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第四十七話 ダートとダートのお話

「何の話だ?」

俺は内心、心臓を掴まれたと思うくらい驚いたが平然と返した。

今まで俺の周りにダートなど居なかった。

確かめようがなかったのだ。

だから、当然の事…当たり前のことだと思っていた。

「兄弟、教えてくれないか?あんたは、才能が見えるダート…あの魔法を駆使し、俗に言う才能の光が見えるか?

それとも見えないダートか?」

だが、奴の質問で分かった。

「な、に…を言ってる?ダートは皆、才能を視る魔法が使えないんじゃないの…か?」

震えるような俺の質問に入れ墨の男ファルデロは安心したような笑みを浮かべ俺に抱きついてきた。

「ちょっ!」


「ああ…兄弟あんたに会えるとは、神に感謝しないとな。俺たちはやっぱり兄弟だ」

「どういう事だ?なにを知ってる?」

俺の戸惑いを上乗せするかのように放心していたソフィリアが顔に声を上げた。

「あ、あんたたち!男同士で何抱き合ってんのよ!ふ、不潔だわ!」

「お、おいあんた!いい加減離れろ!」

「おっとすまんすまん!」

そう言うと先ほどよりも陽気な感じで謝罪すると、名残惜しそうに俺から離れるファルデロ。

「なんなんだよ。どういう事か教えてくれ!」

「いやー本当にすまない。なんてったって初めてなんだ…俺と同じダートと会うの」

「何がだ?」

「そっか、そっか… 兄弟は自分以外のダートに会うのはこれが初めてか?」

その言葉にただ頷いた。

「ああ」

「なら、驚くか…俺は特殊な家系に生まれたダートだ。

そのおかげで、家族の間では、この世界で当たり前の差別はうけなかったけどな。

俺の家系だけだぜ、自分の子供がダートで喜ぶような所は…

でも、家の仕事のおかげでいろんな場所を旅して、そのたびにいろんなダートと呼ばれる人に会ってきた。

その中で俺は気付いたんだ。

俺はあの“才能を見る魔法”が、使えないことが当たり前だと思った。

でも違うんだよ。

他の奴ら、ダートと呼ばれた者たちは当たり前に使ってやがるんだ。

だから、俺は一つの仮定を立てた。

だが、俺は俺以外にあの魔法が使えない奴にあった事がない。

だから確かめようがなかった。

これまでこの世界に、不条理に生まれて来て…生きて来てずっと疑問だった。

何でこんな記憶があるのかって…

知らない所の知らない場所の記憶が俺の心にあるんだ。

それで最後、あんたに質問だ。

あんたは此処以外の知らない場所の記憶があるか?

いうなれば、前世の記憶って奴だ」

俺は静かに考え、答えた。

「ああ…」


その言葉を聞いたファルデロが崩れるように泣いた。

溜め込んでいたものが一気に流れ出るそんな感じの泣き方だ。

「ああ…やっと…俺の仮説が、正しかった…」

その涙が、俺には痛いほど分かった。

「良かった…俺だけじゃないんだ…俺は辛かった…

他のダートたちにも、無能って影で言われる事が…

世界で一人だけの妄想を持ってるんじゃないかってずっと思ってた。

でもその理由が分かった。

あんたも…辛かったんじゃないか?」

その崩れそうな顔に、俺は優しく微笑んだ。


たぶんこの世界に来て、初めて共感できる人を見つけたから、自然と顔がほころんでいた。

「ああ、でも別にどうってことない。

俺にとっては向こうもこっちも変わらなかった。

孤独は慣れればどうってことはないさ」

その言葉に、ファルデロは静かに笑った。

涙の痕が生々しいが、何処かスッキリした笑顔だ。

「強いな兄弟は…

俺は、ずっと親にも言いだせなかった。

頑張って魔法もちょこっとだけ使えるようになったのに、あの魔法…可能性の光ライトオブポテンシャルは使えなかった。皆、無詠唱で使えるのに…」

そう、残念そうに返すファルデロに俺は平然と答えた。


この世界に来て、皆が皆そう(・・)ではないが、ほとんどの人がそう(・・)である事を。

「別にかまわないだろ?

この世界の人はもう、違う事にその魔法を使ってる。

自分や他人と比べるために…自分がどれだけ優秀でどれだけ劣っているか、比べるために使ってるんだ。

そんなもの使えない方がいい。

あの魔法は、人を正しく見る事を阻害する。

それはとても無駄なことだ、そんなもの使っていたらいつまでも自分の才能に…囚われる。

だから、俺たち…いや、俺が此処まで有能者(・・・)相手にやってこれた。

俺は才能で人を判断した事は無かったからな。

だから見えるものを沢山見てきた」

そこまで言って俺は思い出した。

クーノや先生、フランソワにアロワが見せてくれた笑顔を。

それを見るたびに、俺はボロボロになってよかったと…

力になれてよかったと思う。


俺の顔をしばらく眺めていたファルデロが寂しく笑った。

「そうか…兄弟は、才能なんかに囚われなかったんだな。

そして、その顔…誰かを救ってきた顔だ」

「そう言うファルデロは、その入れ墨を見る限り、俺以上に沢山の人を救ってきたんだろ?」

俺はもう、長年の友人のようにファルデロに接していた。

それが自然だとそう思ったからだ。


そう返すと、ファルデロは照れたように首を振った。

「そうでもないさ兄弟。

俺は生まれた時、いやいやこの入れ墨をいれた。

生きていくために仕方なく入れたんだ。

そして、この入れ墨を背負うはずだった初めての旅で此処に囚われた。

だから、俺は誰かを救ってきたわけじゃない。

俺の親父が、兄弟とおんなじような顔をするんだ。

それを見るたびに、今なら分かる…

俺はきっと羨ましかったんだろうな」


そう、なつかしむファルデロに俺は、力強く言った。

「ならファルデロ。

此処を出るぞ。

俺が此処から出してやる」


その顔に何処か決心したようにファルデロが頷いた。

「ああ、だけど今日はもう遅い。

そこのお嬢ちゃんから聞いたぜ。

あんたはずっと寝てないそうじゃないか。

なら、休むべきだ。

大丈夫、選定の時間までは十分に時間もある。

疲れた頭じゃ良い考えは出ないぜ兄弟」


その言葉に、今まで話を聞いているだけだったソフィリアも同意する。

「そうよ。私が寝ちゃったから今度はアルスが寝て!

私が見張ってるわ」

そう胸を張るソフィリア。

「わ、分かったよ。なら少し休ませてもらう」

俺はそう言って目を閉じる。

少しだけ…休もう。


――――――――――――――――


アルスが目を閉じ、やがて規則正しい寝息を立て始めた時、ファルデロはようやく安心したようにソフィリアに話しかけた。

「…ありがとお嬢ちゃん」

「別に…あんたが此処から確実に逃げられる方法があるって言ったからその話に乗っただけよ」

とぶすっとした表情でソフィリアは返した。


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