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第6章:重力のない眼差し(マンボウ)
ふわり…ふわり…と、海の宙を漂うようにマンボウの患者が現れた。
まるで重力を忘れたような、大きな体がひょこ…ひょこ…と揺れながら診療所へ向かってくる。
その瞳は、ぽやん…と遠くを見つめていて、
今ここにいるはずなのに、どこか別の世界に足を踏み入れているようだった。
「先生…ぼく、考えるとすぐふわふわしてしまうんです。
気づいたら、何もかもが遠くなっていて…。」
ダイオウイカ先生はすーっ…と触腕を伸ばし、
マンボウの前にぽとん…と泡を一粒落とした。
「それは、あなたの感受性が深海のように広い証です。
どこまでもぼんやり…と漂える瞳は、時に真理をすくいますよ。」
マンボウはぼんやり…と微笑み、ひらり…と体を傾けると、
その脇腹にぽっ…と淡い光を灯した。
それは、夢の断片。
つかみどころがないようでいて、誰よりも確かな感性の灯だった。
先生はその光をふわっ…と吸盤に包み込み、カルテの余白につつつ…と描き込んだ。
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今日の診察記録。最終行には、こう記されていた――
『ふわふわの眼差しが、真実に届くこともある』
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