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第四十六話 目覚めた場所は…のお話

俺は何かを見続けていた。

いつ終わるのか分からない、そんな何かを見続ける夢だ。

その何かを見ながらも、俺の思考は冷静にこれを夢だと判断していた。

そう言えば、夢なんて久々だ。

当たり前だ、いつも夢なんて見るくらい寝ていない。

という事は、俺は今…夢を見られるくらい長く眠りについている事になる。

それはつまり…


「…ちょ…ア… 

起きてよアルス! 起きなさいってば! ねえ!? アルスってばぁ、あんたダートの癖に…約束した癖に、私より先に死ぬなんて許さないわよ」

お嬢様の声に徐々に意識がはっきりとしてくる…胸にすがりつく温かいものがソフィリアだと分かった。

「…うるさい、そんな騒がなくても聞こえてるよ…」

そう言って必死にすがりつくソフィリアを薄目を開けて覗きこんだ。

「あんた! お、起きてるならさっさと起きなさいよね!」

俺の目を見るなり、そう言って慌てて離れるソフィリアに内心苦笑しながら自分の状態を確認した。

自分の所持品も確認してみるが、奪われた形跡はない。

ホブゴブリンから奪ったあの剣もすぐ近くに落ちている。

…なんだ?何故武器を奪わない?

