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第十一話 なんだかんだで12歳ですからのお話

サブタイトル間違えましたすみません

風呂からあがって、台所を覗いてみるとクーノは野菜を切り終わっていた。

見た所、まな板も4つにしか分離してないから大丈夫だろう。

「アルさん、どうですか?三回くらい失敗しちゃいましたけど、無事に切り終わりましたよ」

そう元気に言ってくるが…

なぜかクーノは俺から少し離れたところで手を後ろに回して佇んでいる。


「よし、よくやったぞ。とりあえずこっち来い」

と俺は笑顔満点でクーノに手招きをしてみる。

「いやです」

しかしなぜかクーノも笑顔満点で首を振った。

まあ検討は付くけどね…よくやったよ。

俺も子供の頃は。

「悪いようにはしないから」

「いやです」

よし、お前の考えはわかった。

そっちがそう来るなら…


俺は属に言う猫撫で声でクーノに

「おいおい、こっちに来てくれないとシチューの作り方をお前に教えてやれないだろ?

何で来てくれないかは知らないけどさっさと続きやるぞ」

と何でもないかのように声をかけてみる。

すると何の疑いもなく

「えへへ、そうでしたね。すいません」

と何の疑いもなくこちらに近づくクーノ。

馬鹿め。

近づいてきたクーノに対し俺は容赦なく後ろに回していた左手を掴むとそのまま薬箱までクーノを連れていく。


「あ! ちょっとアルさん」

クーノから抗議の声が上がるがとりあえずスルーする。

案の定、左手の所々には赤い線が出来ている。

「何が「ちょっとアルさん」だ。指怪我したんなら、さっさと言うもんだぞ。ほれ薬塗ってやるから」

「うー、だって恥ずかしいじゃないですか」

と恥ずかしそうに抗議してくる。


そんなクーノを俺はバッサリと切り捨てた。

「お前は子供か?そんなこと気にすんな。仲間が辛い事を隠していたら隠されていた方は寂しくなるだろ?だから仲間には自分が辛いことや苦しい事はなるべく言えよ。言ったら仲間が助けてくれるし、自分も仲間が辛い時は助けてやりたくなる。それが信頼に繋がっていくんだよ」

そう言い聞かせる。

こいつは俺と違い、人を引き付ける魅力と言うのか保護欲と言うのかそんなものがある。それを生かしていけばそれはいずれこいつの力となるだろう。

「えへへ、そうですよね。気をつけます。」

そう言って落ち込むクーノに構わず、俺は左手に薬を塗っていく。


「つっ!!」

言葉と共にクーノの顔が若干引き攣る。

「少し沁みたか…悪いな。だけどこの薬、結構効き目良いからな。塗れば明日には瘡蓋が出来るくらいには良くなるはずだ。」

「うう、そうなんですか?」

涙目で訴えてくるクーノに俺は満足そうに頷く。

勿論だ。

なんて言ったってメイさん直伝の薬だからな。

「ああ、それと良くやったな。初めてにしては上出来だぞ」

そう言って、クーノの頭を撫でてやる。

「えへへへ、頑張った甲斐がありました」

しかし、照れるクーノに一応の釘をさして置くことにする。

「だけどな。まだ、下ごしらえが終わっただけだ。シチューまではあともう少しだ。ほれお前は見てるだけで良いからさっさとやっちまうぞ。それとも俺が料理を作ってる間に、風呂入って落ち着くか?」


