秋休みの選択
2011/10/16(日)<3>
今、最高に楽しいと思ってるヨッシーですよ。
てか、3パートまでいっちゃいましたね。
うちらのライブは2曲歌って終わりました。
でも、ここからがある意味、本番って感じでもありますからね。
「自分達は2曲しか用意しませんでした。その理由は、この時間を使って、他にやりたいことがあったからです。少しだけ、皆さんもお付き合い下さい」
そこで、俺はガミさんに目をやりましてね。
「ガミさん、ステージに上がってきて!」
そんな風に言ったら、当然、ガミさんは驚いた様子を見せましてね。
でも、アッキーやバネが無理やりステージまで連れてきてくれました。
「ヨッシー、何なの?」
「ちょっとね」
そこで、ステージ袖に目をやりましてね。
そこにはミサがいまして、オッケーのサインをくれました。
それでは、始めましょうか。
てことで、またアツがカホンを叩いて、カウントを取りましてね。
うちらが演奏した曲は、結婚行進曲です。
そして、ステージ袖から姿を現したのは、ウェディングドレスを着たヒロです。
当然、ガミさんは驚いた表情でしてね。
ヒロはミサが付き添う形で、ゆっくりとステージ中央、ガミさんのそばに来ました。
そこで、俺は演奏を止めて、マイクを使いましてね。
「ガミさんとヒロは結婚して、幸せな家庭を築いています。でも、事情があって式を挙げていないんです」
そんな説明をしました。
「なので今、この場を借りて、簡単な結婚式をやりたいと思います。皆さんからも2人を祝福して頂けないでしょうか?」
そう言うと、みんなから暖かい拍手が起こりましてね。
では、やりますか。
「ガミさん!」
俺はそんな風に呼びましてね。
「あなたは最期の時まで、ヒロを愛し続けることを誓いますか?」
誓いの言葉、実際はもっと色々あると知ってます。
でも、2人に対しては、この言葉だけにする方が良いかなと思いましてね。
「僕は・・・ヒロを永遠に愛し続けることを誓います!」
そしたら、ガミさんは自分の言葉以上の思いで答えてくれました。
そのまま、俺はヒロに目をやりましてね。
「ヒロ、あなたは最期の時まで、ガミさんを愛し続けることを誓いますか?」
そこで、ヒロは笑顔を見せました。
「はい、私もアス君を永遠に愛し続けることを誓います!」
うん、2人、ホントに良い夫婦だと思います。
自分もいつか・・・うん、これは後で書きます(ぇ
「じゃあ、誓いのキスを」
「・・・え?」
これは、ヒロにも伝えてなかったんで、ガミさんとヒロ、2人共が驚いてたんですけどね。
みんなも拍手して盛り上げちゃいまして、無理やりさせましたよ。
「皆さん、お付き合い頂き、ありがとうございました」
最後にそう言いましてね。
多くの拍手を受けながら、ステージを降りました。
「ヨッシー、ありがとう」
ガミさんは嬉しそうに礼を言いましてね。
「礼は俺じゃなくて、ヒロに言えよ」
「あ、うん・・・ヒロ、ありがとう」
ガミさんもヒロも良い笑顔ですね。
「あ、アス君、実は他にも報告があって・・・」
そこで、ヒロは少しだけ恥ずかしそうにしましてね。
「私・・・妊娠してるみたいなの」
・・・!?
