第二話 生まれた世界のお話
「あー…」
気づいたら手足が動かない…おまけに胸が痛い…ここはどこだ…
「あなた、ようやく生まれました」
「そうか!!よくやった」
そんな声が聞こえる。ここでやっと気付いた。自分は死んでまた生まれたのだと。
そして青年は赤子になり、別の世界に生を受けた。
(2年後)
だだっ広い屋敷に早足で歩く音が響く、そしてその音を反響させるかのような広い屋敷の廊下を靴音の主は淡々と歩く。
そして、勢いよく開かれたドアの音とともにどなり声が聞こえた。
家の中で人目をはばからず大声で話している男は髪と同じ黒く立派な髭を生している。
いかにも、貴族という言葉がぴったりの男だ。名前はカール・フォン・ランダルこの家の当主であり俺の父親だ。まあこんなに大声で話しているということはある意味子供である自分に言い聞かせているのではとも思ってしまうが、それ以上に聞かせたい相手がいたようだ。
「全くどうして、あんな味噌ッカスなんか産んだんだ!!」
「何よ!!生まれた時はあんなに喜んでいたくせに、私だって好きで生んだんじゃないわ!!」
と親父に威勢のよい声で返すのは、夫人であるアリア・フォン・ランダル。生まれたときにチラ見した感じだと少しきつめだが美人の女性だったのに最近は小言が多くなっているのかきつめな顔をさらに強張らせて威勢よく言い返している。
せっかくの美人が台無しだ。
彼らはひとしきり口論をした後、俺の世話をしていたメイドに告げた。
「まあいい。では、行ってくる。メイ、そこの味噌ッカスの面倒を頼むぞ。それと妻は…で気が立っている。すまないがよろしく頼む」
「かしこまりました。旦那様、心配しなくてもアルス坊ちゃんは赤ん坊の頃は夜泣きだってしたことがありませんし、何より最近は2才なのにもうあんな難しい本を読んでいらっしゃるんですよ。本当に将来が楽しみですわ。それではいってらっしゃいませ旦那様」
「ふん!そうか…メイ…今夜…」
「…かしこまりました」
とずいぶんと偉そうに親父は仕事場に向かって行った。
まったく、無駄に偉そうだと小物臭しかしなくて非常に残念だな。
冷静に考えてみたりする。
そしてきっちり頭を下げたメイドが、今俺がお世話になっているメイさんだ。生まれた時からオシメに着替えなどなど、正直この人が現状俺の母親になっている。
俺は生まれてから2年間、この世界に馴染むために両親の会話や本などの書物を頼りに字の読み書きや風習などを調べた。
その結果、自分が置かれている状況が見えてきた。
ここは自分の知っている世界ではないこと。
しかも文化レベルが中世で魔法や魔物が居るファンタジー世界であること。
などなど色々あるがとても驚いたことは、人間の才能を数値として算出する技術が確立されている事である。
原理としては魔術的なものでその人間の才能を図るらしいのだが、その結果による弊害は相当なものだった。
才能とは一言でいうと「その人間が生涯に高められる物事の値を示したもの」だ。
例えば才能が100の人間と10の人間が居るとすると、才能が100の人間は10の人間の十倍強くなれる可能性があるということになる。
簡単に言うと、剣術を学ぶにしても才能が100の人間は1日練習しただけで剣の構えや型などができるようになるが、10の人間は10日練習しなければ同じように剣の構えや型が身に付かない。つまり、才能10の人間は100の人間より十倍練習しなければならない計算になる。
恐ろしいことにこの世界はすでに自分の可能性が数値となって表れてしまうのだ。
ついでにこの魔法、何と初級魔法である。
魔法が生活の一部であるこの世界では攻撃魔法や医療魔法など様々な区分があるが、初級魔法は平民でも使えるため才能がどのくらいかが誰でもわかってしまうのだ。
ちなみに俺の才能は30、一般人でも平均100なのだそうだ。それを聞いた時思わず乾いた笑いが出た。
この才能、知識お呼び知能面もこの才能は影響するかというと、俺の考えでは「影響はないと思われる」という結論になった。
前世の知識が存在する時点で俺の判断は当てにはならない。
ただ、メイさんと両親を比べてみても何ら生活に支障がない時点で、「影響はない」もしくは「影響はあったとしても人として生活する上で支障が出る事はないレベルの差」と思われたからだ。
そのおかげで、生まれた当初は喜んでいた両親も俺の才能の低さに絶望して、今ではメイドにすべての世話を任して事実上の育児放棄をしている状況だ。
まあ、育児放棄で食べ物を与えられない、なんてことになっていないだけましだと思う。
せいぜいあがいて生きていこうと心に誓うと、俺は再び目の前の本に視線を落とした。