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第四十九話 竜との戦いのお話

竜の叫びを聞きながら俺は不敵に笑う。

その俺をつぶさんと竜の爪が俺に向かってきた。

<さあ、どうするのだ?早く貴様が足掻く姿を見せろ!>

その言葉に俺は剣を捨て、全力で回避する。

自分が先程までいた場所に、竜の巨大な爪が刺さっていた。

「なあ、何故お前は成竜にこだわる?」

突き刺さった場所から必死で逃げながら竜に話しかける。

<ふん!決まり切った事を、成竜になる事が我が望みだからだ。

成竜になって初めて我は竜となる。

我は未熟…未完成である事が我慢ならん。

それは最強生物である竜とは言えん。

だから我は盛竜となり完全となるのだ>


「それは…お前がアルビノだからか?」

その言葉に竜の瞳孔がすっと細くなる。

俺はその眼光に背筋が凍るような悪寒を感じ、しゃがみこむ。

するとその上を竜の尾が通り過ぎて行く。

その速さに風が巻き起こり、尾に当った剣が真っ二つに折れるのが見えた。

剣に自分の姿を重ねてぞっとする。

あれに当ったら一溜まりもない…

<貴様…劣等種の癖に我を愚弄する気か?>

俺は背中にびっしょりと汗をかきながらも顔はにっこりと笑顔に作り答える。

ここはどうしても、時間を稼がなくてはならない。


「そんなことはない。

ただ、予想したんだ。

最近、人間の軍隊が若い竜を大量に退治した。

人間たちの話じゃ竜が勝手に領内に侵入してきたって話だが、不自然な点が多い。

繁殖力の低い竜共が自分たちの大事な子供を、勝手に人の領地にはなったりするか?

そんなはずはない。

たぶん幼竜達は集団でいた所を人間どもに襲われた。

そして、その場所にお前は居なかった。

だから此処に居る。

それはつまり…」

そこまで言って、俺は目にもとまらぬ速さで壁に叩きつけられた。


ガハァ!


突然の衝撃に肺の空気が強制的に吐きだされた。

そして、案の定、俺の呼吸ができずに、頭が強制的に真っ白になりかける。

幾ら空気を吸おうとしても、上手くいかない…何かが俺の胸を圧迫している。

俺を竜の爪ががっちりと掴んでいた。

<戯言はそこまでだ。

劣等種…いや、ただの弱者よ。

貴様は先程戦った、同じ劣等種の人間より格段に劣る。

貴様のその邪な思考…態度何もかもが我を苛立たせる。

喰らう事さえ躊躇させるほどにな!>

そう言って俺を睨みつける。

その圧倒的な眼力に俺の心を恐怖が支配する。

怖い!

怖い!

死にたい!

死んで楽になりたい!

竜の力なのだろうか、俺の頭にふと、そんな考えを浮かばせる。


だが逆に俺は冷静さを取り戻していた。

俺は自分で死ぬようなことは決してしない。

あの時、自分を蔑んだ奴らを許さないと決めたその時に誓った事だから。

これは俺の意思じゃない!

