本番なんです
2010/02/07(日)
いよいよ本番ってことで、昨夜はあまり眠れなかったヨッシーですよ。
てか、ちょい役とはいえ、オチを作る、重要な役ですからね。
失敗は出来ないし、厳しいとこです。
まあ、今日は朝から集まり、稽古場で最後の練習をする予定です。
いわゆる、ホントの最終確認ってやつです。
リハーサルをやったとはいえ、本番という意味では、今夜が最初で最後になりますしね。
ついでに、俺はリハーサルでは参加してなかったんで、みんなよりも最初で最後って感覚が強いです。
そう考えたら、ますます緊張してきた~。
ちなみに、俺はガミさんとミサと一緒に、ヒロの家を目指してたんです。
まあ、いつも通りって感じなんですけどね。
そしたら、途中でヒロから電話がありました。
なので、どうしたのかな?と思いつつ、出たんですけど。
「もしもし?」
「あ、あたし、先に稽古場に向かってるから、直接行ってくれないかな?」
ヒロがそんなことをするのは初めてなんで、珍しいなと思いつつ、そういうことなら稽古場に行きますか。
てことで、了解したんですけどね。
「みんな、ごめんね・・・」
ヒロは最後にそんなことを言って、電話を切ったんです。
俺はそれに、違和感を持ちましてね。
「ヒロ、先に行ってるみたいだから・・・」
ガミさん達に、そんな説明をしながら、色々な予測を立てたんです。
そして、嫌な予感がしましてね。
「ごめん、やっぱりヒロの家に行ってみよう」
結局、そんな結論を持ちました。
何か、いつもと違う感じだったし、念のためってレベルですけどね。
そんなわけで、ヒロのアパートに到着です。
まあ、とりあえずノックしてみましてね。
でも、何の反応もありませんでした。
てか、俺の考え過ぎで、実際にもう稽古場に行ってるのかもしれません。
てことで、行こうとしたんですけど、何となくドアノブを回してみました。
そしたら、普通にドアが開いちゃったんです。
ガミさんみたいに、鍵をかけ忘れたって可能性もありますが、ちょっと中の様子を伺いましてね。
・・・普通に誰かいる気配を感じます。
そんなわけで、慌てて中に入ったんです。
「何やってんだよ!?」
そこに、ヒロはいました。
「ごめん、あたしには無理だから・・・」
てか、近くには錠剤の入ったビンがありましてね。
よく見ませんでしたが、睡眠薬のようなものだったと思います。
「これ、飲んだのか!?」
「ううん、まだだよ・・・」
まあ、ヒロは直前で怖くなったらしく、迷ってたみたいです。
その間にうちらが到着したわけで、何かする前に止められました。
「今度こそ、死のうと思ったのに、また失敗しちゃった・・・」
「何でこんなことすんだよ!?」
てか、自然と怒鳴っちゃったんですけどね。
「あたし、生まれてきちゃいけなかったんだよ。親も、あたしのせいで不幸になって・・・」
それで、ヒロの話を聞きましてね。
どうやら、ヒロの親は何でもかんでも人のせいにする人みたいです。
それで、ヒロのせいだなんて話をよくされて、時にはヒロを産まなきゃ良かったなんて言ったりもしてるみたいです。
「あたし、何やってもダメで、そのうち、何か変わってくれないかなって夢見てるんだけど、まだ変わってくれなくて・・・現実は夢のようには、いってくれないね」
「てか、話聞いてると親が悪い気がするんだけど?大体、ヒロは悪くねえし・・・」
「ううん、親の言う通りだよ。今だって、ヨシ君達に迷惑かけてるし、あたしなんか生きてちゃいけないんだよ・・・」
ヒロがそんなことを言ったんで、俺はまた反論しようとしたんですけどね。
・・・そこで、ガミさんがヒロの頬を叩いたんです。
「生きてちゃいけないなんて、そんなこと言わないでよ!」
ガミさんは目に涙を浮かべてましてね。
「僕、心臓が弱くて、心臓移植も受けてるんだよ。お医者さんの話では・・・」
「お兄ちゃん、待って!」
そこで、ミサがガミさんを止めたんです。
てか、この先、ガミさんは俺にも言っていないことを言おうとしてたんです。
だから、ミサが慌てて止めに入ったんです。
まあ、結局は止められなかったんですけどね。
「僕、あとどれぐらい生きられるか、わからないんだから!」
てか、ガミさんが何を言ったのか、一瞬、わからなかったんです。
「え、どういうこと!?」
てことで、聞き返しちゃいました。
そしたら、ミサが困った様子でしてね。
「ヨッシーさん、黙っててごめんなさい・・・」
それで、ミサが色々と話してくれました。
てか、俺が無知なんですけど、心臓移植を受けた人の、その後の生存率って、結構低いそうなんです。
10年後で50%ぐらいとか・・・。
さらに、ガミさんは心臓との適合があまり良くないとのことで、この前、風邪を引いた時のような危険を常に考えないといけないとか。
「この前、本当は入院するようにも言われたけど、僕は残された時間を誰かのために使いたいから・・・」
てか、ガミさんが周りのことばかり考えてたのは、そういうことだったんですね。
それに、自分の将来のこととか、考えてないようでしたし・・・。
とまあ、ガミさんが意外なことを言ったんで、驚いちゃったんですけど、今はヒロの説得が先です。
「ヒロの演技、僕は好きだよ。たくさんの人に見てほしいって思ってるし、僕はいつまでも見たいもん!」
ヒロはガミさんの話を真剣に聞いてる様子でした。
「将来はドラマや映画にも出て、世界でも有名なハリウッド女優になってほしいもん!」
それは言い過ぎのようなと思いつつ、スルーします。
「だから、生きてちゃいけないなんて言わないでよ!」
そこで、ガミさんの目から、涙が零れました。
「僕は生きたくても、どれだけ生きられるか、わからないから・・・」
そんなガミさんだからでしょうね。
俺には決して言えない、重い言葉でした。
ヒロは少しだけ考えた様子を見せた後、うなずきました。
「ガミ君、ありがと・・・。頑張ってみるよ」
そして、ヒロは、はっきりとそう言ってくれました。
そんなわけで、ちょっと遅れて、みんなと合流しましてね。
最後の練習をした後、昨日も行った舞台に向かいました。
てか、ガミさんが呼んだのか、知った顔が結構いましてね。
まず、リハーサルを見てくれたレミさん達が本番も見たいと来てくれたんです。
まあ、ルリが無駄なプレッシャーを与えてきて、ムカッときましたけど。
さらにはケイさんも一緒にいましてね。
何か、高確率で仕事をサボってる気配だったんですが、刑事は私服なんでわからないですし、スルーしました。
あと、受験前なのにスポドリとアップルも来てます。
ついでに、みーちゃんとあーくんも来て・・・って、どんだけ呼んでんだよ!?
