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アルスベルの冒険譚  作者: ブレイン


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4/5

魔法と剣

アルスベルが三歳になった頃。

夜になると、リシェルは暖炉のそばに息子を抱きかかえ、

膝の上で絵本を開いた。


「今日はね、 《星歩きの騎士レイヴァン》 のお話よ」


アルスベルは胸を弾ませながら、

まだうまく発音できない言葉で言う。


「レイヴァン、つよい!」


ページをめくるたび、鮮やかな絵が目に飛び込んでくる。

星の上を走る騎士、炎の魔物、空を裂く雷。


リシェルが読み進める声は柔らかく、

物語は部屋じゅうを満たしていく。


「騎士レイヴァンはね、どんなに暗い夜でも、

 一歩を踏み出すことをやめなかったの」


幼いアルスベルは、息をのみながら

ページの向こうの世界に手を伸ばす。


母はその表情を見るのが好きだった。

物語を聞くたびに世界が広がる。

その光が、この子をどこへ導くのだろうと。


そして――物語が佳境に差し掛かった頃。

トン、トン、トン。

遠くから鉄を打つ音が聞こえてくる。


アルスベルの目がきらりと光る。


「とーちゃん、いく!」


物語を途中で切り上げることはリシェルも慣れっこだった。

この子の興味は、世界を縦横に走る。

それを無理に留めようとは思っていない。


***


鍛冶場の扉を開けると、熱気がふわっと外へこぼれ出た。

グランは汗を拭いながら鉄を打ち、

火花が舞うたび、アルスベルは嬉しそうに手を叩いた。


「やけどすんなよ」

と、短く言いながらも、

グランの口元がわずかに緩んでいる。


鉄塊が赤く染まり、

ハンマーが振り下ろされる瞬間――

アルスベルの目は絵本の時とは違う輝きを帯びた。


「とーちゃん、これ、なに?」


「鉄だ。戦の道具にも、守る道具にもなる」


グランは淡々と言う。

アルスベルにはまだその違いがわからない。

ただ、赤く光る鉄の塊が、

あの絵本の中の剣と同じ“なにか”に見えていた。


「いつか、お前にも教える。

 だが覚えとけ――

 剣は人を助けもするが、傷つけもする。

 使うのは“覚悟”のある奴だけだ」


難しい言葉だったが、

炎の揺らめきと父の声だけは、しっかり胸に刻まれた。


アルスベルは鍛冶場の隅に座り、

グランの仕事を飽きずに見つめていた。

母の絵本と同じように、

この景色もまた“物語”のように広がっていた。


その日、アルスベルは眠る前にぽつりと呟いた。


「ぼく、つよくなる。レイヴァンみたいに」


その声はまだ小さかったが、

どこか確かな響きを帯びていた。

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