だから次の言葉を…圧迫されながらも肺に吸い込んだ僅かな空気を吐きだし紡ぐ。

「お前は、その色から他の竜に疎外された…

だから、お前は人一倍成竜にこだわるんだ。

蔑んだ奴らの誰よりも早く、竜になるために…」

その言葉に俺を捕まえた竜は笑った。

<ふ、フハハハハハハ!いかにも矮小な人間が考えそうな事よ。

我が成竜を強く望むのは我が同胞の敵を討つため。

集団で襲いかかる小賢しい人間どもに、対抗する力を一刻も早く得るためよ。

そのような矮小な考えで生きて来たとは、つくづく卑しい者よな>

そして竜は俺を見た。

俺の瞳を覗きこみさらに奥…心を覗かれているかのような怖気を感じる。


<今度は我の番だ。

貴様のその姑息な心を晒してやろう。

貴様は、蔑まれている者…弱者を見ると助けずにはいられない。

なぜなら…

それは貴様がその者を助けることでその者より、少しでも上だと思いたいからだ。

他者を助けられる余裕があると思いたい。

その事で優越感に浸りたい。

だから全力で助ける。

そうすることで貴様は自分の生に意味を見出そうとした。

だが、そんな矮小なもの、すぐに見破られる。

見破られて、いつか貴様は助けた者に助けられる。

そして知る。

自分が助けた者がいかに大きな存在か、そして自分がいかに小さい存在かを。

最も貴様は、此処で我に喰われて死…>

そこまで言って竜の動きが突然止まった。

掴まれていた腕の力が弱まり俺は地面に落とされた。

地面に落されながらも勢い良く空気を取り込み、

「っハァ…ハァ…ようやく効き始めたか…」

俺はボロボロになった体を無理やり動かして立ち上がると竜に告げた。

「俺の勝ちだ」

<な、なにを…ま、だ…>


ズゥン…


そこまで言って竜が力なく倒れた。

所々痙攣し、息をするのもつらそうだ。

<き、貴様…なにを…し、た…>

その言葉に俺は平然と答える。

「俺は何もしちゃいない。お前が勝手にやったんだ」

<な、に…?>

「お前がさっき食った男は体中に虫を飼ってる薬蟲師だ。

宿主である薬蟲師を食べたことでお前は感染した。

平たく言えばトキソプラズマ症にかかったんだ。

通常のトキソプラズマは体内に寄生虫が入ってから発症まで随分と時間を要する。

そして、免疫力や魔力、その他様々な力を持った竜には、その類の寄生虫が入る隙はない。

だが、薬蟲師が体内で飼っている蟲は特別だ。

対人や、魔獣用に体内で品種改良を行っている。

それでも成竜には効果がないだろうが…お前がまだ幼体だ。

だからこそ、その抵抗力よりも蟲の力がわずかに上回った。

皮肉なことにな…」


そこまで言って俺は剣を探す。

<我は…死ぬのか…>

「ああ…一度宿主の体内で抵抗力に勝った蟲は強力だ。

宿主を餌とし、力を付ける。

それが竜であればなおさらだ…だが」

そこまで言って俺は剣を見つけ、その刃に手をあてる。

血が出るのも構わず腕を一通り傷つけると今度は剣を竜の腹に当てた。

<何を…>

「黙ってろ!」

そう言って剣に魔力を流し込む。

すると、その魔力を魔法陣が感知し剣に付加された能力…その真の姿を現した。

刃の部分が輝き、固い竜の鱗ごと、その腹を内臓に響かぬ程度に切り開いた。


<っ!>

「待ってろ!もう少しだ。

品種改良された蟲は皆揃って、人間の血を好む。

それは、薬蟲師が人間の体を治す事を生業としているからだ。

だから、魔獣の血より人間の血を好む…

こうして傷口に人間の血を垂らしてやれば…ほれ出てきた」

ミミズのような蟲が俺の腕に張り付く。

だが、竜の体内で想像以上に大きく成長した蟲は俺の傷口よりも大きく、俺の傷口に入る事が出来ずにヒルのようにぴったりとくっついたままだ。

俺はそれをひっぺがすとまた傷口に腕を付けた。

「薬蟲師が体内で飼っている蟲の中でも、対魔獣用の強力な蟲を飼えるのはスキルや魔法を生涯にわたって覚えないダートに限る。

だが、一度にたくさんの強力な蟲を飼えば、制御を失い自らが喰われる。

だから、ダートの薬蟲師でも最低限二、三匹しか飼っていない。

お前の体内に入ってからまだ時間もたっていないし、卵も生んでいる様子は見られない。

ほれこいつで最後だ」

そう言って最後の蟲を腕から引っぺがした。


腕を傷口に近づけても蟲が出ない事を確認すると言葉を紡ぐ。

「後は大人しくしてろ。

その内にその傷もしびれも取れる。

お前には生きててもらわなければいけない。

お前を殺したら、俺はそこで殺気を放っているお前の親に殺される」

そこまで呟いた時だった。


「そうね。貴方がその子を殺してたら、命は無かったわ」

そう、誰にでも聞こえる声で空から舞い降りてきたのは真っ黒な竜…いや龍だった。

「はじめまして。ダート、我が名はヴァルヴァデ、北の方ではちょっと名の通った龍よ」



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