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第二十八話 目的+デートのお話

俺たちは学院から一番近くの町に来ていた。

婆さんからのメモによると、町の中心に例のレストランがあるらしい。

にしても…と俺は町の入口から続く人混みを見渡した。

人が行き交い、商人は客寄せを行い、通行人は商品を買っている。

子供ははしゃぎ、大人はあちこちで井戸端会議をしている。

俺にとって、この世界の街並みは初めて見る光景だ。

人が集まり生活するだけなのに、このエネルギッシュな光景は俺にとって新鮮に映った。


「アルさん!! 早く行きますよ」

と俺の腕を引っ張る小娘もといクーノ。

学院の時とは違い、今日は白を基調とした服を着ている。

元々素材が良いのと、その健康的な印象と相まって通り過ぎる男性はみな振り返るほどだ。

しかし、久々の外出にはしゃぐその姿は、俺には年相応に喜んでいる子供のように映った。

「おいおい、あんま引っ張るなよ、他の二人もいるんだ。ゆっくり見て回るぞ」

俺もこの世界の町は初めて来るのだ。

ここはゆっくり見て回りたい。


「お嬢様、ここは安全が保障されている学院ではありません。十分に警戒を…」

と俺の横を歩くアロワがフランソワに小声で話しかけていた。

「あら、アロワ…心配しなくても大丈夫ですわ。それに嬉しいのは分かりますが、やはりその腰の目立つ剣は無粋ですわ」

「い、いえ…こ、これは、あくまでもお嬢様の護衛のためです」

と慌てて返すアロワだが、その腰にある剣は女性が持つには余りに大きく異彩を放っていた。


数日前、フランソワはアロワを自分の騎士として家から認めてもらうよう直談判に行ったのだ。

そこで、アロワの父親に今までどれくらいアロワが自分に尽くしてくれていたか、とうとうと説いたらしい。

そのあまりの熱心ぶりにフランソワの父親が折れてアロワの父親を説得し、アロワが正式に騎士として認められる事になったのだそうだ。

そして、その証としてアロワは今腰にさげている剣を騎士の証として父親から賜ったらしい。


「あ、アルスお、お前はどう思う?私としては目立ちはするが、おかげでお嬢様に害なす不届き者は寄ってこないのではと思うのだが…」

と腰の剣に手を当て、不安そうに上目づかいで俺に話を振って来た。

アロワの普段の鋭い印象とのギャップに驚きつつも、冷静に考え言葉にする。

「まあ立派ではありますよ。でも護衛対象であるフランソワ様があまり気にいっていないようですから、これからは式典の時ぐらいにして普段は自分が使い慣れた武器を携帯した方がいいかと思います」

と無難な意見を述べた。

第三者からの意見は大事だが、そのせいでギクシャクしても後味が悪い。

ここは無難な意見を言うに限るのだ。


「全くですわ、それに使い慣れた武器の方が戦いやすいというものです。アロワ、今後は式典以外でのその剣の所持は禁止と致しますわ」

と俺の意見に上乗せするかのようにフランソワが付け足した。

「わ、分かりました…お嬢様がそこまでおっしゃるのでしたら、そう致します」

とあからさまに残念そうな顔をするアロワ。

きっと、彼女の中で認められた証があの剣なのだろう。

自分の行いと主の直談判により勝ちとった初めての成果なのだ。

そう考えると、あの剣に固執する彼女の気持ちもなんとなく察する事が出来た。


「アルさん!!早く行きましょう!私、見たいものがあるんです」

「わかった、わかった先輩、お嬢様! 辛気臭い話しないで今日は楽しみましょう、とりあえずみんなの行きたい所を回ったら食事にするって感じでどうですか?」

「そうだな」

「まったくですわね」

相変わらず俺の腕を引っ張るクーノに呆れつつも、俺たちは人混みの中当てもなく歩きだした。


「おーい、そこの譲ちゃん坊っちゃんたち! ちょっと見て行かない?いいもの揃ってるよ」

しかし、歩きだして早々、露天商の男に呼び止められてしまった。

商品をちらっと見たところ、主に小物を取り扱っているようだ。

露天商の男は、若いと言えば若いが生やしている髭のせいで幾分老けて見えた。

俺は冷静にこれからの予定について考えた。

皆それぞれ行きたい所があると言ってたし、ここで余計な時間を食うわけにもいかない。

ここは無視して行こう、と俺がフランソワとアロワに視線を送ると二人とも同意見だったようで、お互い頷き合った。

よし!あとはクーノ…

「わーい! なんですか?」

「「「…」」」

「おう、嬢ちゃん丁度いいアクセサリーがあんだけど見て行かねえか?」

「ですってアルさん!!見て行きましょうよ?」

この娘は…さっき自分で見たいモノがあると言った事も忘れてやがる…

スルーしようとしていた俺たち三人を余所に、露天商と笑顔で話すクーノに若干殺意を覚えるも、焦ってもしょうがないと考え直した。

「ほらほら、坊ちゃんも見てってくださいよ。この輝き!! 良いでしょ?」

そういって露天商は広げた商品を俺たちに見せてくれた。


大小様々な小物があるが、どれもこの世界特有の魔力が宿っている物の様で、どの商品にも必ず魔法陣のようなものが刻み込まれてる。

「この光っている指輪みたいなものなに?」

「お、おお…さすが、ダートの坊ちゃん御目が高い!! これはね、<炎の指輪>といって文字通り坊ちゃんみたいなダート向けの品物さ。指にはめて、魔力を込めるだけで初級魔法の<ファイア>が放てる優れ物だよ!」

