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第三十話 騒ぎの後のお話

「でわ、もう一軒行きましょうか…良いですわね、荷物持ちさん?」

「ああ…」

フランソワの容赦ない死刑宣告の様な問いかけに、俺は淡々と答えた。

「…クーノ気にするな、これはアルスが悪い」

と先程から俺をチラチラと窺うクーノにアロワが声をかけた。

「はい…アルさん辛かったら…」

「クーノ!荷物持ちさんは一人でも大丈夫ですわよね?」

「ああ…っと、大丈夫だ」

俺はフランソワの変に圧力のこもった視線に返事をしつつ、両腕にある荷物を抱え直した。


あの後、カルヴァ先生が乗り込んできたおかげで、話の大半が聞けずじまいに終わってしまった。

それだけならいいのだが、女性陣にも俺がなぜデートに誘ったのかが、ばれてしまい罰として荷物持ち兼財布として絶賛活動中である。

…まああの騒ぎのおかげで料理代は請求されなかったから金には余裕あるから大丈夫だと思うんだ…それにしても…

と荷物を抱え、7件目の店の扉を開いた。


「これなんかどうかしら、ほら荷物持ちさん! 貴方に聞いていましてよ」

とフランソワは赤いブラウスを持ち上げ俺に聞いてきた。

…おいおい、まさかそんな高そうなものまで買うのか?

「い、良いと思いますよ、お嬢様」

なんとか回避しなければと適当にお茶を濁した。

「足りませんわ、具体的にどうにあうのかハッキリして頂けないかしら?」

しかし、なおも食い下がって来た。

「そうですね、その情熱的な赤い服はお嬢様の内面をよく表していると思います。たぶん最初にそれをみた人は貴方をとても美しい情熱的な人だと思うでしょう。そこにお嬢様の美しさが加わればパーティで目立つ事間違いなしですよ」

どうだ!この機械のような懇切丁寧な褒めようは!

相手は機嫌を損ねるはず…


「そ、そうかしら?フフフ…良いでしょう。これも購入させていただきますわ」

「はい、ありがとうございます」

…。

そう俺の言葉を聞き、嬉しそうに店員に服を渡すお嬢様。

「ああ…良いですわね。貴方といると何でも買ってしまいそうですわ」

「フランソワさん、もうそれくらいで…」

とニコニコと次の服を選びだしたフランソワを止めようとクーノが止めに入る。

「あら、私褒めていましてよ。ほらクーノも選ばないのであれば私が選んであげますわ」

「え!?私は別に…いいですよう」

「遠慮はいりませんわ! ほらこちらに良い服が…」

「え?え?良いですってばぁ…」

と戸惑う声を残し、店の奥に消えて行った。


…何か時間かかりそうだし、ちょっと荷物でも置かしてもらおう。

なにしろ女性の服選びは時間がかかる。

前の店で痛いほどその事を経験したため、とりあえずの小休止として大量の荷物を店の床に置き体を解す。

「フフフ…ああなったらお嬢様は長いぞ。私も以前ご一緒したからな、覚悟しておけよ」

とアロワが笑いながら声をかけてきた。

「そうなんですか?じゃあその時は先輩が荷物持ちを?」

と興味本位で聞いてみる。


まあ実際あのお嬢様の事だ。

出来愛しているアロワに荷物持ちなんてさせなかっただろう、と想像はついていたが一応聞いてみる。

「残念、その時は家の召使いが一緒だったからな。そのものに持ってもらっていたよ、ところで…」

「なんですか先輩?」

「いいや、お嬢様もあの通り怒っているが私も結構怒っているのだ」

「その事については本当にすいません。本当に先輩達には悪い事を…」

「いいや、だからな…別に謝らなくて良いんだ…ただな…その…」

「?」

不自然な話の切り替えと歯切れの悪い先輩の言葉に何を言おうとしているのか考えるがどうにも見当がつかない。

一体何なんだ?

