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第三十七話 蠢き迫りくる悪意のお話

「いやー本日はみなさんお忙しい中お集まり頂き、すいませんねぇ」

とおっとりとした調子でフェルトは話し始めた。


「そんなことはどうでもよい! なぜ我々を集めたのか、それをお聞かせ願えないかね”絵師”殿」

そう返した男は目だけで周りを見渡した。

今日絵師を覗き、ここに集まった者は…自分も含めて…6人。

しかもそのメンツに男は心の中でため息をついた。

何故ここに呼ばれたのかなんとなく想像がついたのだ。


「いやいや、そうですね、ランダル卿…今日は貴方のご子息の件で皆さんにご意見をと思いまして」

「なにかな…?息子ならまだ屋敷にいるが…」

「いえいえ、そちらの秘蔵っ子ではなく、今回お話するのは学院にいる方の御子息についてです」

その言葉にカールは黙り込んだ。

余りに予想通りすぎて言葉がでなかったのだ。


「ああ、アルス君の事ですね。彼には随分とお世話になりました。改めてランダル卿にはお礼をと思っていた所です。」

とニコニコとこちらにまぶしいばかりの笑顔を向けるのは目鼻立ちの整った貴族だ。


「アルバホーン卿、その話は済んだ事だ。それに今日は、デリオット卿もおられる。卿にとってあまり気分の良い話ではないだろう」


「いや、儂はあまり気にしておらんよ、ランダル卿。卿の息子のおかげで、うちの馬鹿にいい薬となった。

それに…そこにおられるウィシュタット殿には本当に申し訳ない。

今でも謝って済む問題ではないと思っておる」


その言葉に、アルバホーン卿の隣に座っている男が重い口を開いた。

「いや、こちらは何も気にしておりません。それに元より騎士たるもの、主に危害がなければ問題ない。あれは強い…私は何も心配しておりません」


「ふん!気に入らんな。娘が犯されたと言うのに何も心配して居らんとは…私には到底理解できん発想だ」


「理解できなくて結構、我が家の第一は主に使える騎士を育てる事、むしろ娘のために貴族の地位まで売るムスランブル殿こそ、私は理解できない」


そう淡々と言いきったウィシュタットを鋭く睨みつけたカルヴァだが、諦めたかの様に視線を戻した。

「まあまあ、お二方…私は今日何故呼ばれたか理解していないのです、話を絵師殿に戻したいのですが…」


その言葉に、やっと本題に入れるとばかりにフェルトが立ち上がった。

「ルバーン卿ありがとうございます、それで皆々様さまに聞いていただきたいお話があるのです。

今回、マルク君はとんでもない事をしました。

キズものにした女生徒は数知れず、迷惑をかけた人間は星の数と、とてもではありませんが許される物ではありません。

私は、彼に近しい人間として、今回の事が非常に残念なのです。

ですが、今現在も行われている許されざる所業がある事をご存知ですか?」


その言葉に皆顔を見合わせる、フェルトはその様子に満足そうにほほ笑んだ。


「そう、ランダル家の長男であるアルス君です。

彼は現在も、ルバーン卿の愛娘であるクーノさんと男性寮で同棲し、あろうことかフランソワ様とアロワさんも手篭めにしようと画策しているのです!」

そう先程のマルクの淡々とした口調は何処へやら、フェルトはこれ見よがしに声を上げた。


――――――――――――――――――――――――――――


「では、以上で今日のお話はお開きです。みなさんお忙しい中お集まり頂き、ありがとうございました」

と始まった時と同じ調子でフェルトは告げるが、他の貴族たちは誰もが疲れた顔をしていた。


「ムスランブル殿、すみませんがこの後、お話がありますので残って頂きます。

他の皆さまはお疲れさまでした。

今日は実に有意義なお話が出来たと思っております。

それでは皆様ありがとうございました」

そう言うと、フェルトは始める時と全く同じようにお辞儀をし、会議を終わらせた。


――――――――――――――――――――――――


「…それで話とは何かね」

他の貴族が部屋から出て行ったあと、カルヴァはフェルトにそう呟いた。

「ええ、なぜ今日の会議に貴方をお呼びだしたか分かりますか?」

「…知らんな、知りたくもない。私にとっては迷惑千万な話だ」


「ええ、そうでしょう。貴方にはどちらかというと、今ここでするお話の方が本題になります。


…困るんですよ。


絵師が描こうとしている人物に身勝手にも、変な事を吹き込むのは…あと後で変に動かれては邪魔以外の何物でもありません」

と、フェルトは淡々とした声で語るが、その声には見えない圧力が篭っていた。


「何の話だ? 私が何時、誰に、何の話をしようとお前に関係あるのかね」

「ええ、そうでしょう。その通りです。ですが…これは警告です。これ以上何か事を起こすのでしたら私は貴方の娘さんを描かざるをえない(・・・・・・・・)