とりあえず、自分だけ風呂に入ってしまった引け目があるので聞いてみる。

「いえ、ここまで来たからには最後まで見届けます」

「そうか、ならさっさと始めるぞ。とりあえず俺も調理するならエプロン付けるか…」

そう言って俺は隣の部屋からからメイさんのお手製、お腹の部分にかわいい花の刺繍が施されたエプロンを取り出す。

ちなみにこのエプロン、俺がこの学園に来る前にメイさんが余り物の布で作ってくれたものだ。

花の刺繍はメイさんの自信作で一番のお気に入りらしい。

俺はあまり気に入ってないが、せっかく作ってくれたものなのでずっと使っている。


とりあえずエプロンを身につけて料理をしようと台所に向かうと待っていたクーノが突然目を輝かせて俺に寄って来た。

「あー!アルさん!!かわいいです!このエプロンどうしたんですか?いいなー私も!私も着てみたいです!」

そんなクーノに対し俺は冷めたように声を上げた。

「はいはい。それよりもさっさと調理を始めるからしっかり手順を見てろよエプロンは見ない事!」

「うーはい。分りました」

そう若干の念を押して、俺たちはシチューの残りの作業に取り掛かった。


「よーし後は煮立てるだけだ。クーノ、鍋は俺が見てるからお前は風呂入って来い」

しかし、すぐに「はーい」と元気に上がるはずの声が後ろから聞こえず、少々して若干こちらを窺うように声が聞こえた。

「…アルさん。ちょっとお願いが…」

クーノのその声に俺は若干めんどくさそう振り返った。

クーノの声から大体の見当がついたのだ。

「どうした?いいぞ何でも言ってみろ。このエプロンの事以外なら聞いてやるぞ」

俺の無情な返事にクーノから抗議の声が上がる。

「えー何でですかぁ?良いじゃないですかー私も着てみたいですよー」

「ダメ」

「だから何でですかー良いじゃないですかアルさんのケチ!アルケチさん!」

…アルケチさん

なんか馬鹿にしてる癖に、さんづけはやめないんだな。

しかもそこは普通、「ケチ」アルさんじゃないと変な名前になるだけだろ…

クーノの発言に若干笑いをこらえながら、あくまで冷静に告げた。

「ダメだ。自分の姿と俺の姿を見比べてみろ」

「え!?」

そう言って野菜を洗ったり切ったりして水しぶきやら野菜の汁が付いた自分のエプロンと俺の綺麗なままのエプロンを交互に見やるクーノ。

俺は冷静に解説をしていく。

「お前は今、慣れない台所仕事して見事にエプロンが汚れているだろ?それじゃあまだ半人前だ。エプロンをなるべく綺麗なままで、台所仕事をしてこそ一人前…つまりこの花柄のエプロンを付ける権利を得るんだ。だからお前がうまい料理をエプロンを汚さずに出来るようになった時は…わかるな?」

そうクーノに問いかけるとようやく理解したのか目を輝かして何度も頷いた。

「おお!すごいです!そんな理由があったなんて…分かりました!私、絶対料理上手くなります!!」


「わかった。わかったから。じゃあさっさと風呂に入って来い」

そう意気込むクーノに俺はさっさと風呂に入るよう告げ、片づけを始めた。

「はーい。でも料理って大変ですね。私疲れました…」

「ああ…最初なんてそんなもんさ。慣れれば面白くなる、ほらいつまでも喋ってないでとっとと入ってさっぱりして来い」

「ふぁーい」

と俺は此処で重要な事を思い出す。


「あ、そうだ。今日は俺と一緒に、コリン婆さんのとこで土下座したり、トール先生の火事場行ったりして制服汚したろ?制服の替えがあるんなら、今日の服は浸け置きして明日洗って干すから俺の風呂場近くの盥にいれとけよ。わかんなかったら俺の服が入ってる盥に一緒に入れとけば良いから。それと! エプロンは明日も使うからな?絶対に分けておけよ」

