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第三十三話 続 俺の気持ちのお話

「さあ!どういう事ですの?どうしてあなたがトール先生の事をそんなにしつこく調べているのですか?」

そう俺に詰め寄ったフランソワは整った顔をしかめ俺を睨みつけた。

「いや、まあ…ほら詳しく話せば長くなるし…」

「だからって、一人でこそこそと動くと言うのはどうかと思います」

そうフランソワに追従するようにクーノが呟いた。

「まあまあ、ほらみんな忙しいだろ?そろそろテストの時期だしさ。だから…」

「だとしても、一言相談して欲しかったぞアルス」

とさらに逃げた俺をアロワがとどめを刺した。

「すいませんでした…」

こうして女子三人に詰め寄られ逃げ場のなくなった俺は正直に今までの経緯を白状した。


「では、明日また此処で作戦会議といきますわ!いいですわね」

「はい!」

「かしこまりました」

「…へーい」

とフランソワの元気な声が俺の部屋に響いた。

あのあと、教室で話しこむのは何かと不味いので、俺の部屋に場所を移したのだ。

結論から言って経緯を話した後、みんなで協力するべきというフランソワ達の主張を俺が飲む結果になった。


まあ、当然の流れと言えばそうなのだが、何も言い返せなかった自分が不甲斐ない。

「全く!! アルさんは何でも一人でやりすぎなんです! たまには私たちを頼ってください」

とフランソワとアロワが女子寮に帰った途端、今まで我慢していたのだろう。

クーノが頬を膨らませて文句を言ってきた。

「何だよ、怒ってるのか?」

そう、茶化すように返してみる。

別に頼りたくないわけではないのだが、あまり口に出すのも照れ臭いのだ。


「勿論です! 私じゃ…私たちじゃそんなに頼りないですか?」

と可愛い仕草から一転、クーノは真剣な顔で俺に聞いてきた。

その眼と、すがるような表情に思わず本音が出そうになる。


…そんなことはない、いつも頼りにさせてもらってるさ…


そう心の中で呟き、顔は平静を装った、クーノやアロワ、フランソワ…最近の俺の周りはやけに騒がしい。

最初は慣れなかったが今では当たり前の事だ。

その当たり前が俺にはありがたい。

独りは寂しい。

慣れていてもこればかりは辛いものだ。

どんな訓練を受けようとも、人の温かさを一度でも味わった人間は独りになる事が怖くなる。

しかし、一度独りになってしまえば慣れる…慣れてしまう。

…自分をしっかりと保ち、己を律し、独りで生きて行くと決心して前を向いて歩く。

だから平気なのだ。

この世界に来て、ダートという絶対的な烙印を押されたと知らされても俺はあまり変わらなかった。


それは向こうの世界でも同じだったから…


俺を貶し、嘲笑う奴らを潰すと決め、独りでただひたすらその実現のために動く。

その姿勢はこの世界に来ても変わらなかったからだ。

だがら、クーノを助けたのも落とし物を届けるくらいの感覚だった。

しかも見返りを期待しての中々に酷いものだ。

まさか落とし主が居候するとは思わなかったが…


俺は胸に込み上げてくる何かを抑え込むように、クーノの頭を何も言わずぐりぐりと撫でた。


「ちょ、ちょっとアルさん! 何するんですか!? 茶化さずにハッキリ応えてくださいよ」

焦ったようなその声に、俺はふざけた声を装った。

そうしなければ何かが崩れそうだった。

「アンポンタン娘が何言ってんだ?俺が何のためにお前に家事を仕込んだと思ってるんだ?しっかり頼ってるだろ?」

「ち、違います!! 私が言いたいのはそう言う事じゃなくてですね!」

「わかった!分かったよ。これからはしっかりとお前らに頼る。むしろ寄りかかるから安心しとけ」

「必ずですよ!逆に持ちあげちゃいますから!」

そう元気に返すクーノの顔は何処までも輝いていた。

「はいはい、期待しないでおくよ。そんなことよりさっさと風呂に入って来い!なんだかんだでもう遅い時間なんだから」

その顔を、眼差しを…見ていられなくて俺は自然な動作を装って、台所に逃げた。

「もう! そんなこと言ってられるのも、今の内ですからね!」

言いたい事も済んだのか、捨て台詞を残してクーノは脱衣所に消えて行った。


騒がしいクーノがいなくなった事で部屋はいつも通りの静けさを取り戻していた。

脱衣所でわずかだが衣擦れの音が聞こえる。

…やっと独りになった…


そう思ったところで、先程の気持ちと行動が矛盾している事に、俺は改めて自分が不安定になっていた事に気付いた。

「俺もまだまだってことか…」


ズキ…


何故だか知らないがもう完治したはずの古傷が疼いた…そんな気がした。




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