「マジで!?」
てか、この前、ヒロが気持ち悪いって言って、病院に行きましたが、どうやらつわりだったみたいです。
「おめでとう!」
まあ、これには当然、みんな喜びましてね。
「ヒロ、ありがとう」
ガミさんも嬉しそうでした。
「じゃあ、多分、私と同じぐらいの時期に出産よね?」
「あ、うん、そうだね。子供同士、仲良くしてくれたりするかな?」
ホノとヒロはそんな話もしましてね。
てか、何度も言うけど、ガミさんとヒロ、ホント幸せそうです。
そこで、俺はミサに近付きましてね。
「ミサ、ちょっと良い?」
軽くみんなから離れてみました。
「何ですか?」
「いや、えっと・・・」
まあ、ちょっと言葉に詰まっちゃったんですけど。
「俺、両親の仲悪いし、それで結婚とか考えてなかったんだけど、ガミさん達を見てたら、ああいうのも良いって思えて・・・」
今言わないと、きっと一生言わないかもしれないと思い、勢いで言っちゃいます。
「俺、ミサとの結婚、真剣に考えてみるから」
その言葉にミサは驚いた様子を見せましてね。
とはいえ、変に期待させるのも悪くてですね・・・。
「ただ、今から考えるってことだから、また待たせることになっちゃうんだけど・・・」
「待ちます!ずっと待ってます!」
ミサは嬉しそうに笑顔を見せてくれましたよ。
「ありがと」
なので、それだけ言いました。
その後、少しだけ祭りは続きましてね。
とはいえ、もうみんな自由に過ごすだけで終わっちゃいました。
そして、最後の挨拶ということで、マツさんがステージに上がりましてね。
「今回、皆さんのおかげで、無事にお祭りを終わらせることが出来ます。本当にありがとうございました」
マツさんは終始、礼を言っていました。
そこで、何故かアッキーがステージに上がり、携帯電話だかをマツさんに渡しましてね。
「実は、インターネットを利用したアンケートを実施していたんです。アンケートの内容は、どこの出店が良かったかなどですが・・・」
多分、アッキーのアイデアでしょうが、裏でそんなことをしてたようです。
「それで今回、アンケート1位に輝いた出店には、ベスト出店賞を贈りたいと思います」
ベスト出店賞って、もっと良いネーミングなかったのかよ?と思いつつ、誰がこれを取ったか、すぐにわかりましたよ。
「ベスト出店賞は、オムそば飯を出した、ガミさんの出店です!」
てか、今日、ガミさんの出店が混んでた理由って、これだったんですね。
「え!?」
まあ、ガミさんだけは気付いてなかったみたいで、驚いてましたけど。
そして、ガミさんはまたステージに上がり、何かもらってました。
そんなわけで、祭りは全て終わりましてね。
後片付けは明日とのことなんで、これで解散になりました。
まあ、俺は明日も仕事ありますし、すぐ帰らないといけないんですけどね。
みんなに挨拶してから、帰ることにします。
「ライブの映像、さっき見たけど、よく撮れてたのよ」
ホノは嬉しそうにそう言ってました。
まあ、いつかその映像を子供に見せるんですよね。
それがよく撮れてたってことで、ホノは満足気だったんですけど。
「ホノ、長生きしろよ」
そんな言葉をホノに言いました。
「その子が一人前の大人になるまで、近くで見守るんだろ?」
「・・・うん、そのつもりよ」
俺の言葉に、ホノは少しだけ笑った後、うなずきました。
うん、きっと、ホノは自分の子の成長を見守ることが出来るでしょうね。
次はアツ。
「さっき、あいつらと話した」
まあ、例の不良達もライブを見てたようでしてね。
「冗談かもしれねえけど、感動したなんて言われたよ」
「それ、絶対に冗談じゃないな」
そこでお互いに笑いましてね。
「バネさんから話を聞いて、俺達もボランティアをやろうと思ってる」
てか、また不良らしくない不良が増えるわけですね。
「うん、きっと上手くいくよ」
まあ、アツも大丈夫そうですね。
次はエンです。
