アルスベルの冒険譚
この物語は、白歴の時代に生きたひとりの少年――
アルスベルの旅の記録である。
戦が終わり、世界が静けさを取り戻した時代。
それでも彼の心は、どこか落ち着かなかった。
「世界を見たい」
「知らない場所へ行きたい」
そんな小さな願いが、やがて伝説になることを、
そのときの彼はまだ知らなかった。
XX年
「ねぇ、お母さん、つづきを読んで!」
寝台の上で、少年が毛布をぎゅっと握りしめた。
窓の外では、星がまばらに瞬いている。
母は小さく笑って、古びた本を開いた。
表紙には、かすれた金文字でこう刻まれている。
『アルスベルの冒険譚』
「昨日はどこまで読んだかな」
「龍とお話するところ!」
「ふふ、いいところね」
母がページをめくる音が、暖炉の火と混ざり合う。
紙の匂いが少しだけ焦げた木の香りに似て、少年は目を閉じた。
――それは、ひとりの少年が、
“まだ見ぬ世界”を探して歩いた物語。
剣を手に、好奇心のままに。
名をアルスベル。
かつて戦の影を越えた時代に、
彼の冒険は始まった。
ページの隅に焼け跡がある。
長い時を経て、この本も旅をしてきたのだろう。
誰が書き残したのか、どこまで真実なのかはわからない。
けれど、読んだ者の胸には、きっと同じ火が灯る。
――いつか、自分も旅に出てみたい。
そう思った少年が、この先の世界を変えるのかもしれない。