まあ、来てくれるのは嬉しいんですが、緊張するんですけど・・・。
そんで、当初は俺もやる予定だった受付を、ガミさんとミサに頼みましてね。
うちらは舞台の確認なんかをしました。
てか、舞台から客席を見ると全然違って見えます。
これで、緊張するなってのが無理だし。
そんで、少しの間、時間を置きまして、そろそろ始まりか~ってとこで、アッキーとエリさんが来ました。
「ヨッシー、調子はどう?」
「セキ、しっかりやりなさいよ?」
そんなことを言ってきたんですけどね。
そこでガミさんとミサが来て、驚きの事実が発覚したんです。
「チケット、完売したよ」
・・・え?
「私とエリさんが宣伝したおかげだね!」
「やり過ぎだろ!」
てことで、まさかの満員御礼みたいです・・・。
そんなわけで、俺だけでなく、みんな緊張してる感じになりました。
と思ったら、1人だけ違ったんです。
「見てくれる人がたくさんいるって、良いことじゃないですか」
ヒロだけ、全然緊張してない様子で、そんなことを言ったんです。
てか、さっきの今で、ヒロは色々と吹っ切れたみたいです。
そんな頼もしいヒロを見てたら、安心しましてね。
「じゃあ、みんな、やるよ!」
セキさんがそんな風に言って、さらに緊張が和らぎました。
そして、リハーサルと同じように、セキさんの挨拶から始まりましたよ。
・・・って、セキさん、普通に緊張してるっぽいし。
まあ、セキさんって、アドリブが苦手みたいだし、こういう挨拶はダメなんでしょうね・・・。
そんなわけで、いよいよ物語が始まりです。
「今、私がここにいること・・・これはきっと運命なのよ!」
そんなヒロの第一声で、会場中が一気に引き込まれたように見えました。
てか、客席は人で埋まっていて、メチャクチャ大勢いるんですよ。
それなのに、ヒロは緊張した様子もなく、練習通り・・・てか、練習よりも迫力ある演技だったんです。
そして、そんなヒロに引っ張られるように、みんなも良い演技を見せてくれました。
ワタルは自信過剰な雰囲気をしっかり表現してました。
そういえば、俺が教えた、付け焼刃のギターも、良い音させてましたよ。
弾き始めても、すぐ止められるって感じなんで、それほど聞けませんでしたけどね。
ミホは若さを生かした、のびのびとした演技に見えました。
周りに気を使う、ちょっと大人な年下ってことで、愛嬌もありましたし。
てか、俺と同じぐらい、舞台に立った経験はないはずなのに、そんな風には見えず、堂々としてました。
セキさんは、挨拶の時の緊張具合が嘘のように、しっかりとした演技でした。
やっぱり、ベテランって言うんですかね。
気弱な役を演じてるんですけど、確かな存在感を出してましたよ。
コムは良い意味で浮いたキャラになってました。
登場が遅めなのに、インパクトが強いですからね。
ある意味、量より質って感じに、大きな印象を残してるでしょう。
そんなすごい5人を舞台裏で見て、俺は単純にこの舞台を楽しんでました。
この後、自分が登場するわけですが、自然と緊張も消えちゃいましたしね。
てか、こんな5人と同じ舞台に立つなんて、一生自慢出来る気がするし。
そんなわけで、物語終盤。
俺は舞台に立ちました。
まあ、完全に素人なんで、一言とは言え、メチャクチャな演技だったと思います。
だけど、緊張は全くなく、自分に出来る限界で演じられましたよ。
そして、うちらの舞台が終わりました。
そしたら、大きな拍手をもらいましてね。
その拍手を受けながら、俺は軽くヒロを見てました。
ついさっき、死のうとしてたヒロですが、今はそんな風には全く見えないです。
まあ、まだ全ての問題が解決したわけではないと思うんで、少しずつ解決していきましょう。
そんなわけで、舞台が無事に終わったんですけどね。
今夜は何だか興奮してしまって、眠れそうにない1日でした。