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第五話 一人はつらいよのお話

今日の授業が終わり、皆が教室を出てくる。

この後、クラブ活動や友達と学院内の商店で買い物などこれからの予定を話している生徒をしり目に俺は一人、魔法訓練場を目指した。


魔法訓練場…

そこは学院内に設置された、危険度の高い魔法を練習するために作られた場所だ。

各所に結界装置が配置されており、魔法攻撃に対する防御力としては万全の備えをしている。


ここで俺はいつものように体内の魔力を感じる事から始める。

俺が現在使える魔法は初級魔法と攻撃魔法の初歩だ。一年の必須課題は攻撃魔法の初歩である。

簡単に説明すると

<ファイア>…炎を発生させる。

<フリーズ>…物を凍らせる。

<エアショット>…空気の塊をぶつける。

<アクアショット>…水の塊をぶつける。

などがある。たしか3つ以上で合格なはずだ。


初級魔法の主な点は物理的に魔法としての結果のみ発動させることを主とし、簡単にイメージできるものが中心らしい。

しかし、それでも才能が30の俺には一つの魔法に一カ月を要した。

今練習をしているのは中級魔法だ。

中級は二年の必修課題であり、これができなければ進級は望めない。

初級一つに一カ月かけたとなると中級は間違いなくそれ以上かかる。

毎日全力で取り組まなければ正直厳しい。

とにかく練習あるのみだ。


体内の魔力が感じられるようになったら次は完成形を頭の中でイメージさせる。

目指すは炎の槍…

詠唱で魔力とイメージを結合させる。

“炎よ!集い、槍となって眼下の敵を打ち倒せ!”<ファイアランス>


ポワッ!


しかし自分のイメージに反して、出現した火は炎とは呼べないくらい小さいもので瞬く間に空中で霧散してしまった。

まだまだイメージが足りないのか…魔力なら腐るほどあるのに…

落ち込む気持ちを奮い立たせて、俺は一人魔法の練習を続けた。



「おーい!!お前そこで何やってる!!退校時間はもう過ぎてるぞ!!」

そう言われて振り向くとそこには学校の先生らしき大柄な男性がカギを持ってこちらに歩いてくるのが見えた。


どうやら校舎から退出する時間をとっくに過ぎていたらしい。

「すいません。魔法の練習をしてたら夢中になっちゃって」

向かってくる教員らしき男性に向かって一応謝る。


「そうか、あまり夢中になりすぎるのはよくないぞ。今後気をつけるようにって…なんだお前ダートだったのか。それじゃあ授業について行くのも大変だろ。貴族か平民か知らんが恥かかんうちに学園から去った方がいいぞ。それがお前のためだ」


ダート…それは俺のような平均以下の才能を持った人間につけられた、いわば差別用語だ。


まあこの世界では平気で誰でも使うから気にしてたら始まらない。

「ありがとうございます。ですがこの道は自分で決めた道です。だから貫いてみたいんです」

「わかった。だがあまり無理はするなよ。ここの片づけは俺がやるからお前はもう帰りなさい」

「はい、ありがとうございます」


先生の親切な忠告に本心で応えると、荷物をまとめ始めた。

先ほどの会話はどちらかというと親切な物言いだ。

この学院では才能は一種のステータスであり、才能が低い者にとっては居心地が悪い。

さらに授業についてこられなければ、周りも陰で噂をするようになり、最後には退学という道しか残らない。


そうならない内に早めに学院を去った方が、自分のため。

誰もが言うことでありこの世界の真理。

だがそれでもあがき続ける。

自分…アルス・フォン・ランダルはそういう人間だから。

そう言い聞かせ、俺は寮に向かった。


ああ…やっちまった…

もうすでにかなり遅い時間であり、商店は軒並み閉店していた。

今日の晩飯は、昨日買ってあった干し肉とパンで済ますか…


本当なら今日は、帰りに購買でアルルの実を買ってメイさんに教えてもらったパイを作るはずだったのに…


嘆いてもしょうがない、俺は恵まれている方なのだ。

俺が住んでいる貴族専用の寮はトイレ、風呂、台所完備のしっかりとした個室だ。

トイレ、風呂はわかるが、大抵の貴族はお付きのメイドが食事を作ったり、学食で済ますため台所を使う貴族は少ない。

それこそ俺のような貧乏貴族が使うのだ。


さらに言うと平民専用の寮というのもある。そちらは風呂台所すべて共同なのだとか。

そういった自炊する人のために学院ではさまざまな商会と契約し学院内に店を開いている。


はあ…世話してくれるメイドが欲しいな。メイさん何やってるんだろ。たしか父上と一緒に新しい屋敷に行くって言ってたけど。

今の自分にはあまり遠い過去を思い浮かべながらせっせと食事の支度を始めた。


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