「今回は焦らせちゃったけど、好きって気持ちは焦らずに探してよ」
今までやったことと、言ってることが違うやんって感じですけど。
「はい、わかりました」
「まあ、何かあれば連絡してもらって良いから」
「はい、ありがとうございます!」
エン、自分と同じように良い方向に変わってくれると良いですね。
バンドメンバーに挨拶した後はマツさんです。
「お世話になり、ありがとうございました」
「お疲れ様。祭り、楽しかったです」
今回、マツさんは色々と大変そうでしたけどね。
その分、人一倍成長もしたように見えます。
「あまりネガティブに考えないようにして下さいね」
「はい、どうにも出来ないことは笑い飛ばします」
うん、マツさん、来年以降も実行委員長やってる気がします。
次はムラさんです。
「帰るのか?」
「はい、色々と助けて頂いてありがとうございました」
ホント、色々と頼りにさせてもらいましたからね。
「やっぱり田舎はダメか?俺の息子は祭りにすら来なかったしな・・・」
そんな風に言って、ムラさんは落ち込んでたんですけどね。
「ここも好きですよ。でも、都会も悪くないですから」
「そうか・・・」
まあ、ムラさんは今後も、息子さんのことで悩まされるんでしょうね。
そして、荷物を取りにガミさんの家へ行きましてね。
元々、支度していたんで、すぐに出発出来る状態です。
それで、ガミさんの両親には簡単に礼を言ったりしたんですけど。
ガミさんとヒロにも、言わないといけないことなんかがありますからね。
てことで、まずはヒロです。
「言い忘れてたけど、キレイだよ」
着替える暇がなくて、ヒロはドレスのままだったんですけどね。
「いつか、ミサちゃんにもドレス着させてあげてよ」
「うん、そう出来るようにするよ。あと、元気な子を産んでね」
思えば、ヒロとこんな風に話すことになるなんて、思いもしなかったです。
まあ、ヒロはこれからも、幸せ一杯のまま、過ごしてくれそうですね。
そして、最後はガミさんです。
「ヨッシー、食べてよ!」
あ、オムライスですね・・・って、何で!?と思ったんですけどね。
「これ、僕がヨッシーにご馳走する最後の料理だから・・・」
その言葉で納得しました。
まあ、ライブやって疲れてたし、もらいましてね。
全部、食べちゃいました。
このオムライス、今まで食べた中で1番美味しかったですよ。
「ご馳走様」
俺が食べ終えると、ガミさんは嬉しそうに笑いましてね。
「ヨッシー、来てくれてありがとう」
「何、改まってるんだよ?」
「僕、実は明日から・・・」
「ストップ、俺は知ってるし・・・てか、聞かないでいいや」
ガミさんが明日から入院するということ、ガミさんの口からは聞きたくなかったんですよね。
なので、思わず止めちゃいました。
「僕、10年もかからなかったみたい」
「え?」
ガミさんが何を言ってるのか、わからなかったんですけど。
「料理に関することで賞をもらって、ヒロと結婚して、子供も今度生まれるよ」
そこで思い出しました。
以前、ガミさんが将来の夢とか持ってなかった時、俺から、そんな夢を持てと言ったんでしたね。
「僕、最後の夢は自分の子を抱き締めることにするよ」
それをガミさんは笑顔で言いました。
出産予定日は大分先ですけど、ガミさんはきっとこの夢を叶えるんでしょうね。
「あ、ヨッシー?」
ガミさんはそこで何か考えている様子でしてね。
「もしも、ヨッシーが望むんだったら、ずっとここにいて良いんだよ?」
そんなことを言われました。
まあ、ここであったことを振り返ってみて、とにかく楽しかったです。
色々とありましたけど、それも含めて楽しかったです。
自分に出来ること、自分がするべきこともたくさんありました。
ここにいれば、ずっと楽しいだけの日々が続く気がします。
・・・でも、答えは決まってるんです。
「ごめん、俺は戻るよ。やらないといけないこと・・・やりたいことがあるから」
