表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

父がツボった時の話

 私の父は暗くむっつりした感じの無口で、でっぷり太っていてどしどしと歩く感じの人である。なかなか勉強熱心で一つの事に凄まじい集中力を見せる事があるが、一方で思い込みが激しい上、時事問題に対し的外れな見解を述べたりとセンスがない言動を見せる事も多い。中でも味覚センスは壊滅的で、フレンチトーストにケチャップをかけたり鮭ごはんに味噌汁やウーロン茶をぶち込んだり甘酒にチーズを入れたりと食材への冒涜とでもいうべき食べ合わせを平然とやってのけることから「なんでそんなことすんの

!?」と度々家族の顰蹙を買っている。しかし当の本人はちょっと不機嫌そうにムッとなりつつも「うまいじゃないか」と全く反省する素振りも見せない事が殆どである。……なんだか悪口っぽくなってしまったが父は呑気で豪放な所もあり、そういう所は嫌いでは無かったりする。


 さてそんな父はつまらないギャグを言って自分で笑う以外は滅多に笑わないのだが、たまーにツボって大笑いする事がある。特に今回取り上げる囚人服事件の時は凄まじいツボりようであった。……事件が起こったのは夕飯時。母が弟を食卓に呼んだ時であった。私は既に食卓に着いてサラダか何かを食べていると「ウェヒヒヒヒ!」といった奇声が隣のテーブルから響いてくる。隣の父に目をやると顔を赤くして弟を指さしている。どうも弟のパジャマ姿を見て笑い出したらしい。そのパジャマは母がフリーマーケットで買って来た囚人服風のパジャマで、白地にベージュのストライプが横縞に並んでいる。ベージュのストライプというのが何とも温かみがあって囚人服とのギャップが凄まじい。実用感とコントっぽさのバランスが絶妙で、しかも妙に似合っているのだから確かに面白いと言えば面白い。「ウェヒヒヒヒ! アーッヒッヒッヒ! ヒー!」それにしても笑いすぎではないだろうかという気もするが、あんまりツボに入っているのでこっちまでちょっと貰い笑いしてしまう。弟も呆れながらもいい気になったようで、ニタニタ笑いながら部屋に戻ったと思ったら今度は帽子をつけて戻って来た。この帽子がまた囚人服とセットのデザインで横のベージュストライプなのだから、父の笑いっぷりは余計に悪化してしまった。「ヒッーーーーー! ヒイイイ! イイヒ! イヒー!!」父は顔を真っ赤にして引き攣った笑い声を立てていた。いい加減血圧が心配になって来たので弟を止めた方がいい気もしてきたが、それより私はパジャマの胸の文字が気になってしまった。「なにこれ? angel? アン……エンジェル? エンジェルって書いてるね」声に出してすぐ私は自分の失態に気付いた。囚人服にエンジェルは流石に面白すぎたという事だろうか。「エンジェ……エンジェル! ダァフハハヒ! ヒーーーー! ヒイイ!」父のツボは更なるステージへと進み顔は真紅に染まり、最早収束する気配も見えなかった。


「お前、いい加減その服やめろって!」


 本気で笑い死にが心配になって来たので、ニタニタ嬉しそうな弟を皆で押しやり着替えさせなんとかその場は収まった。しかしそれ以降もイタズラな弟は度々囚人服を着用して登場し、初登場の時ほどでないにしろ父の爆笑を掻っ攫っていくのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