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第5章:孤独を泳ぐ背びれ(シュモクザメ)
ごう…ごう…と遠くで潮が鳴る夜、
診療所の前に、ぐるり…と旋回する大きな影が現れた。
それはシュモクザメの患者。鋭く突き出た頭と、孤独をまとう背びれがすい…すい…と海を切って進んでくる。
海を裂くような動きと裏腹に、シュモクザメの心はずしん…と沈んでいた。
「先生…ぼく、いつも群れに入れないんです。
泳ぎながら、ぎゅう…っと胸が締めつけられるんです。」
ダイオウイカ先生はしゅるり…と触腕を揺らし、静かにシュモクザメの目を見つめる。
「それでも、どしん…と響く一人の泳ぎは、誰かの道しるべになります。
孤独の中にしか届かない想いもあるのです。」
シュモクザメはぐるん…と静かに旋回しながら、背びれをびくん…と震わせ、
その先端に、ひと粒の水泡をぽつり…と生んだ。
それは、深海の静けさを知る者だけが持つ“確かな言葉”だった。
先生はそっと…それを吸盤で包み、カルテの余白にすらすら…と書き加える。
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今日の診察記録。最終行には、こう記されていた――
『孤独とは、静かな勇気のかたち』
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