ガミさんの言葉を受けても、この気持ちは揺るぎませんでした。
そしたら、ガミさんは笑顔を見せましてね。
「ヨッシーなら、その選択をしてくれると思ったよ」
「え?」
「でも、ヨッシーの口から聞きたかったから・・・」
てか、ガミさんは俺の考えというか、決心のようなものを知ってたんですね。
それでも、あえて聞きたかったみたいです。
そんなこんなでもう遅くなってしまいましたし、さすがに帰ることにしたんですけどね。
「じゃあ、2人とも体に気を付けてね」
「あ、ヨッシー?」
そこで、ガミさんは少しだけ言葉を詰まらせました。
「多分、僕らがこうやって会うこと、もうないんだろうね」
ガミさんはそんな風に言いました。
まあ、俺は来ようと思えば、すぐここに来れるわけなんですけどね。
「うん、そうだろうね」
俺もガミさんと同じ考えだったんです。
去年、ガミさんと別れた時は、いつかまた会うことになるんだろうと思いました。
そして、今回、その予想通り、再会したわけなんですけどね。
今は、もうこれで本当にガミさんとお別れなんだなって感じてるんです。
「ヨッシー、ありがとう。おかげで最後に楽しい思い出が出来たよ」
「俺の方こそ、ありがとう。まあ、こうやって会うのが最後だとしても、うちらが親友だってのは変わらないから」
それとなく言葉にしたけど、自分がガミさんのことを親友だなんて言うのは初めてかもしれません。
「うん、僕らは永遠に親友だよ!」
ガミさんが話を壮大にしたせいで、俺の言葉が薄れた感じなんですけどね。
まあ、ガミさんは最後までいつもどおりですね。
「あ、そうだ!」
そこで、ガミさんは先程、ベスト出店賞でもらったものを持ってきましてね。
「コップが2つ入ってたから、ヨッシーに1つあげるよ」
「え?」
「僕が賞をもらえたのは、ヨッシーのおかげだから」
てか、コップ2つって、明らかに何か別の景品だったんでしょうね。
それを急遽作った賞の賞品にしたみたいです。
でも、コップは嬉しいですね。
丁度欲しかったですし。
言ってなかったかもしれませんが、最近、愛用してたコップが割れましたしね(それ、確実に言ってます
「それじゃあ・・・」
まあ、ガミさんは名残惜しそうだったんですけどね。
「最後は笑顔でお別れしようよ」
「ああ、そうだね」
てことで、お互いに笑顔を見せましてね。
「ヨッシー、じゃあね」
「うん、ガミさん、さよなら」
前はお互いに「さよなら」を言いませんでした。
でも、今回はこの言葉を伝えました。
そして、俺はガミさんに背を向けて、ミサと一緒に歩き出しました。
てか、振り返れば、ガミさんはまだそこにいるんでしょうね。
でも、俺は振り返らなかったです。
というより、振り返れなかったんです。
もう、笑顔じゃなかったんで・・・。
そしてきっと、ガミさんも笑顔じゃないでしょうし。
隣の部屋に引っ越してきたガミさんと初めて会った時、とにかく変な人が来たなと思いました。
初めての巻き込まれは、新入生へのエールでしたっけね。
ミサと出会えたのもガミさんのおかげです。
マサが亡くなった時、ガミさんがいたから、思い切り泣けました。
ガミさんとアッキーの出会いをきっかけに、過去の悩みを整理出来ました。
両親は今も相変わらずですが、ガミさんのおかげで、自分の本音をぶつけることが出来ました。
ヒロと両思いで結婚までしてしまったのは驚きでしたが、そのおかげで自分も恋愛とか結婚とか考えられるようになりました。
そして今、自分が仕事をしていること。
さらに、そうした仕事しながらの毎日をこれからも送ろうと選択出来たこと。
全て、ガミさんのおかげです。
感謝し切れないほど感謝したいことがたくさんあるけど、そのまま俺は振り返ることなく、その場を後にしました。
そうして、ここでの楽しいだけの毎日を終わりにした1日でした。
そして、これがガミさんと過ごした秋休みでした。