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第十五話 決闘のお話

決闘…学院で生徒同士のいさかいが起こった場合、大抵この方法がとられる。

仕組みは簡単で、試合を行い勝った相手の言うことを負けた相手は何でも聞かなければいけないというだけ。

だがその効果は絶大で学院関係者の立ち会い元、正式な決闘を行いその結果には法的効果も持ち合わせている大層なものだ。


あの後に先生の立ち会いの元、決闘の段取りが出来上がり俺たちは授業そっちのけで闘技場に移動してきた。

というわけで、俺は闘技場の控室にクーノと一緒に居る。

「あ、アルさん本当に大丈夫なんですか?」

クーノは心配そうに俺の顔を見ている。

まあ、侯爵家の貴族と闘うのだ。それなりの備えをする必要があることは確かである。

「まあ任せておけって、なんとかなるよ」

そう言って俺は試合用の練習剣に目を通す。


…うっすらと剣に切り込みが入っている。

数回打ち合えば簡単に折れるだろうな…

鞘の方も確認してみる。

何かがあるようならコリン婆さんからのメッセージがある手筈になっているのだが、何も書かれていなかった。

…ふーん、なるほど。

まあダートだしね。

当然と言えば当然の事だが、思った通りで何より。


「まあ良いじゃないか?お前は今日の料理の献立でも考えとけよ」

心配そうなクーノに、そう言うと俺は控室を出た。


控室を抜けステージに歩いていく。

既に闘技場は俺のクラスだけでなく、他学科の生徒や教員まで居る。

闘技場は満員状態といってもいい状態だ。

よく短時間にここまで人を集めたものだ。

まさに侯爵家様々だ。

俺が盛大に負ける所を見せて嘲笑いたいのだろう。

そして皆に印象付けたいのだ。

俺(侯爵家)に逆らう奴はこうなると…

ここで俺が負ければ奴の学院内での力はさらに強くなり、当然のことながら俺が守ろうとしていたもの築いたものは全て塵に帰る。

勿論そんなことはさせるつもりは毛頭ないが実に厳しい状況だ。


「ふん、ようやく来たか。」

とマルクは落ち着いた様子で先にステージに上がっていた。

隣には審判役の教員が居る。

ようやく落ち着きを取り戻したのだろう。

顔色はいつも通りだったが、目は憎々しげにこちらを睨みつけている。


「まあ、ちょっと…ほら試合前のお楽しみですよ」

そう言って俺はズボンを少し整えるしぐさをして見せる。

それだけで、マルクの顔が歪んだ。

「…貴様、よほど殺されたいようだな。まあ良い、お前は確実に殺し、皆にその醜態をさらしてもらう! 人のものに手を出すということがどういうことか死をもって教えてやるよ」


おー怒ってる。

まあ煽るのはこれくらいで良いだろう。

「ルールは時間無制限、制限なしで行う。またこの試合で、両者の禍根に全ての決着をつけるものとする」

審判役の教員もマルクの言葉に特に注意する素振りを見せない。

まあ、俺が負けたら死んじゃうし、些細なことか。

「それでは試合を始める。両者、問題なければ剣を掲げろ…はじめ!!」

と冷静に考えながら、審判の掛け声とともに運命の一戦は始まった。



まず、駆けだしたのはマルクだ。

やはり俺の剣が数回で壊れることを計算に入れているのだろう。

まあ、そんなことはこっちも読んでんだけどね。

一気に切りつけるマルクに対し俺はそれを全力で受け止める構えを見せる。


ガキン!


