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第十八話 説得のお話

「一息ついたところで…先輩」

「なんだ?」

俺とアロワは現在テーブルに向かい合って座っている。

クーノには夕食の支度をお願いして二人だけの場を作ってもらったのだ。


「本題に入る前に一つ聞きたい事があります」

「ん?なんだ」

「先輩はマルクの苦しむ顔ってみたいですか?」

俺は個人的には本題よりも聞きたい事を聞いてみる。

アロワはしばらく考えた後、ゆっくりと話してくれた。

「確かに見たくないと言えば嘘になる。だがそれを見た後私は虚しくなるだろう。私は、怨み辛みを語る前に主に仕える騎士だ。主の障害を取り除いただけとして片づけてしまうだろうな。」


「なるほど…」

…ふーん。

そして俺は先輩とテーブルに座り、懐から水晶を取り出した。

「俺の目的はマルクの野郎を潰す事です。そのために俺は先輩が襲われたあの場所でずっと凌辱の一部始終を録画しました。この映像を奴を潰すために使わせてほしい」

そう言って俺は頭を下げる。


「ダメだ」

アロワは、そのお願いに意外にも即答で応えた。

「…それはフランソワ様に迷惑がかかるからですか?」

俺は恐る恐る聞いてみる。

「その通りだ。私一人ならいくらでも協力しよう。だが、お嬢様の事、アルバホーン家の事を第一に考えるのが騎士の…私の意志だ。

なるほどな…通りでお前が来るタイミングが早かったわけだよ。お前の気持ちは分からなくはない…

だがこれだけは譲れない

すまないな…」

そうあくまでも真摯な対応をとり続けるアロワ。


そう…この人はまだ知らないのだ。

マルクによって…状況の力によって決断させられた事を…

真実を知ればこの人は壊れてしまうかもしれない…


それでも、それを含めて俺は彼女を生贄にすると決めた。

そして、それを含めて救うとも…

だからコリン婆さんはこの資料を俺に渡した時、俺の計画を知った時に再度問いかけてきたのだから…

「わかりました。ですが落ち着いて聞いてください。貴方にこれから見せるものはコリン婆さんの伝手を使って調べたかなり確かな情報です。これを見た後でもう一度同じことを貴方に問うつもりです」

そう言って、俺はコリン婆さんから渡された羊皮紙を取り出し、アロワに見せる。


それを何事かと読んでいくアロワ。

だんだんと顔が険しくなっていく。

「こ、これは?」

「はい、アルバホーン家とデリオット家の間で取り交わされた契約書その写しです」

「こ、これは…「今回の援助は、アルバホーン家からの要請により行うものである」だと…そ、それではマルクの口添えで話がまとまったというのは…」

真実を知り、怒りに震える先輩に俺は淡々と告げる。

「はい、全くのでたらめです。奴自身もこの事を知っているはずです。そしてこの状況ではフランソワは手に入らないことも。だが、お付きの騎士であり事情をよく知らない貴方なら、脅せば楽に手に入れる事が出来る…そう考えたのでしょう」


そして最も最悪な事を告げる。

俺の予想出来る事、奴と同じ屑だからわかる事。

「たぶん、奴は毎夜それを想像して楽しんでいる。

貴方が真実を知る時…それはたぶん援助の返済が全て完了した後です。

騎士として誇りを持ち続けている貴方なら、誰にも言わず口を閉ざし続けたでしょう。

あいつは何時あなたが壊れるのか。

それとも返済が終了した時に自分の口で貴方に真実を告げ、あなたがどんな顔をしてくれるか楽しんでいる」



部屋に静寂が走る。

誰も何も言わない。

と、突然アロワが笑いだした。

「アハハハハ! なーんだ。そんなことだったのか。私がよく確認もせず勝手に行動して…勝手に…体を…」


ガタッ


そうつぶやくや、台所に走り出すアロワ。

しまった! 

俺は急いで後を追う。

「あれ?アロワどうしたんですっ キャ!」

俺が中に入ると、アロワは既にクーノから包丁を奪い取り自分の首に当てていた。

「先輩!」

「止めるなアルス! その映像は好きに使っていい…アイツを潰してくれ…サヨナラ」

アロワのそんな言葉に俺は構わず走り出す。

くっ!間に合わない…


カラン! 


しかし、首に突きささるかに見えた包丁はクーノの手刀によってたたき落とされていた。

「何やってるんですか! そんなことで死んじゃダメです!お風呂で言ったじゃないですか! アルさんならきっとどうにかしてくれるって、どうにかしてくれる前に自分が死んじゃ意味がないんですよ!」


クーノの突然の叱咤に驚くも、俺は崩れ落ちるアロワを抱きかかえる。

「その通りです。先輩、此処で死んでしまっては何もならない。死んだ貴方はいいでしょう。ですが主のフランソワ様はどうするのです?彼女も思いつめるでしょう。支えてくれる家臣がそんな辛いことを抱えていたなんて、そして自己嫌悪するでしょう。そんなことに気付かなかった自分に。最悪貴方の後を追って、死んでしまうかもしれない。そんなことになっても貴方はいいんですか?」

そう一気にまくしたてる。


「ダメだ!ダメに決まっている!だがどうしたらいいんだ?私は…私は…取り返しのつかないことを…」

戸惑うアロワに俺は畳みかけるように告げた。

「そんなことはない!生きている限り、取り返しがつかない事なんかない! やるべきことは一つです。奴を潰す算段は準備も含め整っているんだ! やっと揃った!だから此処でこっちの守るべき人が欠けるのだけは絶対にダメなんです。一緒に立ち向かいましょう?今度は一人じゃない俺もいる。クーノだっている。貴方の主であるフランソワ様だって味方になってくれるはずだ。もう一人で悩み続けるのは、…耐え続けるのはやめましょう。ね?」


「う、うぅ…アルス…クーノ…ありがとう…ありがとう…」

そういって俺の胸で鳴き続けるアロワ。

とりあえず、最悪の事態だけは回避する事が出来た。


「良かった…本当に…ぐすっ…あ! アルさんばっかずるいです!私もー!」

そう言って、なぜか知らないがクーノまで抱きついてきた。

…なんでお前まで泣きそうになってんの?

そう思いながら、泣いているアロワを、俺とクーノは何時までも抱きしめ続けるのだった。



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