プロローグ
種族を変えられるユニークスキルを持つ男の話。
この世界はいわゆるファンタジーな世界である、魔法や多種多様な種族が存在し危険がすぐそこに溢れている。
この世界の人は産まれながらの種族は固定されて変更はできず、それに属するスキルや魔法は限定されると言うルールの中で生きている。
しかしこの世界にそのルールの理の外側に存在する者が産まれた。
神は何を考えて彼を産み落としたのだろうか。
ーー 存在の異常さ
そこに一柱の「京楽の神」が存在していた。
名をイシタール、変化を愛し己の欲望に真っ直ぐな性格。
他の神々とは同調せずジオンという世界の生き物にのみ興味を示していた。
「もっと面白くならないのか」
これがかの神の口癖、そして彼はある日禁忌を破ってしまう。
世界のルールに外れる存在の誕生に成功してしまうのだった。
「よしこれで、この世界はもっと面白くなるぞ。」
と言う言葉を残して彼の存在は分からなくなってしまった。
彼の禁忌を知り得た他の神々は
「存在してしまったモノを消すことはできない、我々が出来るのは試練を与える事だけだ。」
と理を外れた存在を見守る事にした。
ーー 誕生した男
ジオンという世界には、大きな大陸が3つ存在する。
その中で一番大きな大陸の南側に存在するのがイスタンブル王国。
王朝歴300年の中堅の王国で、南部大森林と南方洋という海の魔境に接している。
魔境とは魔物と言われる動物ではなく魔素を糧に生きる魔物が存在する地域を意味し、魔物は魔素を持つ動物や人を襲う存在である。
イスタンブル王国の南西側に森と海に接する辺境、カージナル辺境伯領が存在する。
カージナル辺境伯領は大森林から溢れ出る魔物や海を航海する船の安全を守るために、精強な騎士団を保持していた。
さらに魔物を狩って生計を立てる冒険者という職業の者達が多く在籍する冒険者ギルドという組織も存在していた。
カージナル辺境伯領は森を開拓し開拓村の開発を奨励していた。
その一つに「カオスの村」があった。
カオスの村は人口200人ほどの開拓村で、開拓歴15年の若い村である。
その中で初代入所者のドライ家と言う夫婦がいた。
ドライ家は夫がドライ(30)、妻がメナード(25)、長男がフライ(5)の3人家族だったが、妻の妊娠がその日判明した。
この世界の妊娠出産は命の危険を伴うもので、幼い子供の生存率は低いものであった。
そのせいかその世界の子供の成長は早く、14歳で成人となる。
家長のドライは成人してすぐにこの開拓村に参加したのだった。
10ヶ月後。
ドライ家に新たな家族が産まれた。
出産は予想以上に安産で、かなり小柄な赤ん坊だったため家族は生存は難しいと考えていた。
そのため家族はその赤ん坊に名前をつけるのは、3歳を過ぎてからと決めていた。
ーー 意識が覚醒する。
男は21世紀の日本に生きていた。
仕事は何でも屋、子供の頃から色々な事に興味を持ち独自の勉強でかなりのスキルを持っていた。
そんな男が35歳になった頃、世界は「パンデミック」と言う名の恐怖に包まれていた。
人々の外出が極端に減少し経済が低迷した。
男の仕事も激減し新たな仕事を模索していたある日、車で目的地に向かっていた。
海岸沿いの交通量の少ない県道を進む男の車に晴天であるのに突如落雷が。
真っ白な光に包まれた後、男とその車は存在自体がなかったように消えていた。
その上彼の生きた歴史さえ消えていたのだった。
男が意識を覚醒させたのはどのくらい経ってからなのか彼には分からなかった。
しかし男は、周囲の状況に驚いていた。
周囲は真っ白で己の手足さえ確認できない状態だったのだ。
「ここは?俺はどうなったんだ?・・・車に雷が・・生きているのか?」
そんな疑問が口からつぶやかれた時。
「やあ、お目覚めかな。僕はイシタール、君をここに呼んだものだよ、よろしくね。」
となんだかかなり軽い口調の声が聞こえてきた。
「俺は生きているのか?君が助けてくれたのか?」
「生きているかは考え方次第かな、助けたかどうかはこれからの君にかかっているとも言えるしな。まあ新しい環境で頑張って見てよ。」
と男の質問にはっきりと答えずに意味のわからない言葉を紡ぐ。
「・・・新しい環境というのはなんだ?」
「そうだね、流石に何も教えずにポイという訳にはいかないか。君は新しい体で新しい世界に降り立つのさ、欲しいスキルはあるかい?」
「貴方が言っている意味がわからないが、スキルというものがあるなら欲しいものがある。」
「ほう、いいね。言ってごらん、面白いと感じたら付与してあげようじゃないか。」
この時男は半分夢だと思っていた。
夢なら夢を実現できるスキルが欲しいとその時思ったのだ。
「その前に確認だが、魔法が使えるとかあるのか?」
「ああ使えるよ、と言うか君の住んでいた世界のラベノの世界観にそっくりだよ。」
「それなら何点かある。一つは全ての魔法が使いたい、二つ目は丈夫で長生きできる体が欲しい、三つ目は新たなモノを作り出す能力が欲しい。」
と答えると
「・・・う〜ん、困ったな。この世界にもルールがあるんだよね。魔法は種族独自のものがあって他種族では使えないものが多いんだよ。丈夫で長生きできる体は理解できるよ、僕も君にすぐ死んでもらいたくないからね。新しいモノづくりは大歓迎だね必要なスキルを与えるよ。」
と答えた、そこで男はもう一押しした。
「種族特有の魔法が多いのなら俺自身が種族を変えられればいいのではないかな?ベースは人族で必要な時に制限はあるものの、獣人やエルフなんかに変身するような力があればルールには抵触しないのではないですかね。」
