第十七話 拉致したその後のお話
「おい、私は大丈夫だと言ったはずだぞ?」
俺はアロワの抗議の声を無視して、歩き続ける。
「おい! アルス!聞いているのか?」
しかし無視し続けていたら、一段と声が大きくなってしまったので
「先輩ちょっと静かにしてくださいよ。あんなビリビリに破けた服しかないのに何が「どうかそっとしておいてくれないか?」ですか。馬鹿ですか?ほっとけるわけないのにほっとけって随分と変な人ですね」
と文句を言ってみる。
突然の俺の答えに驚くも、しっかり言い返すアロワ。
「なっ!? そんなことお前に関係ないではないか!私はこれでも騎士の一人! 情けは…「はいはい小言は後で聞きますから!」」
その言葉にアロワは若干顔を赤くするも体力がないのか、なすがままなのに口だけはギャーギャーと喚いていた。
騎士ってこんなおしゃべりだっけ?
そんな事を思いつつ校舎区画を抜け、ようやく男子学生寮が見えるところまでやってきた。
しかし夜中の男性寮の目の前を、ギャーギャー喚く裸の女と、それを担ぐダート…なんて構図だこりゃ。
そう思っていると案の定、アロワの声に、学生たちが窓から顔を出してこちらを見ている。
…えっ?ちょっと何あれ?…
…あ、あいつだよ。今日の昼マルク先輩ボコボコにしたダート…
…え?マルク先輩手加減したの?…
…おい、アイツ他にも女居たのかよ…
あーあ、めんどくさいなもう。
「先輩、そんな騒いでるからみんな起きちゃってこっち見てますよ」
「え?キャ!」
と慌てて俺にしがみつくアロワ。
う、うお!
「せ、先輩、あたってます」
「う、うるさい! 前だけ見て歩け! このエロガキ!」
全く…俺と歳そんな違わないっしょ。
まあ、確かにこの野次馬の目はきついな。
「ん?」
俺は学生寮の自分の部屋であろう窓から、元気に手をふる謎の物体を見つけた。
あれ?あそこで手を振ってるのって…
「アルさ~ん! こっちは準備ばっちりですよー!」
その元気な声に窓から覗いていた学生たちが振り変える。
あの野郎…後でお仕置きしてやる!
…ちょっとあそこで手振ってるのって…
…え?本妻公認!?…
…マジかよ…
…もう、どうにでもなれだ。
「先輩、しっかり掴まっていてください。この好奇の目にさらされ続けてると心が持ちません」
「あ、ああ。わかった…は、早くしてくれ…私も恥ずかしいのだ…」
とりあえず冷静に自分たちの状況が見えた俺たちは、無言でただひたすらに道を急ぐのだった。
「おかえりなさい! 準備出来てますよ!」
と笑顔で迎える謎の物体。
「…先輩ちょっと待っててくださいね」
「…ああ、お前が言いたい事は分かった…できれば私の分も頼む」
そう言うと、先輩を降ろして椅子に座らせ、トコトコ寄ってくる謎の物体の頬をつねった。
「ひらいへふよはふはん(痛いですよアルさん)」
「…とりあえずクーノ。こんな夜に大声で、なぜこっちに向かって手を振った?しかもここは一応男性寮だぞ。意味はわかるな?」
「ふへへーふいはへん(えへへーすいません)」
いまごろ反省しても遅いわ!
「「えへへ」じゃねえから! お前ここまで来るのに、どんだけ恥ずかしかったかわかってんのか?元々気にしてなかったけど、俺の評価ダダ下がりだから! 元々低いのにマルクぼこって下がった評価をさらに下げやがって! 」
「ふへへ、ほへほほでも(えへへ、それほどでも…)」
「褒めてない!」
「…ふいはへん(すいません)」
その言葉に、俺はクーノの頬を解放してやる。
「…せっかく喜んでくれると思ったのに」
「なんか言ったか?」
「何でもないです…」
さてと、軽いコントは終わりにして俺はアロワに向き直った。
「先輩そのかっこじゃあれなので、お風呂用意しました。その後にご相談があります」
「…分かった」
その言葉に真剣な表情になるアロワ。
「先輩一人じゃあれなので、クーノにも一緒に風呂に入ってもらいます。クーノ、先輩を頼む」
「…わかりました」
まだ拗ねてるよ。
「わかったよ。ありがとな、色々準備しておいてくれて」
とクーノにねぎらいの言葉をかけるついでに頭を撫でてやる。
「えへへ、あ、ありがとうございます」
とたんに機嫌が良くなるクーノ。
全く現金な性格してるよな。
そんなクーノと俺をアロワはしばらく見つめていたが、
「…君たちは本当に仲がいいな」
と寂しく呟いた。
きっと今回の事で、主であるフランソワとも若干の溝が出来ているのだろう。
とりあえず聞いてなかったことにしてクーノを急かすことにする。
「じゃあよろしく頼むぞクーノ」
「はい! ところでアルさんはその間、何するんですか?」
…なんでここでそんなことを聞いて来るのかね。
「ああちょっとな…俺もさすがに疲れたからちょっと休むわ。二人が上がったら教えてくれ」
「わかりました。アロワさんちょっと失礼しますね」
「ああ」
そう言ってアロワを担ぎ、浴室に消えていくクーノを俺は見送った。
全くアイツは時々変に鋭い時があるからな、注意しないと…
さてと…俺は俺でやる事をしますかね。
と俺はポケットから水晶を取り出した。