そんな疑問を余所に、俺は周りを見渡した。

当り一面岩に囲まれ、馬車が襲われた場所からかなり遠くであると言う事以外分からなかった。


「目覚めたか兄弟」

そう言われて振り向くと体中に入れ墨を入れた男がこちらを見ていた。

ソフィリアが慌てて俺の後ろに隠れるのが分かる。

俺は必死に外見からの特徴を探そうとしたが、入れ墨のせいで老人ではないとしか分からなかった。

「あ、あんたは?」

俺の質問にも男は余裕の笑みで、退屈そうに答えた。

「俺か? 兄弟より先に此処に連れてこられた、ただの人間だ」

「こ、此処はどこなんだ?」

「竜の巣だ」

その言葉に俺は、頭を抱えたくなった。

「なんだってそんな所に…」

俺の問いに男は諦めたように鼻を鳴らし教えてくれた。

「簡単だ。俺たちは奴らの餌、奴らにとっては“成竜の儀”の大事な贄だ。

子竜が成竜になるために、倒し喰らう敵、それが俺たちなんだよ」

そう言うと、男は周りを見渡した。

俺もそれにならい、周りを見る、集められたらしい数人の男女が無気力そうにトボトボと徘徊していた。

「兄弟が来る前はもう少し人が多かったんだがな。

皆喰われた。

残ってるのはあと数人。

みんな希望を捨て、生きた人形になってる。

生きのいい奴のは皆、竜が優先的に選んで下の闘技場に連れて行くんだ」

そう言うと、男は顎で岩の隙間、丁度天然の檻のようになっている場所をしゃくる。

覗いてみると、そこから下には広大な岩場が広がっていた。

所々血の跡や不自然に岩が壊された跡がある。

たぶん、最初は皆、勇敢にたたかったに違いない。

だが、例え幼体であっても竜は竜、なすすべなく殺されたのだろう。


男はなおも喋り続ける。

「まったくひどいもんだぜ。

皆食われたくないから…少しでも生きていたいから、生き人形のような振りをする。

そして、振りをし続けるうちにそのまま連れてかれて、無抵抗のまま喰われちまう。

俺たちが竜に勝つか、此処の人間が全て、竜の腹の中に収まった時“成竜の儀”は終わるんだとさ。

もうすぐ時間だ。聞こえてきたぞ」

そう言うとすぐ周りの人間に緊張が走るのが分かった。


バサッ…バサッ…


何かが羽ばたくような音だ。

〈人間ども、まだ我と闘う気にならんか?〉

頭の中に直接響く声と共に、全身真っ白な竜が岩影から姿を現した。


俺とソフィリアは驚きのあまり言葉が出ない、その面影はまさしく俺たちの馬車を襲った竜の姿そのものだった。

竜は逃げる時には見る事が出来なかった鋭い眼光で、とらわれている人々を見渡した。

そして、一通り人間を見渡すと、最後にこちらに視線を投げかけてきた。

〈先程、追加で入った者は中々骨がありそうだ。

我の爪を逃れた強者故、闘いは今までない最高のものとなる事を祈っている。

我は強者との戦いを望むぞ〉

そう言うと竜は岩影に消えて行った。

「…」

俺たちは何も喋れなかった。

話では、龍痕街の祭りに出席するはずだったのに、竜に襲われ、洞窟に転げ落ち、いつの間にか囚われの身となっている。

何時死ぬ事がすでに決まったかのような状況に…事態の急激な展開についていけなかった。

「あれが、俺らが闘う竜だとさ。あんなんで幼体って言うんだから笑っちまうぜ」

自傷めいたその声に俺は我に返った。

今は少しでも目の前の男から情報を入手しなければならない。

俺は必死に言葉を紡いだ。


「すまない…ええと」

「ファルデロだ。よろしくな兄弟」

「ああ、よろしくファルデロ。

すまないが聞きたい事がある。

俺達、龍痕街ってところに向かっていた。

此処はそこからどれくらい離れている?さっさと戻らないといけないんだ」


俺のその言葉に真剣に聞いていたファルデロが突然噴き出した。

「ふ、アハハハハハハハハハハ! そりゃお前、此処の事だよ。

正確に言うとは、街はもっと別の場所にあるがな。

龍痕街はだいぶ前から緩衝帯の役割を上辺だけしか果たしていない。

この街は実質、竜が支配している。

此処はさしずめ、人間の収容所ってところだ。

お前さんたちそんな危険な街に何しに来たんだ?」

そう言ってさもおかしそうに笑う、ファルデロに俺は愕然とした。

…という事はつまり俺は、俺たちは…


「ちょっとそれどういう事よ。わたしは第っ…モゴ…」

(ソフィリアそれ以上は何も喋るな! 此処でお前の身分を明かしたらそれだけでお前は袋叩きにあう! だから落ち付け、今は状況把握が先だ!)

ファルデロの言葉に、文句を言おうとしたソフィリアの口を慌てて封じ、耳打ちした。

情報が何もないのに自らの身分を口にすれば何をされるかわからない。

それに、此処に連れてこられた人々がもし、自国の民ならば政をつかさどる王族が此処に居ると分かった時点で報復に合うだろう。

それはただのマイナスにしかならない。


「いや、すまない。お嬢様は貿易商の娘でね。今回たまたまこの龍痕街に観光で訪れる予定だった所を竜に襲われたんだ。まだ気が動転していてちょっと暴れるかもしれないけど気にしないでくれ」

そう、誰が聞いても嘘くさい言い訳を並べた。


しかし、目の前の入れ墨だらけの男は俺の話を全て本当の事だと思ったのか、心から悲しむように呟いた。

「そうか…可哀想に…ってことは、さしずめ兄弟はその子のお世話係ってわけか?

ダートなのに、いい職に付けたな!」

「ああ…ありがとう。

所で聞きたいんだが、あんたらはどうやって連れてこられたんだ?俺たちみたいに無理やり襲われたとかか?」

「まあそんな所さ、此処に来た連中は大体2種類さ…あんたらみたいに知らずに此処に来たやつら、もうひとつが、龍痕街で罪を犯した罪人だ。

まあ、もっとも威勢のいい奴らはさっさと竜の前に引きずり出されて食い殺されたみたいだから、もう前者しかいないだろうけどな。」

その言葉に俺とソフィリアは息をのんだ。

ソフィリアはまだ何か言いたそうにしていたが、俺が口を手で塞ぎ何も言わせないようにした。


呆然とする俺に、今まで何処か陽気だった、ファルデロがまじめな顔で尋ねてきた。

「兄弟、俺はあんたの質問に答えた。今度は俺の質問に応えて欲しいんだが…」

「…ああ…すまない、何だ?」

そう尋ね返すと、ファルデロは自らの目を指差し、尋ねた。

「あんたは、見えるダートか?見えないダートか?どっちだ?」


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