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第三十一話 露天商のお話

夜の学校と言うのはなかなか迫力がある。

教室なんて場所は特にそうだ。

俺は今、紙に書かれてあった待ち合わせの教室に足を踏み入れている。

教室のしんと静まり返った空間は何とも言えない圧力を発していた。

「遅かったじゃないか」

「そう言うなよ。こちとら学生の身とはいえ、色々忙しいんだよ」

「露天商じゃないロバート…まあ子供とはいえ女の相手は時間がかかるからな」

と皮肉で返した目の前の男…露天商は昼間に見せた営業スマイルとは正反対に不機嫌そうな顔をしていた。

「それで、話ってなんだよ、露天商さん」

「おいおい、つれない態度じゃないか?おっと、情報屋の案内でもトールの裏話を盗み聞きできなかったから当然か」

その挑発的な発言に思わずため息が出た。

…おいおい、呼び出した癖に喧嘩腰かよ。

「なかなか心に来る事を言ってくれる。まあ確かに無粋であることは認めるよ。

だけど、こっちも何も知らないまま何かを託されるのは嫌いなんだ」


そう、先生から託されたあの金槌…別に注文通り全てを新品のように取り返るだけならすぐにできる。

だが…それだけでない事は明白だ、事情を知っている婆はただ笑うだけ事情は教えてくれない。

なら自分で十全に行動するだけだ。

俺が知らずに見逃した物を掴むには、どうしてもこの露天商…ロバートに話を聞かなければならない。


「乗ってこないところを見ると、それなりに冷静な奴ってことか、まあいい。あの婆さんからの依頼だ。聞けなかった分の補足をしてやるよ」

そういうと、ドカッと机に座り、「お前も楽にしろよ」と顎で促した。


「さてと、赤の他人がワクワクする人には知られたくないお話の前に一つ忠告だ。

俺はアイツ…トールとは友達なんだ。だから俺は軽々しくこんな事を話したくない。

だが…婆さんによると、今アイツは俺じゃなくてお前を頼った。

だから話してやる。

その代わり、アイツをよろしく頼む…ガキ相手に変なこと言ってるかもしれないが、軽い気持ちで聞いてほしくない。もし興味本位ならここで引き返してほしいんだ」

そう言うとロバートはすっと頭を下げた。

「頭をあげてください…興味本位じゃない。俺はただあの人に借りがあるんです。良くしてもらった借りが…だがら出来る事は精いっぱいやるつもりです」

と俺も正直に胸の内を明かす。

向こうが正面切って話してくるのだ、こちらもそれ相応の対応をしなければ不公平というものだろう。

その言葉を聞いたロバートは幾分安心したのだろう、淡々と話し始めた。


「アイツが今カルヴァ先生のところの娘さんと結婚しようとしているのは知ってるな。

実はな、アイツ一回結婚してんだ。この学院で学び、そしてお互い好き合った女、名前はナル…カルヴァ先生のところに養子としていた娘とだ。

そいつと結婚した。

まあ、何で養子かって言うと、カルヴァ先生…いや、その頃はまだ貴族だったか、まあとりあえず、先生は結婚して何年か子供が出来なかった。

だから、たまたま訪れた孤児院で、当時三歳だったナルを養子に迎えたんだ。

孤児院って言ってもここら辺は、かなり環境がひどくてな。

容姿が良い女の子は人買いが買って行ったこともあったそうだ。

その中で、ナルは生まれつき心臓を患ってた。

そのおかげというかなんというか、人買いも買ったとたんに死なれちゃかなわないと誰も手をださなかったそうだ。

まあ、そんな奴をモノ好きにも貴族の夫婦が養子にしようって言うんだ。

青天の霹靂ってやつさ。

その後、ナルが養子に行ってすぐにカルヴァ先生の奥さんも妊娠してると分かってな。

先生はナルが家に来たからだって、すごく喜んだ。

先生夫婦は二人でナルと生まれた女の子ルオをとてもよくかわいがった。

本当の兄弟のようにってね。

だた、ナルの心臓は成長と共に日に日に悪くなっていった。

カルヴァ先生はなんとかしたかったんだろう。

家の財産を全部つぎ込んで、ようやく病気の進行を遅らせる事に成功した。

だが…家は没落し、カルヴァ先生も教師として働きに出なければならない位になってしまったんだ。

そんな事があった中で、ルオが学院に行く年齢になった。

で、せっかくだからって病も落ち着いてきたナルも一緒に行く事になったんだ。

たぶん、外の世界を見せてやろうって事だったんだと思う…三歳の時からずっとベットにいたとナルが言ってたからな。

先生夫婦なりの気づかいだったんだろう。

そこで、地方から学びに来ていた、俺とトールに出会った。

アイツとは友達って言ったが正確には幼馴染って奴だ。

俺はあんま目立たない地味な方だったんだが…トールその頃は結構ふざけた奴だったんだぜ。

…今と違ってな。

だけど、鍛冶師としての腕はピカイチでな。

鍛冶師としてなら”探究者”の一員になれるかもとまで言われたくらいだ。

当時馬鹿しようとしてたトールにナルが突っかかっていつも喧嘩してた。


まあ時が経ってトールとナルは恋仲となり、婚約した。

当時、先生も反対したんだ。

心臓はなんとか学院卒業まで持ったが、もうかなり限界だった。

それでも、二人は周りを押し切って結婚したんだが…結婚を申し込んだのはトールでナルはある条件の元で結婚を了承したんだそうだ。