「・・・面白いことを考えるね、そうだね試してみる価値はありそうだね。これは今後が楽しみだ、頑張っておくれ。」
と言うと一方的に話を切り上げてその存在が分からなくなった。
男は自分の身体が何者かによって作り変えられるような感覚を覚えながら光に飲まれていった。
ーー 新たな体と謎のスキル
ドライ家に新たな家族が加わり半年が経過した。
赤ん坊は当初の予想を裏切る健康そのもので育っていた。
ただ、赤ん坊の目が知的で理性を持った光を放つのを母メナードは不思議にな感じていた。
「この子はどんな大人になるのかしら、なぜか大物になる気がして・・・親バカなのね私。ふふふ。」
と独り言を呟いていた。
名前のない赤ん坊として産まれた男は、次第に周囲の環境を理解し始めていた。
『ここはやっぱり日本じゃないな、いや地球でもなさそうだ。あの時の声の主が言ったように全く違う世界に生まれ変わったようだ。』
そう考えが落ち着いたところで男は、自分に与えられたはずのスキルを確認し始めた。
スキル、これはこの世界の神々が与える能力の付与でありこの世界で生きる力でもあった。
産まれた子供は必ずいくつかのスキルを付与されて産まれる、その確認が3歳時の確認の儀式である。
子供が3歳になればこの世界に生きることを許されたと言うことで、教会等においてスキルを確認する儀式があるのだ。
それまで家族本人すらどのようなスキルが与えられたか分からないのである。
男は目を瞑り自分自身を思い描いて心の中で
「ステータスオープン」
と唱えた。
すると予想通り目の前に半透明な板が現れてそこに自分のステータスが表示されていた。
ステータスは、
[ 名前 無し、年齢 0歳、種族 人族(変化可能〜現在不可)、種族レベル 1
MP〜100、 HP〜100、 INT〜100、 VIT〜100、 STR〜100、
DEX〜100、 AGI〜100、 LUK〜100、
スキル
言語理解、 状態異常耐性(大)、 身体強化(小)、 魔力感知、
変身(使用不可)、 魔法属性(全)、 再生・回復(大)、
魔法(人族)
火・水・風・土魔法(初級)、 空間魔法(初級)、 創造魔法(初級) ]
であった。
『数値がオール100というのは高いのか低いのかそれといい加減すぎやしないか?誰でもこんなものなのか?』
男はステータス画面を見ながらそうぼやいた。
『身体に関しては問題なく丈夫そうだ。魔法もそれなりに使えそうだな、多分種族で使える魔法の威力や種類が変わる可能性があるのかな。「変身」と言うのが他の種族に変わるスキルだな、今は使えないと。まずは今使えるものから検証してみようか。』
と思い男は、発現しても安全と思われる光と水を使うことにした。
『先ずは目に優しい光からだな。』
と思うと白熱電球をイメージして「ライト」と心の中で唱える。
目に前に淡い光が灯る。
ステータス画面を見ながら魔力の増減を確認する。
『この程度の光なら発動に1、持続が・・・30分ほどで1。1日で49ということだな。』
そこで少し強い灯りLEDの光をイメージして「ライト」と心の中で唱える。
すると先ほどとは段違いな激しい光が!慌てて目を逸らす男。
『危なかった、イメージが甘かったか?発動は1と変わらないが・・・持続は!これも変わらない30分で1のままだ。熱を発しないぶん省エネかな。』
と理解する。
この時点でこの世界の常識を超えていることに気づいていない男。
この世界の魔法は発音魔法と言うトリガーを必ず言葉として発する必要があった。
それ故に男のような無詠唱は存在するはずがなかったのだ。
この事実はこの後男に不自由を感じさせることになるが、逆に大きなアドバンテージとも言えた。
この世界の人が魔法を使うのは年齢が10歳になってからだ。
何故なら3歳まで自分のスキルが分からず当然使い方も分からないからだ。
更には魔力量についても同じ人族の赤子であれば、MP1多くても3くらいのものである。
イメージが明確でない子供では、先ず発現自体不可能であるのだ。
次に男は、水魔法を試すことにした。
生きるのに必要な水、これを生成できるのは大きなことだ。
男は自分の体を考えて小さなコップ一杯の水をイメージして、心の中で「ウォーター」
と唱える。
すると面前に赤子の拳大の水の塊が出現した。
『よーし!成功だ。この水を移動させるぞ。』
男は水の塊を球状に固定すると上や下、前後左右と動かし始めた。
ここでも男の非常識さが出る、この世界では人族の使う魔法は一形態である。
目的の場所を決めて魔法を発現させる、発現した状態で形や場所を変化させるのは出来ないことなのである。
では攻撃魔法はどうなのかという疑問が浮かぶ、自分の近くに魔法を発現させて的に向かい飛ばす行為は一形態ではなく幾つかの形態変化と言えないのか?
残念ながら一形態なのである。
的が動くなら的自体を目標にすれば追尾機能が得られる事もあるが非常に高度な魔法とかなり威力も下がる。
基本的には、自分の近くで発現した魔法を目的である的を指定して発動させるために飛び出した魔法は軌跡を変えることがない。
動きの速い相手であれば、不意を打つか気付かれない方向から攻撃するしか遠距離攻撃は避けられるのである。
そこで人族の魔法使いは、動きを止めてから攻撃するか連続または速度の速い魔法を使おうとするのである。
ただし速度や連続性を高めると魔力が多くいるか威力が下がる傾向がある。
それを踏まえて、0歳で魔法を発現させ更には幾つもの形態変化を付与する男の魔法は既に魔法の極みと言えるものであった。