数回どころか一回で折れた剣に目もくれず、俺はマルクの剣を掴んだ。

「くっ! は、離せ!」

突然の行動に、マルクは必死に剣を振り俺の手を振りほどこうとする。

剣を握りしめた手からとめどなく血が流れるが別にそんなことは気にしない。

「だから、甘いんだよ!」

俺は残った方の手でマルクの下顎めがけ拳を放った。


ガクッ


そのまま崩れ落ちるマルク。

だが意識は残っているようで必死に立とうとしているが何度もふらつき上手く立てないようだ。

俺はマルクの剣を遠くに放り投げると、思い切り腹を踏みつけた。

「ま、まいっぐぁっ!」

今さらのように「まいった」と言おうとするマルクに対し俺は死刑宣告のように告げる。

「今さら「まいった」なんて言わせねえよぉ」

そう言って何回もマルクの腹を踏みつける。

「う! ぐぁ! ガハッ!」


腹を踏みつけること数回。

この一方的な状況に観客は誰も、何も言えない。

ずっとマルクの苦しむ声だけが響いていた。

その状況の中で、俺は冷静にこの後の事を考える。

本当なら腕の骨を折ってやるところだが、胸糞悪い事にこいつにはまだ動いてもらわなきゃいけない。

…ここでこいつに与える痛みは呼び水だ。

こいつが自滅するための重要な要素の一つ。


マルクはすでに取り繕う余裕すらなく、苦しむ顔を隠さず俺の前に晒していた。

「いいか!?次に女を好き勝手食おうものなら腹だけじゃすまない。分ったな?」

「…」

「わかったか!?」

「ばい…わかりました…」

ようやく吐いた細い了承の声に、腹を踏みつける足を止めた。

「…よし。さて俺はお前が「まいった」を言わないようなら今度は顔面を蹴るつもりだが…どうする?」

「ッ! …ま、まいった」

と続けて降参の意志を示した。


俺は放心状態の審判に視線を投げかけると、ようやく気を取り戻したのか

「しょ、勝者アルス・フォン・ランダル!」

と勝者の名乗りを告げる。

その声に俺は何も言わず、クルリと向きを変え何事もなかったかのように歩き出す。

勝敗が決まっても、闘技場に詰めかけていた人間は誰一人声を上げることができなかったようで、ただ俺の足音だけが響いていた。


マルクみたいな奴は、自分に何か想定外の事が起こった時に対応できない。

ずっと侯爵家の力、親の力で自分の不条理を押し通してきたのだ。

確かにあいつは剣の腕は良いだろう、魔法もできるしスキルも覚えている。

ダートの俺なんかよりもずっと上位の存在だ。

だがあいつはずっと同じ、スキルの応酬のみの試合形式しか行っていない。

だから試合で意表を突く事をやってやればいい。

ずっと凝り固まった試合形式の中で育った奴なら、すぐには対応できないのは明白なのだ。


…ふぅ。ここからが長いんだよな。

と俺は自分の手の状態すら気にせず、足は自然と控室に向かっていた。


「アルさん! 」

と控室に入った瞬間にクーノに抱きつかれた。

「馬鹿ですよ! 大馬鹿です! うう…ありがとうございます。私なんかのために…」

「何言ってる。それぞれお互いのために取引しただけだろ?気にすんなよ」

そう言ってあやすように、クーノの頭をかき抱いた。


「アルさん、手…」

クーノに言われ、俺はようやく両手の状態がひどいことに気付いた。

左手は剣を掴んだおかげで、血だらけ。

さらに右手は下顎めがけて本気で殴ったおかげで、人差し指と中指が異様に腫れていた。たぶん骨折しているのだろう。


「ちょっと見せてください」

「別に大した「ダメです! 見せてください!」」

「…ホラよ」

俺はしぶしぶ手を見せた。

「…」

「…別に気にする事じゃない。後で保健室に行けば良いだけの話さ」

「…」

「ほら、もう良いだろう?」

「…」

「な?…クーノ?」

ここでようやく俺はクーノの様子がようやくおかしい事に気付いた。

「アルさん…私一生懸命お世話しますね。ぜったい、ぜったいお世話しますね」

…まったく、泣きすぎだろ。

「当たり前だろ? しっかりやってもらわないとこっちが困る」

そう言って先ほどと同じようにクーノの頭を撫でてやる。

「はい! 私頑張りますから」


そこで俺はふと思い出した。

…まだ終わってないんだよな。

「ところでクーノ、まだだぞ」

「はい?」

クーノは俺が何を言っているのかわからないだろう。

確かに上辺だけ見れば、これでマルクは何もできない。

決闘で合法的にクーノに対してちょっかいをかけることを禁止されてしまったのだから。これでクーノとの約束は守ったことにはなる。


だが、まだ…残ってる。

「まだやることが残ってるからな。今からその準備に取り掛かるぞ」

「ちょっ、待ってください。せめて手の手当てくらいして行かないと!」

そう言って手の応急処置もそのままに、クーノを連れて俺は控室を後にした。


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