それは“必ず酒場に行って酒を飲む日を作る事”…要はリフレッシュって奴だ。

当時トールは大好きな酒を止めてでも結婚すると豪語してた。

でもその気持ちとは逆に、ナルは自分が足かせになる事だけは嫌だったらしい。

トールの介護疲れを気にしたんだろうな。

だから結婚の条件にこれを持ってきた。


まあ、そんなこんなでトールとナルは二人で道を歩み始めた。

トールは鍛冶師として腕が良くてかなり稼いだんだが…それでもナルの治療代を引いたら、あまり残らなくてな。

結婚してからあまり贅沢なんか出来ない状況だった。

カルヴァ先生も教員と言う立場を最大限利用して、学院で受けられる最先端の魔法薬を娘に与えるため、週に一度は学院と家を往復する生活が続いてた。

それでも二人、幸せに暮らしていたんだ。


とまあ、ここまでなら一つの目出度い御話だ。


だがこの話には続きがある。

その後、一年がたち、二人が生活に慣れてきた頃にそれは起きた。

丁度その日は約束の日でな。

トールは酒場に行っていたんだ。

その時に、運悪く発作が起きた。

ナルは倒れたんだが、運悪く発見が遅れ帰らぬ人となった。

そのナルを発見したのが、ナルの忘れ物を届けに来たカルヴァ先生だったんだ。

先生が嘆き悲しんでいる所に、最悪のタイミングで酒に酔ったトールが帰って来た。

カルヴァ先生は激怒し、冷たくなったナルを担いで帰ったそうだ。


その後はひどいもんだった…ナルの葬儀も後始末は全てカルヴァ先生が行い、トールは参列さえさせてもらえなかった。

アイツは先生の家の前でずっと土下座さ。

だけど、先生はアイツを…トールを許さなかった…徹底的にアイツをいないものとして扱ったんだ。

一日たって心配で様子を見に来たルオが死にかけのトールを見つけたってオチさ。

それ以降、アイツは…トールは酒を一切やめ、鍛冶師としてではなく、その腕を教えるため学院に勤め始めたってわけだ。


ほら、分かったろ?

これが、事の発端…カルヴァとトールの間の溝さ」

そう一気に喋ったロバートは、懐から煙草を取り出すと火をつけ吸い始めた。

「…ありがとうございます。自分が何をしたらいいか…一晩考えてみます」

それにしても重い…思っていた以上に重い内容だ。

聞いているこっちまで疲れてくる。

「ああ、そうしろ、こんな話ただ聞いただけで分かりましたって言ってたら俺はお前を引っ叩いてた。誰だって触れられたくないもんがある。特にこの問題は沢山の人の心が絡まってる慎重にな」

そう言うと、露天商はスタスタと俺の横を通り過ぎて行く。

その一時の中で俺の頭は冷静に、俺に質問を投げかけてきた。

いいのか?まだ、この話、肝心な事がまだ聞けてない…

「すいません!」

「ん?どうしたぁ?」

そう言ってわざとらしく振り返ったロバートの口元には薄く笑みがこぼれていた。

こいつ…かなり性格が悪いぞ。

「過去のお話は分かりました。でも肝心な所を聞いてない!なぜルオさんはトール先生と…姉を見殺しにした人と結婚しようとしたんでしょうか? あのお店では、ナルさんに頼まれたから…だと言っていました。それだけで、結婚を決めるでしょうか?そこを教えてほしいんです。でないと…」


「おいおい! 俺は全てを知ってるわけじゃない。この話だって、本人たちから直接聞いたり、あと少々だが俺の解釈も入ってるんだぜ?

俺はあいつらの昔馴染みだが、村に許嫁を残してきてた身なんだ、だから実際の現場にはほとんど立ち会ってない。それでも俺はあいつらに幸せになってほしいんだ。だから俺に出来るのは此処までだ。これ以上はお前が自分の意志で直接本人に聞くのがすじじゃねえのか?」


そういうと、露天商はさっさと教室を出て行ってしまった。

…確かに、二人の過去にそんな事があればお互い話づらくなるだろうし、今回一番重要な事は”本人たちの気持ち”だ。

それはいくら何でもは相手に直接聞く以外に知るすべがない。

だが、どうする?

三人いや四人の過去が分かった。

それはかなりの収穫だ。だけどそのおかげでまた謎が増えてしまった。

増えた謎に一人教室で頭を抱えていると、


カタッ…


と廊下で何かが動いた音がした。

勿論、ロバートが教室を出て行って時間が経っている。

とすれば考えられるものは少ない。

…俺が露天商から紙を渡された時、やけに大人しいと思ったが、もしかして…

「おーい、いつまでそこに隠れてる気だ?」

そう試しにカマをかけてみる。

すると、聞きなれた姦しい声が聞こえてきた。

「ほら! このままではいつかばれてしまうと言ったではありませんか!」

「でっでも、少しでも音をたてたらアルさんに見つかっちゃうじゃないですか。なら動かない方が…」

「まあまあ、お嬢様もクーノもそこまでにして、すまんアルス…盗み聞きした事は謝るからちょっと手を貸してくれないか?」

長時間無理な体勢で聞き耳を立てていたらしい三人が、硬くなった体を痛そうに、こちらに助けを求めてきた。


待たせてしまい申し訳ありません。

過去話の書き方にかなり迷いました。

正直皆さんにうまく伝わっているか心配です。


最近、遅れてすいませんとコメントするのが辛いです。

なんとかせねば…



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