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第二十三話 新たな日常のお話

突然だが、道具と言うのは大切に使えばそれだけ長持ちするものだ。

そして、その道具が使いこまれるほど、使用している人間の癖や仕草が、傷や痛みとなって道具に現れてくるものだ。

と俺は依頼された道具の手入れをしながら考える。

今俺の手の中にある小振りの金槌…その柄を新しくするため頭の部分を取り外ずそうとしていた。


「ほら!お客さんが来ただろ?”いらっしゃいませ”と大きく元気な声でハキハキと!」

と壁一枚隔てた向こう側でコリン婆さんが説教する声が聞こえる。

まったく初日から人見知りするクーノに接客とは酷な事をさせる…

「えっと…いらっしゃい…ませ…」

「声が小さいもう一度!」

「はい! いら、いらっしゃいませ!」

「やれば出来るじゃないか! その調子だよ…」


遠くで聞こえる悲鳴に聞こえなくもない接客挨拶を聞きながら俺は金槌の止め木を外し頭を取り外すことに成功する。

…あーあ、アイツに家事を仕込ませて魔法の練習に没頭する毎日を夢見てたのに結果、このありさまかぁ…

と俺は何度目かのため息をついた。


あの時、クーノとアロワに掴まった俺は、あと数歩のところで学院からの脱出に失敗し、連れ戻された。

そして、俺が両親から学費として預かっていた俺の全財産を置いてきたのだがそれでも足りず、映像水晶と情報料を払わなければならないため、コリン婆さんの店で下働きをしている。


もちろんクーノも同じだ。

クーノは持ち前の整った容姿から店番を、ダートの俺は裏で道具の手入れをするという何ともみじめな状態になっている。

正直クーノあいつに肩入れし過ぎたと今さらながら思う。

俺は他の奴より先に進むためにアイツを助けようとした。

だが、アイツを助けるには結局、俺の日常を犠牲にしなくてはいけなかったのだ。

…まぁ、後悔してないし、別に良いけどね。


と俺は横に逸れていた気持ちを引き締め、依頼人が作成した新しい柄を取り付けようとする。

…ふーん。

取りつけた柄は見事に頭とのバランスがよく、頭の部分の傷と少々の錆さえなければ誰がどう見ても新品の金槌である。


これで頭の部分を魔獣ジグリスの皮で出来た皮鑢を使い、丹念に磨いて錆を落として行けば完成である。

…流石トール先生、大工の腕も一級品ですよ。

と俺は改めてこの金槌を依頼してきた人物、トール・ヘパイストスについての評価を改めた。


実は作業自体は本来の魔法道具屋の趣旨とは反するものである。

しかし、先日俺が道具屋で下働きしているとの噂を聞いたトール先生が直々に店を訪れ、俺にこの金槌の柄を交換してほしいと依頼をしてきたのだ。


正直言って大工の腕ならば、学院で右に出ない人物からの依頼だけに初めは断ろうとしたのだが、トール先生のどうしてもという意見になくなく了承したのだ。


コリン婆さんにこの事を話すと、

「ひゃっひゃっひゃ!アイツもとことんお前さんが気に入ったのさ。小僧、受けたからにはしっかりと十全に仕事するこった」

と言っただけで特に口出しする気はないらしい。

…とりあえず、今日はこれくらいにして明日にでも鑢をかける作業に入ろう。

今日やらなければいけない事はこれだけではない、他の備品の整理も行わなければいけない身なので、一端トール先生の金槌を切りの良いところまで仕上げ俺は他の作業に取り掛かった。


「アルさん!早くしないと遅れちゃいますよ」

と俺たちは息を切らせながら廊下をひた走る。

朝の店の支度を手伝ったのだが、結局クーノが恥ずかしがってこんな時間になってしまったのだ。

だが俺の体力では全速力で走ったとしてもクーノに追いつけない。

「わかった! 分ったからさっさと行けって」

とクーノを急かして先に行かせようとするが

「ダメです!一緒に行きますよ!」

そう言ってクーノは俺のベースに合わせるかのように並走する。


クーノは全然余裕だが俺はもう息も絶え絶えだ。

才能と言うのはこんなところまで影響するのかと嫌になりながら、ようやく見慣れた教室が見えてきた。


教室に入ると幸いまだ先生はおらず、皆雑談をしていた。

…おい、あいつだ…

…まったく女侍らせて登校ですか…

とたんに、教室に緊張が走るのが分かる。

ダートが侯爵家に盾突いただけでもすごいのに、決闘を行い勝利してしまったのだ。

しかも相手のマルクは停学処分を受け、昨日の時点で寮から一時的に退寮している。

どう考えても何かあったとしか思えない状況だ。


シーンと静まり返る教室を尻目に、俺とクーノは席に着く。

「あ、アルさん! なんか怖いですよ!皆私たちの事、チラチラ見てますし!」

とクーノが怯えた目でこちらに訴えかけてきた。

「気にするな皆、俺たちの事が不気味に映ってしょうがないのさ、しばらく日常を過ごしてればそのうち飽きて元に戻るよ」

そんなクーノに対し、俺は何事もないように教科書を取り出し、授業の準備を始めるのだった。


更新が遅れてすみません。

最近少し忙しくなってきました。

なるべく維持できるよう頑張りますが時々、更新が遅れるかもしれません。


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