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第四話 俺以外のボッチのお話

学院は思ったよりずっと広かった。城壁の中では様々な建物が見え、制服を着た学生が闊歩している。

ここはこの国でも最先端の魔法が常に研究、実用されているとのことだ。

さらに中はそれぞれの区画ごとに整理され働く大人も通う子供もそれぞれすみ分けがされているとの事らしい。

現に学院の外から見ただけでも、照明器具などは元の世界に近い形状をしている。

俺の考えを改める必要があるかもしれない。

見た目通りの中世の世界だと思っているととんでもない事になりそうだ。


入学から10日目


まあ最初はどこに行けばいいかわからないとか、トイレを探して休み時間全部使うなど大変なこともあったが今思えばそれもいい思い出だ。

と、そんなことを考えながら教室に行こうとすると途中に珍しく貴族と平民の子供が会話していた。手には教科書がある。

珍しく平民に教科書を譲る愁傷な奴が居るのかと思ったらばっちり金銭のやり取りがあった。全くどこ行っても変わらんね。


そんなことを考えるうちに、いつもの退屈な授業が始まる。

学院での授業は意外にも日本に近い形式だ。

クラスは日本のように個人の机が与えられ授業を受ける。

正直学院なめてた。

自分が既に知っている知識を延々と話されることがこれほど辛いとは…しかも父との約束を守らなければいけないため、授業態度は真面目にならなければいけない。


精神がすりきれそうだ。

と隣からガサゴソ机を探る音が聞こえた。

俺の隣には金色の髪を上手にポニーテールにまとめ、整った顔を少ししかめた美人さんが座っている。どうやら武門で有名な貧乏貴族らしいのだが、現在必死に机のなかを探っている。


実はこの美人さん、先週からひどいいじめをうけているのだ。

事の発端は、美人さんが登校初日に上級生の偉い貴族様に目をつけられたらしく言い寄られていた所から始まる。

普通ならお互いが貴族同士だし学院でできたばかりの女友達がかばってくれたりするのだが、運が悪かったのは美人さんが口下手なことと、言い寄っていた貴族が女ったらしの癖に女子に人気があったことだ。

言い寄る貴族からしてみれば、自分のものにならない鼻持ちならない女に写り、周りの女生徒から見れば人気者の上級男子を弄ぶ嫌味な女だ。

そして口下手な人柄も災いしたらしく、助けを読んだりきっぱり断ることができなかったりで自体は最悪な状態となり、まだ入学して10日なのにもう孤立状態になって早速教科書を隠されたりしているみたいだ。

「おい…」

おれはそっと美人さんに声をかけた。

「えっ!?は、はい」

声をかけられたことに驚いている美人さんを余所に俺は自分の教科書をそっと出した。

「それ使えよ」

「で、でもそれじゃああなたが困るんじゃあ…」

突然差し出された教科書に戸惑いながら美人さんが恐る恐る聞いてきた。


「いいって俺全部知ってるから、ってかお前もう周りから干されてる。たぶんお前の教科書、別の教科書を買えなかった学生に格安で売られてるだろうから。ああ授業終わったら返せよ?お前が持ってたらまた隠される」

そう言って、探しても無駄な事を伝えておく。

こう言っておかないと絶対授業が終わっても探してるぞこの人。

「あ、ありがとうございます。」

「ん」

とびくびくしながらお礼を言ってくる美人さんを軽く手で制してのんびりと先生の言葉に耳を傾けた。

まあ、必死で涙をこらえて探す姿も様になってるから放置してもいいが、正直いじめられていた自分から見れば過去の自分を見ているようで気分が悪い。

それは一人で解決できない問題に取り組むようなものだ。その時の不安な気持ちは思い出しても吐き気がする。


ちなみにいまさらではあるが、この学院は貴族だけでなく平民も優秀であれば通える。

しかし教科書は支給ではなく購入しなければいけない。

そのため平民出の生徒は教科書を持たないまま授業を受ける人も少なくない。

そう言った人間に格安で売ればいい小遣い稼ぎになるのだ。

俺がさっき見た光景は間違いなく、この美人さんの教科書を売りさばいていたのだろう。

つくづく胸くそ悪いやり方だ。


とりあえず、気分を晴らすためにも俺は先生の話に耳を傾ける。

授業内容は魔法とスキルそして両者と才能との関連性についてだ。

この世界、魔法と一口に言っても、その超常現象を起こす方法には様々な種類が存在する。

代表的なものとして、

・神様にお願いして超常現象を起こす方法。


・人の内に流れる魔力を直接操り魔法を発動させる方法。


・魔法陣などを壁や紙に記述し、そこに自らの魔力を流して魔法を発動する方法。


他にも種類があるが、現在一番使われているのはこの3種類だ。


そしてスキル。

これはもうRPGによくあるものと同様のものと考えてよい。

種類は大きく分けて常時発動型と一時発動型がある。

例えば、

毒に対して一定の効果を発揮する< 毒耐性 >は常時発動型

一回の突きで3回突きを繰り出す< 三段突き >は一時発動型

違いは一時発動型は宣言しないといけない点が大きい。(しなくてもよいスキルもあったりするらしい)

こんなふうに魔法やスキルも種類がある。


そして、才能との関連性だ。

魔法であればより簡単なイメージで魔法が習得できるし、スキルはより簡単な条件で入手が可能だ。


特にスキルは才能と絡むとその入手条件はチートといってもいい。

先ほどの< 毒無効 >は常人なら毒攻撃を数十回にわたって受けなければいけない。

しかし、才能が高い人間の場合たった一回毒攻撃を受けただけでもう< 毒無効 >のスキルを身につける者もいるのだ。


そんなことを考えながら授業を乗り切った。脳内復習である。


授業終了の鐘が鳴ると同時に、教科書を返してもらい、教室を出ていこうとすると袖をつかまれた。

その顔はつるされた一本の糸をつかむかの如く必死さが伝わってきた。

「あ、あのさっきはありがとうございます。私、クーノ・フォン・ルバーンって言います」

「ん、よろしく俺はアルス・フォン・ランダルだ。気軽にアルとでもよんでくれ。気にすんなルバーンさんこういうこともあるさ。要は気の持ち用だよ。じゃあな」

おどおどしながら喋ってくる美人さんに一応の気休めでしかないアドバイスをして俺は部屋を出て行った。


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