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第二十四話 違和感のお話

「では、今日はスキルについて講義していく!」

と教壇に立つ初老の教師は良く通った太い声で話し始めた。

彼は数回教室を見渡して一通り教室の全員を見渡すと、最後に俺を一瞬だけ睨みつけ講義を開始した。


「いいか! スキルは貴族として当然の嗜みだ! その取得方法は、各スキルの条件で異なる。諸君らは当然一つくらいは何らかのスキルを持っているだろうが…おいそこのダート!

お前は何か習得しているのか?」

と急に俺に話を振ってきた。


!!!!!ッ


教室の他の生徒たちに緊張は走る。

まだ、俺とマルクの決闘が終わって数日だ。

学園の中でも、あの決闘の事はある意味公然の禁句扱いだ。

それは相手のマルクが停学処分を受けて学園からいなくなった事で余計に強くなっている。

そんな状況で渦中の人物に話を振るなと、全員の視線がひしひしと先生に注がれるのが分かった。

実はこの先生、名前をカルヴァ・フォン・ムスランブルといい、気に入らない生徒をいびることで有名な先生で彼が最近没落したことも口の悪さに拍車をかけていた。

俺は今まで授業態度もよく普通に過ごしていたはずだったのだが、どういうわけか俺に敵意満々のご様子だ。

勿論、授業態度が良くても基本的に教師たちからは、まるでいないかの様に扱われる事がほとんどだが…だからこそなぜ俺に話を振ったのかわからなかった。

「いいえ、一つももってませーん」

とりあえず椅子から立ち上がり、正直に大きな声でハキハキ言ってみる。

相手の出方を見ないと、なぜこちらに、“無関心ではない何かしらの感情“を向けているのかわからない。


俺のその答えを聞いたカルヴァ先生はフンとおもしろくなさそうに鼻息を鳴らし、そのまま皆に言い聞かせるように喋った。

「ふん! 使えん奴だ! そんな奴でさえまぐれで勝つこともあるのだから、世の中嫌になる! しかし諸君!そんな中で少しでも勝率を上げる要素が今日教える「スキル」だ。しかしスキルと言っても千差万別!! それぞれ自分の戦い方にあったスキルを身につけてほしい。決して!スキルを何も持たないという馬鹿で愚かな者にはならないようにしてもらいたい!」


そのあとじっくりとこちらを見つめ、

「さっさと座れダート!」

と一言怒鳴り授業を再開した。


…まったくなんだってんだ。

俺は吊るしあげられた事よりもむしろ怖いくらいむき出しの敵意に驚いていた。

人は誰でも触れられてほしくない事が一つや二つある。

だが人は知らず知らずのうちにそこに触れてしまう場合がある。

その怒りが何によって引き起こされたのかわからなければ対処のしようがない。


例えば、明らかに何が原因で起こっているのかがわかる隣の席の奴とかだったら対処の出来るのだが…

「おい…クーノ気にすんな…」

と俺は横で眉毛に皺を寄せたクーノに囁いた。


「だってアルさん…あんなこと言われて悔しくないんですか?アルさんは何も怒られるような事してないのに!」

と俺の代わりに怒ってくれている優しい女の子に、俺はなだめるように告げた。

「いいんだよ。この世界、町や村から一歩でも外に出れば、野党や魔獣がうろうろしてるんだ。そんな中で一つのスキルも持っていないお気楽な野郎がいたら、むしろ怒るくらいが丁度いいんだよ。怒るってことはな…なにも相手が憎いからするだけじゃないんだ。

そう言った意味ではカルヴァ先生の叱咤はむしろ良い忠告だよ」


そうごまかすように呟き俺は頭の中で再度考える。

そう…その剥き出しの敵意さえなければ俺はむしろあの人を評価したくらいなのだが…

その剥き出しの敵意が何のために俺に向けられているのかが分からない。

俺の冷静な解説にクーノも頭では理解したのだろう。

こわばった顔が徐々に拗ねたような顔になって最後は一言、

「わかりました…もういいです」

と呟き、そのまま教壇の方に顔をそむけてしまった。


そんなクーノの頭を軽くポンポンと撫でて

「ありがとな…」

と呟いておく。

クーノは何も言わなかったが、耳が真っ赤なのでよしとしておこう。


――――――――――


「ではこのように、スキルの取得には才能が恐ろしく関係してくる。才能が高ければすぐに覚えられるし、なければ通常の何倍も鍛練を積み重ねなければいけない。そして才能が高い諸君らは、短時間で多くのスキルを覚えられる事だろう。その力をこの国のために生かしてほしい。何か質問はあるか?」

と授業も中盤に差し掛かった時の事だ。


「ハイ!先生質問があります」

一人の生徒が手を上げた。

「何かなロッソ君、言ってみなさい」

手を上げた生徒は見た目が少し大人しい印象の男の子だった。


確か平民出身で、父親が探鉱者ギルドの長をしていたはずだ。

「私は強くなりたいのですが、どうしてもモンスターや人を前にすると怖気づいてしまいます。何かスキルで解決できる方法はないのでしょうか?」

と訴えた。

その問いに先生はうんうんと頷くと、一瞬だけ此方を見て話し始めた。

「確かに、いくら魔法や剣が使えても、敵の前で怖気づいてしまっては意味がない。

しかしそれも解決できる良い方法がある。

おいダート!

無能なお前にも聞いておいた方が良い情報だ心して聞くように!」

とわざわざ俺にまで話を振って来た。

「いいか、そんな時は精神に効果を及ぼすスキルを身につければよい。

一般的にあまり知られていないが”祝福”という方法がある。

例えば、君のように大人しい性格の子は戦闘系の神を祀る神殿…たとえば戦闘神として名高い阿修羅神殿に行き、祝福を受けることによって、スキル<阿修羅の祝福>を手に入れる事が出来る。

これは戦闘時に自動的に発動し、相手を見ても臆する事がなくなるという素晴らしいものだ。しかもだ!神殿に行き祝福を受けるだけで手に入れられるという至極簡単なスキルでもある。

ダートであっても習得可能と言う素晴らしいものだ。特にそこのダートは、良く覚えておくように!」

「先生ありがとうございます!」

と勢い良くお礼をいったロッソに対し、

「…参考になりました、ありがとう…ございます」

俺はいやいやながら頭を下げた。

確かにそんな事が行われているとは初めて知ったが、別にだからと言って祝福を受けようという気は起きなかった。

俺はこの普段から捻くれた性格を含めて俺なのだ。

祝福そんなもの>は別にいらない。


俺のお礼に気を良くしたのか、先生は上機嫌で声を張り上げた。

「よし、ではこの中で“祝福系”のスキルを持っている生徒はいるか?」

その問いにクラスの中からちらほらと手が上がる。

「では、今から外で模擬試合を兼ねた、スキルの練習を行う!全員訓練場に集まるように!」

と言って部屋を出て行ってしまった。


ふーメンドクサイことになったなぁ…

俺は先生が出て行ったドアを眺めながらふとそんなことを思うのだった。


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