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第四十四話 お茶会のお話

その部屋は何から何まで紅く染め上げられていた。

天井、壁、家具の細部に至るまで紅く統一され、それら全てが特注の品である事を物語っている。

その部屋にゆっくりと手を引いて現れたフェルトとお付きの騎士ヴァルは、入室して早々に部屋の主に丁寧に挨拶を行った。

「アーメル様、本日はお招きいただきありがとうございます」

「良いぞヴァル、今回はフェルトの描いた絵がどのようになるか、興味があって呼んだまで、そのように固くなるでない。

まずは椅子にでも座ってくつろぐがよいぞ。

のうフェルト?」

と、部屋の豪華なイスに座ったアーメルが、さも当然と呟いた。


フェルトはゆっくりとヴァルに導かれ椅子に座るとポツポツと語り出した。

「ええ、今だに、彼らの試練は終わることなく続いております。

ですが…アーメル様も、もうお気づきになられたのではありませんか?」


そう返すとアーメルがさも可笑しそうに笑った。

「アハハハ! まさか! 国を治めるしか能がない王族一人に“人間として終わってる者”しかなれないと言われている絵師の考えなど分かるはずもあるまいよ」

彼女の笑いにフェルトは残念と肩を落とした。

「おやおや、随分とひどい物言いですね。

ですが、今回の絵のために、良質な“顔料”を調達して頂いた王女にも十分素質があると私は思うのですよ」

フェルトがそう返した時だった。


コンコン


「失礼します!」

そう言って豪華なドアを一人の兵士が慌てて入って来た。

「何事ですか?」

アーメルの傍に控えていた騎士がそう返すと兵士は敬礼をして、現状を報告した。

「は! アーメル様、フェルト様、ご報告に参りました!

“道化”殿が現在、絵師様の画版指定区域に単独で入ってしまった模様です。

いかがなされますか?」


その言葉に、二人は顔を見合わせる視線だけで会話を行うと、フェルトが一言兵士に向かって呟いた。

「構いません。彼はきっと対象の状況がもどかしくてしょうがないのでしょう。

彼の素の性格は血を好みます。

ですが、絵に直接影響を与えるほどの事は行わないでしょう。

放置して構いませんよ」

「は!では失礼致します」

フェルトのその言葉に、兵士が敬礼を行い部屋から出て行った。


「よく訓練されていますね」

「まあな。

あれでも一般人より少々高い程度じゃ。

その程度掃いて捨てるほどおるよ」

アーメルのその言葉にフェルトが笑いをこらえ呟いた。

「相変わらずの才能至上主義ですね。

私の才能は高いと言っても貴族の中では平凡な方ですから、現在闘っているアルス君の気持ちが多少なりとも理解できますね。

気配りや人間性も考慮の対象になさった方が、後々楽ではないかと思いますよ。

アーメル様?」


フェルトの言葉にアーメルは心底嫌そうに返した。

「ふん!何が人間性じゃ!

確かに考慮する一端はあると我も思う。

しかし、何故我々が才能至上主義をとっているのか…

この国だけでなく、ほとんどの地域や国家が、才能と呼ばれる値を人材の最も重要な部分としているのか、まさか知らぬわけではあるまい?」

その問いかけにフェルトはゆっくりと頷いた。

「ええ、もちろんですとも。

そのために貴方がたは才能を具体的に値として測定する魔術を民間に提供し広めた。

民に体で理解させるために…現にそれは成功した」


フェルトの言葉にアーメルが満足そうに頷き、テーブルの上にあったカップを手に取り紅茶に口を付けた。

「その通りじゃ、生まれてすぐに“才能”を計らせる。

そしてその値を民に直接、比べさせるのじゃ。

才能の高い者がどのようになるか…

才能の低い者がどのような末路をたどるのか…

高ければ高いほど魔法やスキルを覚え、すぐにモンスターにも対抗できる。

そしてそれは高確率で生き残り、村であれば村の、街であれば街の即戦力になる事を意味する。

あとは皆が勝手に気付く。

そうすれば、自然と流れが生まれる。

才能が高ければ良い職につけ、可能性は広がる。

逆に低ければ、それは重荷となり、産み落とした親に降りかかる。

だから、差別意識が生まれる。

人とは醜いものじゃ。

下がいれば下を罵る、嘲笑う。

そうして今の自分の地位に我慢するのじゃ。

そしてその生まれた差別意識は、支配する側にとってとても都合がよいものとなる」


そこで、フェルトが面白そうに笑った。

「しかし、此処で思わぬものが出てきた。

アルス君という異端が…

どうですかアーメル様、貴方が用意した、とっておきの“顔料”を彼は退けることが出来ると思いますか?」

その言葉にアーメルは、手に持っていた紅茶を満足そうにテーブルに置くと一言つぶやいた。

「ふむ、あ奴は乗り越えるじゃろう」

その言葉に、意外そうな顔をするフェルト。


「おや、アーメル様なら情け容赦なく“磨り潰されるじゃろう”とおっしゃるかと思ったのに意外ですね。

アルス君の経歴を確認なされたのですか?」

その言葉にアーメルは静かに首を振った。

「いや、まだじゃ。

しかし、お前がそこまでこだわる子供じゃ。

我も気になってな…

現在、我が“翼”の一翼に調べさせておる」


そう語るとアーメルはお付きの騎士に紅茶のお代わりを頼み、言葉を紡いだ。

「…だがわかる。

人と人との間に明らかに劣等種として入ったにも関わらず、認められると言うのがどれほど異端か…

我は理解して居るつもりじゃ。

少々手柄を立てた程度では潰される…

それこそ何者にも出来ぬ不可能を可能にするくらいの事をしなければならぬ。

それも、人として性格がねじ曲がった貴族どもの中でじゃ。

ゆえに状況だけでもその異常性が明らかになる。

奴を異端と表現するには生易しい…奴は鬼子じゃ。

放っておけばこの国をも変えかねない鬼子…

だから“絵師”の中でも、二つ名持ちのお前が描くと知って我は安心したぞ。

今回の依頼も含め、お前には感謝しておる。

しかし本当に報酬はあれで良いのか?」


その言葉にフェルトは見えない目を閉じて頷いた。

「ええ、構いません。

私の数少ない楽しみと言った方がよいのでしょうか。

まあ後は想像にお任せしますよ」

その言葉にアーメルは心底面白くなさそうに鼻を鳴らした。

「フン!やはりお前は悪趣味じゃの」

フェルトは相変わらず目を閉じたまま口元だけ笑みを浮かべて呟いた。

「褒め言葉として取っておきますよ」



実家から帰ってきてパソコンを付けたら、とんでもない事になっててびっくりしました。

これもみなさんのおかげです。

ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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