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第3章:波紋の記憶(アカクラゲ)
ざわ…ざわ…と揺れる今日の海。
遠くから、すぅ…と透明な影が近づいてくる。
それはアカクラゲの患者。
ぷるん…ぷるん…と揺れる触手が、海水をそっと震わせ、記憶の底をくすぐるように漂っていた。
アカクラゲはぽつり…ぽつり…と語り出す。
「先生…記憶が、ときどきずきん…と痛むんです。
それでも、ぽろり…と忘れたくないんです。」
ダイオウイカ先生はこくん…とうなずき、
しゅるり…と触腕を机に伸ばす。
広げられた海図の上で、さらさら…と水面の揺らぎを描くように、記憶の波紋を書き加える。
「ひりひり…と痛む記憶こそ、あなたが真剣に生きた証です。
その痕跡は、じんわり…とあなた自身を強くしてくれるものですよ。」
アカクラゲはふわふわ…と静かに漂いながら、
その中心部にある光をぽん…とひらかせた。
それは、希望だった。
過去の波紋の中央に、きらり…と未来への灯りが差し込んでいた。
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今日の診察記録。
カルテの余白には、こう記されていた――
『記憶の痛みは、希望の入り口』
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