表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

チート魔法「血が出た」

 私が子供の頃は、小学生同士の諍いにおいて出血が何より重要な意味を持っていた。悪ガキが多少殴る蹴るの暴行を同級生に振るったとしても大して問題視されないし、暴行が多少の青タンや腫れに至ったとしても「でも血は出てないじゃん」と軽んじられるのが常であった。しかしたとえ一滴であろうとも滲む程度であっても出血まで至ってしまえば話は全く変わって来る。「血が出た」の鶴の一声で空気が完全に変わり、下手したら親や教師まで出張ってきて大問題になりかねないのである。だから私が知る限りどんな悪ガキであっても、相手を出血させないよう細心の注意を払いながら暴行を働いていた。


 もちろん相手を泣かせてしまうのも出血と類似の効果を持ってはいるが、涙に関してはある程度我慢が出来る。血も出ていないのに簡単に泣いてばかりいると「あいつは泣き虫だ」と泣いた側に悪い噂が立ってしまう恐れがあった。涙はハイリスクハイリターンで迂闊に切っていいカードではなかった。被害者が男子の場合はなおさらである。一方で出血はそれに至った時点で被害者の完全勝利が確定する。出血は視覚的にも明らかにやりすぎのサインであるし、「泣き虫」なんて言葉があっても「出血虫」なんて言葉はないように出血は努力で止めようがないのである。そのため出血者は誰もが同情する清浄無垢なる被害者となり、加害者は忌むべき悪辣無比な不良として扱われる事となる。だから普段どんな傍若無人なふるまいをしている悪ガキでも「血が出た」の一言が通りさえすれば「わざとじゃなかった」「ごめん」としおらしくなるのが常であった。まさしく出血は正義の御旗といえた。


 一方で、いくら出血がチート魔法だからといって「血が出た」の多様は禁物である。当然悪ガキは相手が出血に至らないよう加減して暴行を行っているのだから、ちょっと殴られたくらいで「血が出た」発言をしてしまうと「このくらいで血が出る訳がないだろ」と詰められ「本当に血が出たなら見せろよ」と証拠の提示を求めて来る可能性が高いのである。これに対して出血の証拠を提示できないと、「出てねえじゃねえか!」と余計に怒りを買い暴行を過熱させてしまう恐れがある。出血の虚偽申告はあまり褒められた事ではなかったのである。裏を返せばそれだけ出血に威力があるという事でもある。


 小学生は結局出血したもん勝ちだったのだが、この社会制度を裏技的に活用する人も一部存在した。3年生の時同じクラスだったK君がその一人だった。彼は普段気が弱いのに諍いになったら「ああああああああああああああ!」と狂気的な叫びと共に手足をばたつかせ暴れ回ったかと思うと、ひざをむき出しにし自ら瘡蓋を剥がす事で出血を誘発して手に馴染ませ「お前のせいで血が出た!」と鮮血に赤く染まった手を突き出すのである。彼はまさしくバーサーカーであった。そういう事件があったのでK君は祟り神のように避けられつつも一目置かれていた。一方でK君は義侠心に篤い所もあり、私がやっかいなガキ大将に絡まれている時にもツバを吐きかけて助けてくれた事もあった。「きったねえ!」とブチ切れそうになったガキ大将だったが、K君とこれ以上敵対して出血攻撃をされる事態は避けたかったのだろう。捨て台詞を吐いて逃げて行った。私が感謝を伝えると、K君はちょっと照れ臭そうに笑ってどこへともなく逃げて行った。……その時私も巻き添えでツバ攻撃を受けてしまったのでちょっと複雑な想いもあったのだが、それは言わぬが花という奴だっただろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