「っ!! 貴様!娘に指一本でも触れてみろ!ただでは済まさんぞ!」


「もちろんです、だからこうしてお話をと思いまして、アルス君は実に面白い逸材です。彼にはダートでありながら一人で生きて行くだけの力がある。

問題なのはその力を、他者のために使うことをいとわない点だ。

そして、その影響により本来得られるべき既得権益が得られない者が、出るのであればそれは絵師が描く(・・)必要がある人物であり、消されるべき対象です」

その斬って捨てたような物言いにムスランブルは声を荒げた。


「だからなんだと言うのだ!何が問題なのだ!彼は守りたいものを守っただけの事、その事に何ら不自然なことは…」


「いや、そ奴は処罰されるべき対象じゃ」

と若い女性の声が聞こえた。

その声に二人は瞬時に膝をつき、声がした扉に頭を垂れた。


ギィ…


扉がゆっくりと開き、赤い髪の豪華なドレスを身にまとった女性が、お付きの女性騎士を伴って姿を現した。

その姿、出で立ちは、見る者を魅了し屈服させるほどの美しさを纏っているがその表情は武人のように鋭かった。


「こ、これは、第二王女アーメル様…」


「ムスランブル」

「はっ!!」

アーメルの呼びかけにカルヴァは顔も上げず、答えた。


「娘のために全てをなげうった貴様が此度の件、不満に思うのも無理からぬ事じゃ。

だが、その者がダートである以上、処罰は必然である。

わが国では、人事や軍の遠征、一般の才能の高さによる優遇制度など、才能に重きを置いておる。

そのアルスとやらは、ダートでありながら優秀と聞く…そのような者を存続させ、その存在を許し続ければ、我が国の屋台骨を揺るがしかねん、危険な存在となるであろう。

そのようなものを生かして…況してや貴族として置いておくわけにはゆかぬ。

…分かるな?」


「…はっ!」

ほんの一瞬の沈黙の後返事を返したカルヴァは、うつむいたまま悔しそうに唇をかみしめていた。


「では、フェルト話がある、後で私の執務室に来るように」

そう、一言言葉は発すると、アーメルは何事もなかったように立ち去った。


――――――――――――――――――――――


「まるで立場が逆ですね」

「ムスランブルの事か?」

執務室に着くなり、お付きの騎士がそう切り出した。


「本来なら先程の件、父親であるランダル卿が擁護すべきものではないのですか?」

「ふん、そんなことは簡単じゃ」

そうアーメルはつまらなそうに鼻を鳴らした。

「父…カールの方は、そ奴が生まれた時にはこの状況を想定していたのじゃろう。

既に覚悟を決めていた。

だから、今回の招集にも、話す議題にも何も動揺する必要がなかったのじゃ。」


「ですが、フェルト殿はよく不満を持っている人物が分かりましたね。

確か今日、初めて会うはずですが…」

その騎士の言葉に、アーメルはゆっくりと自分の椅子に腰かけた。

「勿論、召集する前に事前の調べは済ませているじゃろう。

しかし…あれがあの男の恐ろしい所じゃ、”盲目の千里眼…”フェルト・バルザーク…

あ奴の、真の千里眼は、目などではなく、その“耳”じゃ。

あ奴はその耳で声を出した相手の感情を読み取る。

そして、それを踏まえた上で交渉を優位に進めるのじゃ。

…相手の触れられて欲しくないモノを探り当て攻め立てる…

そして、一番の厄介な所が…」


コンコン…


アーメルが告げようとしたところにノックの音が響いた。

「入れ」


「いやーすみません遅れてしまいました。」

ドアを開けると、杖をつきゆっくりとした動作でフェルトが入って来た。

「誰も待ってはおらん。して…そちらの首尾は?」


「はい!事前調査は上々です。


…これで彼は真に独りとなった…


唯一の良心であったムスランブル卿も、娘を出されては何もできないでしょう。

彼は娘のために全てを飲み込み耐えてきました。

これからも耐え続けるでしょう。

後は舞台、人物、を描けばいい」


「ふん、相変わらずじゃな。ところで…」

満足そうに語るフェルトに対し、アーメルは何事もなく呟いた。

「その計画…ついでに始末してほしい者がおるのじゃが…」




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