソフィリアも死ぬと考えぬほど馬鹿なのかのう?」

「いいえ、だから貴方は“道化”に真の意味でソフィリアの護衛にあたらせた。

もし俺が、死んでも道化なら彼女を守りきれるからです。

だが俺が生き残り、ただ見ているだけだった道化が血走って俺の前に姿を現した…」

そこまで言って俺はあの怖気を思い出した。

あの、均等な不自然なまでの笑顔、思い出しただけでもぞっとする。


俺の話を全て聞いたアーメルは、一瞬だけ俺を鋭く睨みつけると口を開いた。

「お前の話は分かった。

良くできた作り話じゃ。

証拠は何処にもない。全てお前の妄想じゃ。

じゃが、確かにあの娘たちはおしい。

才能も頭も悪くない。幸いにも進んで咎を負う者までいる事じゃしのう。

彼女たちへの罪は咎めぬ事としよう…

腕を出せ…」

「は、はい。かしこまりました…」

と俺は恐る恐る左腕を出した。

「ネティス!切り落とせ!」

「はっ!」


スパッ


その瞬間、俺の腕は床に転がり落ちた。


悩みました。




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