「いや、だからな…その私も何かしてほしい…というか…」

「まあ…俺に出来ることなら…」

何かしてほしいらしいアロワの言葉にとりあえず了承してみる。

それにしても、なぜこんなに歯切れが悪いのだろうか。

「そうか!なら…この前みたいに…抱きしめて頭を撫でてはくれないか?」

「え?まあ…良いですけど、そんなことで良いんですか?」

「ああ、是非頼む」

そういうとおずおずと頭を出してきた。

その突然の申し出に戸惑いながらもアロワがしてほしいのならと、彼女を抱きしめて頭を恐る恐る撫でた。


ギュッ

「ん…」

「えーっと…こんな感じですか?」

「ああ…続けてくれ」

何故だか知らないが、お互いいつの間にか無言になってしまった…だが、とくに話す事もないため、とりあえず頭を撫で続けた。

しかし、この沈黙は長くは続かなかった。


「いいではありませんか…全部似合うのです、彼に買って頂きましょう」

「でも悪いですよう…そんなこと」

「いいではありませんかね…ぇ?あ、あ、貴方達!何をしているんですの?ふ、不潔ですわ!」

と大声を上げたフランソワに腕の中のアロワが俺を突き飛ばした。

「おわっ!」

「お、お嬢様こ、これはですね…あの、ふ、不可抗力なのです!」

…そのいい訳は苦しいのでは?

と他人事のように眺めていた俺の後ろからクーノがドカドカと足音を盛大に鳴らしやって来た。

…かなりご立腹のようすですね。

「アルさん! 私これ全部買いますから!!お願いしますね」

「お、おう」

なぜか知らないが、クーノから発せられる勢いに気圧されそのまま渡された服を店員の所に持って行く。


「まったく…イチャイチャして…私も…」

なんかブツブツ言っていたけど気にしない事にしよう。


―――――――――――


「ありがとうございましたー」

と店員がにっこりと笑顔で送り出してくれた一方で、俺の懐はすっかり冷え込んでしまった。

そして、一段と増えた荷物を持つと、前を歩く女性陣を見つめた。

「ふぁー買いましたわねぇ」

「ええ、良いものが揃っていました。このお店は当りですね」

「私、あんなに自分のモノ買ったの初めてです」

…女性陣は本当に楽しそうに会話を楽しんでいやがる。


俺はさらに増えた荷物を抱えながら、逆に軽くなった財布の感覚にため息をついた。

「ではそろそろ帰りましょうか」

「はい」

「ええ」

「…はい」

そんなこんなで俺たちはデートを終え学院に帰るために馬車の停留所に向かった。


―――――――――――


「おーいあんたたち!」

もう少しで停留所と言うところで、町に来て最初に会った露天商がこちらに手を振っている。

「なんでしょうか?」

「さあ、また何か買わせようと言うのでしたら丁重にお断りいたしましょう」

「その方針で行きましょう」

「俺もそれで構わないです」

ととりあえず相手への方針を決め露天商に近づいて行った。


「いやぁ、さっき渡し忘れたものがあってね、ちょっといいか?」

正直何か買わされる気でいた俺たちは、ちょっと拍子抜けしてしまった。

「何ですか?私忘れたものって…」

そう言うと露天商は俺の懐に何かを滑り込ませた。

(ここじゃあ、何だ…またあとでな…)

…ふーん

「そうなんですかぁ、ありがとうございます」

「ええ、じゃあそう言う事で…今後ともごひいきにお願いしますよ」

「もちろんですよ、わざわざありがとうございます」

そう言うと露天商はそそくさと人混みの中に消えて行った。

「アルさん?何をもらったんですか?」

俺のいつもとは違う満足そうな声に、周りが首をかしげた。


「ああ、あの指輪の詳しい手入れの方法が書かれた紙をもらったんだ。ダートの俺には何かと重宝するものだから必要なんじゃないかってさ…っと、ほれ」

そう言って、荷物を抱えた状態で、なんとか小さく折りたたまれた紙を掲げて見せた。

「あら、随分とお優しい方がいるのですわね…」

「確かにただの露天商がそこまでするとは…」

「確かに立派だと思います…アルさん何かされませんでしたか?」

とフランソワとアロワはしきりに感心したように頷いていたが…まあ良いだろう。

クーノは相変わらず、見ているところは見ているようだ。

「気にすんな。客商売だからな、サービスしてでも固定客作りたいんだろ…何もされてないよ。ほら丁度馬車が来たみたいだ」

俺は懐に紙をしまうと、荷物を抱え直し、馬車へと向かった。





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