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最終章:海図の最果て(ダイオウイカ先生)
しん…と静まり返った診療所。
潮の音さえ遠ざかった夜、ダイオウイカ先生はカルテの束をそっと整えていた。
さらさら…とペン先が海図をなぞる音が、海の深奥に響いていく。
誰かを診察しているわけではない。
この夜は、先生自身の記録の時間。
「誰かを癒すには、自分の揺れにも触れておかなければ…」
先生はぽつりと呟きながら、ひとつのカルテにくるくる…と渦を描き加える。
かすかに、ふわり…と揺れる灯。
過ぎてきた患者たちの鼓動と記憶が、ページの間に息づいている。
シュモクザメの孤独、マンボウの漂い、ホタルイカの光…
それらが、まるで波の層となって先生の胸に積もっていた。
じんわりと吸盤を閉じ、
さらさら…と最後の記録を綴るその所作は、祈りのようだった。
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『海図の余白に、未来の灯を描く』
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