「はーい」

そう言ってクーノを風呂場へ追い立てる。


とりあえず、あいつが風呂に入ってる間に、一昨日から寝かせてあるパン生地を焼くことにするか。

パイ生地は使いきっちゃったけど、幸いなことにパン生地は残ってるからな。

温度が低い所に置いておいたとは言え、実際は常温保管だからさっさと焼かないと腐っちまう。

俺はこの時、パン生地の事で頭がいっぱいだった。


さてと、二人分のパンは窯だから残りはどうしようかな…

「アルさ~ん」

風呂場から声が聞こえる。

「ん~どしたぁー?」

そういえば、メイさんからカラントの実の干した物をもらったんだっけ。

「服がありませんー!」

五月蠅いなー…適当にそこら辺に自分の服あるだろ…

「あー。じゃあ適当にそこら辺の服着て、自分の服を取りに来ればいいんじゃないか?」

「はーい」


確か此処にあったあった…

「良い匂いですね。アルさん」

よし、こいつを混ぜて明日の朝飯にしよう。

「そうだろ?パンがもうちょっとで出来るからなそれまで待ってろよ」

と俺はカラントの実を残ったパン生地に練り込みながら応える。

「ホントですか?楽しみです。ところでアルさんは何やってるんですか?」

「俺か明日の朝食用にカ…」

振り向いたそこには、蒸気した肌にところどころ汚れの付いたエプロンだけを身に付けたクーノが居た。

その姿は、しっとりと湿り気を帯びた肌にエプロンが張り付き、透けるまでは行かなくとも12歳児の未発達な体のラインを惜しげもなく映し出している。

しかも真っ白ではなく若干汚れているエプロンもクーノの未発達な体と見事に相まって、何とも言えない雰囲気を醸し出していた。


「…クーノ? 何でそんなカッコ?」

突然のことに単語しか出てこない俺。

「だ、だって服が他になかったんですよ、でも途中でおいしそうな匂いがしたんでつい来ちゃいました」

えへへ…と笑ってごまかすクーノ。

その仕草を見てようやくこいつがクーノだということを思い出した。

「…分かった。分かったから、さっさと服を着て来い!このアンポンタン!」

「わわ、はい!」

と一喝してクーノを台所から追い出す。

ったく、こっちは12歳って言っても男だぞ。

自分の未熟さに苛立ちながらパン生地をこね続けた。


よし、大体こんなもんだろ。

大鍋からはシチュー独特のおいしそうな匂いが漂っていた。

パンもいい感じに焼きあがっている。

ようやく服を着たクーノが、

「あ、アルさん、早く! 早く食べましょう」

と口から涎を垂らす勢いで俺に迫る。

「あわてんなって、大事な所で焦っちゃだめだ」

そう言って俺は小皿に少量だけシチューを入れてクーノに差し出す。

「味見だ。完成に近づいた料理はこうやって、少量食べてみて味が自分の想像通りかどうかを見るんだ。いいか?味見の重要なところは、少量だけ食べて全体の味を把握することだ。飲んでみ?」

「はい、い、いただきます」


…ズズッ


「!!」

「どうだ?」

「とってもおいしいです!」

「よし! 器に盛って食べるぞ!」

「はい!」

急いで食器を持ってくるクーノに

「あんまり慌てすぎるなよ」

と注意しながら料理をさらに盛りつけていく。

こうして俺たちは遅めの夕食を食べ始めた。


「ふう、飯も食ったし皿も片づけた、今日はそろそろ寝るか?」

「はい、私もうクタクタですよ」

クーノも大きなあくびをしながら呟いた。

「じゃあ俺はこっちな。朝はいつも鍛練するから俺は出掛けるけど、お前は気にせず寝てても良いから。んじゃおやすみ」

そう言って大きめの布を掴み、床に寝ようとゴロリと転がる。


その姿に驚いたように首をかしげるクーノ。

「あれ?、一緒に寝るんじゃないんですか?」

「おまえねぇ、一応男と女だから分けて寝た方がいいでしょ?」

「それなら私が床で寝ます」

あー定番のやり取りになりそう。

もういいや、12歳児だし幼さで許されるでしょ。

疲れていた俺は長くなりそうなやり取りを避けるため強制的に提案をしてみる。

「わかった、じゃあベットで一緒に寝よう。それなら文句ないな?」

「はい!」

ということで二人一緒にベットに入った。


そこである事を思い出し慌ててベットから抜け出すと薬棚に向かった。

「ドーしたんですかアルさん?」

とベットから上半身だけ起こすクーノ。

「ああ、お前の手…風呂入ったから薬はがれてるだろ?つけ直してやるから」

そう言って俺は軟膏のような薬を自分の手の甲に付け薬をしまうとベットに戻った。


「ほれ、手出せ」

「えへへ…なんだか恥ずかしいです」

「気にすんな」


ぴた…


そう言ってクーノの手を握り丹念に塗っていく。


「ほら出来たぞ…何時まで手握ってんだクーノ?」

こく…こく…

ようやく塗り終わりクーノの顔を覗き込むとコックリコックリ船を漕いでいた。

「ほら寝るぞクーノ」

「ふぁい…」

そう言って寝ぼけ眼なクーノと二人でベットに潜り込んだ。

だがクーノは一度握った手を離す素振りを見せず、しっかりと俺の手を握りしめたまま寝てしまったようだ。

まあいいか…寝てるうちに離すだろ…

そう思いながら俺もゆっくりと夢の中に落ちて行った。


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