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第二十五話 祝福のお話


「では、二人一組になって模擬試合を始める!」

俺たちは訓練場に集まり互いに練習用の剣を持って向かい合った。

幸い、嫌ない記憶しかない「二人一組」もボッチが二人いるお陰で問題なく、組む事が出来た。

「アルさんっ!どうします?アルさんはスキルを持ってないし…」

と戸惑うクーノに対し俺は、別段何でもなさそうに答える。

「気にするなクーノ、お前だけスキルの練習しとけ、俺はそれを受けるだけで良い」

「で、でもそれじゃあ…」

「別にスキルを受けるのも立派な鍛練の一つさ、それに最近はお前の事や店の手伝いで全然体使ってないからな、ちょっとした肩慣らしさ」

そう言って剣を構えた。


―――――――――――――――――


ガキンッ!


クーノに剣を弾かれ、俺はドカッとその場に尻もちをついた。

「ハァ…ハァ…お、お前また強くなってないか?」

と息を切らしながら喋る俺に対し、クーノは少々嬉しそうな顔で

「えへへ、そうですかぁ…なんか最近体も軽いし、調子良いんですよ」

と話す。

あの後連続で<スキル>を放つクーノを必死で受け流していたのだが、結局10回も見たないうちに剣が飛んで行ってしまった。

才能が高い者って言うのは、つくづく反則すぎる…

と俺はすっかり汗を吸って重くなった体を動かし周りを見渡す。

…まだまだぁー<浮雲っ!>…

…<かっ回転切り!>…

俺の視界の何人かがスキルを使い必死に戦っていた。

そんな光景をしばらくボーっと見ていると面白い事に気付くいた。

俺が前世の記憶をたよりに<技>を使う際はその時その時で意識して体を動かすため、全て同じ動きと言うわけではない。

しかし、スキルは前段階の予備動作と呼ばれる動きが全く同じだ、それこそ機械が行っているかのごとくスムーズに精確である。

しかし、それも途中まで、技を繰り出す段階になると、剣の軌道が狙った場所にスッと向かっていく。

へぇ…この世界ってなんか便利なようで不便だな。

この現象は自分でその癖を意識したら改善できるのだろうか?

実は意識したら前段階から動きが変わったりするのであれば面白いのだが…

と首をかしげながら考える。

この世界はまだまだ俺のしらない事が存在するのだと再認識し、重い体を起こした。


―――――――――――――――――


一通り模擬試合を済ませると、カルヴァ先生から集合がかかり、先生を囲むようにして集合した。

「では諸君! 試合はそこまでだ! いまから祝福のスキルの有用性を解説しよう。

ではコット君、ミダン君それぞれ私の左右に立ちなさい。」

コットと呼ばれた少年はあまり活発な印象を受けない生徒で、先程のロッソとそれほど変わらない、有体に言ってしまえば大人しい印象の子だ。

対して、ミダンはしっかりと目を見開きやる気満々だ、がっちりとした体格と相まってコットが貧弱に映った。

「よろしくなコット!」

「うん、よ…よろしくミダン…」

とお互いに挨拶を交わす。


「では今から、コット君が先程の祝福系スキルを使いミダン君と闘う、諸君しっかりと目に焼き付けるように!…では、初め!」


カルヴァ先生の声が闘技場に響き渡ると、コットに驚くべき変化が現れた。

一瞬で目は鋭くキッと締り、貧層な体格からは想像が出来ないくらいのスピードでミダンに向かて走りだした。

「うおおおおおぁああ!!」

と大声で叫びながら、相手に斬りかかるコット。


ガキン! ガッ! ギィン!


ミダンも必死に切り返すが、勇猛果敢に攻める、今のコットに戸惑っているのだろうコットの攻めを捌き切れないでいる。

そして戸惑いで生じた隙をコットは見事についてきた。


ガァンッ!


激しく剣同士が衝突する音が聞こえ、ミダンが尻もちをつき、剣が後ろに飛ばされていく。

「そこまで、勝者コット!」

「よっしゃぁあああああ!」

カルヴァ先生の勝者宣言と共に大きくガッツポーズをとるコット。

だが先程まで叫んでいたかと思うと急に肩の力を抜いたのかふっと猫背になり、あのキリっとした姿が毛見えなくなってしまった。

そして、尻もちをついたミダンに手を差し出した頃にはすっかり元通りになっており、囁くような声で

「だ、大丈夫かい?ミダン…」

と喋っているだけだ。

「ああ、お前強いな!見直したよ!」

そう言って元気に立ち上がったミダンはコットの豹変ぶりに驚いているものの、そんなぶりは見せず、ミダンはコットと固い握手を交わした。


「どうだ?<祝福>一つで逆転も可能だし、弱い自分を一時的に変える事も出来る。<祝福>を受けるかどうかは諸君ら次第だが、今後の参考にしてもらいたい。以上今日の授業は此処で終了する!」


タイミング良く、授業終了の鐘も鳴り、皆闘技場の出口に向かっていく。

今回の話題の中心にいるコットとミダンは皆に囲まれすっかり人気者だ。


俺はゆっくりと腰をあげ、埃を払い歩きだす。

後ろからクーノの元気な声が聞こえてきた。

「アルさん!!すごいですね。<祝福>って!私も受けてみようかな…」

そうつぶやくクーノに俺は笑いながらやんわりと釘をさしておく。

「お前…加護持ちの癖にそんな浮気みたいなことしていいのか?せっかく制御してる力が暴走しちまうかもしれないぞ」

「ええっ!?た、確かに…ちょっと軽率だったかもしれません」

力が暴走するという言葉を聞きかなりの動揺を見せるクーノ。

やはりクーノの中で力の暴走はかなりのトラウマとなっているのだろう。

それっきり<祝福>について何も言わなくなってしまった。


そんなクーノを見てホットしつつ、俺は内心からこみ上げる冷や汗が止まらなかった。

一時的であれ何であれ、神と言う自分以外の存在に自分の心を支配させるというのは、確かに祝福と言えば祝福かもしれない。

それによって自分の望んだ結果が出るのであれば、それを受け入れるのもアリかも知れない。

だが、俺のような矮小な人間には到底受け入れられない光景であった。

ある一定の条件を満たすと与えられる<祝福>…そのおかげで、確かに自分の性格を克服できてはいるのだろう。

それは自身の気持ちにも、良い影響を与えるし、勝つ事、頑張る事は消して無駄ではない。

その立ち向かう姿勢は立派だと思う。


しかし俺の目にはコットが、まるで洗脳されているかのように映ってしまった。

自分の性格が一瞬で変わり、全力で相手を倒そうと斬りかかるその姿…

思い出すだけでも震えが止まらない。


「アルさん?」

俺の様子がおかしいのに気付いたのだろう。

クーノが心配そうに声をかけてきた。

「な、何でもない。さて次の授業に遅れちまう。さっさとここを出ようぜ!」

「はい!」

そうクーノに声をかけ、怯える心を奮い立たせると俺たちは闘技場の出口に向かった。


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