俺がダートだと言う事に今さら気付いたのか一瞬だけ眉を細める露天商、しかしそこは客商売、慣れているのかすぐに笑顔になり、俺に丁寧に説明してくれた。

…まあそれにしても、客に気付かれる時点で、腕はそれなりなんだけどね。

と内心で湧きあがった感情は放っておいて、目の前の指輪を見つめた。


…なるほど、その手があったか…


俺は頭の中で閃いた事をそのままに、はしゃぐクーノ以外の二人に視線を移した。

フランソワは既に見飽きたのか、若干あくびをしながら商品を覗いている。

アロワは女性向けの小物があってもどこ吹く風か、隣のナイフや小剣の方を真剣に見ていた。

不味いな…早くも二人が飽きてきてる。

「じゃあ、この指輪いくら?こんなの俺くらいしか欲しがらないし結構安いんでしょ?」

こんな時はさっさと安い商品を買って退散するに限る。

そう考え、早速値切り交渉にかかった。

「おう、そうだなぁ確かに売れ残ってるからなぁ…本来なら1000アソートするんだが半額の500アソートで良いぜ」

「高いって! 100アソート」

「おいおい、こっちも生活かかってんだ。400アソート」

「でも、皆できる事を今さら道具でするってのもなー200アソート」

「わかった! なら坊ちゃんの指のサイズに合わせるからそれも合わせて400アソート! これ以上はまけらんねぇ」

「よし、買った!」

…まあこんなとこが落とし所だろう。

俺が了承すると、露天商は若干ひきつったような愛想笑いを顔に浮かべ、愚痴をこぼした。

「ったく。値切り上手だな坊ちゃん。確かにこいつはいつも売れ残ってた商品だから、今回は安くしとくけど魔法具ってもっと高いんだぜ。ほら指のサイズに合わせっから手出してみ」

そう言われて手を出すと、露天商は慣れた手つきで指のサイズを測り始めた。

「なるほど、思った通り指輪の方が大きいか…これならすぐに調整できそうだ」

そう言うと、後ろにある荷物から次々と工具を取り出し、作業を始めた。

「すごい…おじさんもしかしてなんかの職人さん?」

そのスムーズな手際に思わず、賞賛すると露天商は笑いながら答えてくれた。

「まあな、俺はこう見えても細工職人もやってんだよ。こんなことは朝飯前だぜ。…ほら完成だ。はめてみ?」

そいって渡された指輪はすっぽりと俺の指にはまった。

触って確認しても、リングの部分に全く違和感がない。

指にぴったりとフィットしていた。


「すごいねおじさん、ぴったりだよ」

「まあな。こう見ても腕には自信があんだよ。それに俺にゃあこの女房道具もあるし、大抵の事は出来るぜ」

そう、自信たっぷりに胸を張る露天商。

「先程おっしゃっていた、女房道具ってなんですの?」

と後ろから声が聞こえた。

振り返ると欠伸をしていたはずのフランソワが興味ありげにこちらを覗きこんでいた。

アロワもいつのまにか指輪をじっと見つめ、こちらの話に耳を傾けている。

「おう、すまねえ…職人同士しか分からねえこと言っちまったな。

女房道具ってのはな。

カミさんが旦那の名前を彫った道具を贈る、まあ…いってみりゃゲン担ぎさ。


大抵の職人は自分が使う道具は絶対に他人に触らせねェんだ。

俺たちはこの腕一本でおまんま食ってる。

だからこそ良いもん作るためにいつも一人孤独に物と向き合うんだ。

辛い時にふっと女房道具を見るとな…ぐにゃぐにゃに彫られた自分の名前があってそんだけで力が湧いてくんだよ。

もう疲れなんて吹っ飛んじまうのさ。

だからこれは結婚してる職人なら誰でもやってる”おまじない”みたいなものさ」


そう言って見せてくれた道具には…確かに文字らしきものが彫られていた。

「なるほど…勉強になったよありがとおっさん」

とはめた指輪を指で触りながらお礼を言った。

「おう、また小物が欲しくなったらいつでも来な。俺は大抵此処か、この先の工房にいるからな。お嬢ちゃんたちも御用があれば、よろしくな!」

そうちゃっかり宣伝をする露天商。

この人はどちらかと言うと、職人気質な部分が強いのだろう。

そんな人がどうして露天商をしているのか…まあ人間色々ある。

そこを聞くのは無粋というものだ。

「はい、機会があればいずれ…今回は良いものを見させていただきましたわ。」

「大変勉強になりました、それでは失礼します」

「それじゃあ、おっさんまたな。ほれ、いくぞクーノ!」

「ええ!?まだ見てないものが…あぁ…」

そうお礼をし、いまだ商品に釘付けのクーノを引き剥がした俺たちは、再び町を散策し始めたのだった。


更新が遅れて申し訳ないです。

最近忙しいです。

ですが、頑張って更新していきたいと思いますのでお付き合い頂けたら幸いです。

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