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第5話 占い部結成 前編

 翌日、昼休みの教室。


 本庄です。


 今日は、登校してからずっと、あいつを監視しています。


 あいつ、というのは、上里くんのことです。


 昨日は、バスで学校に戻ってきたあと、すぐに解散となりました。


 あいつはバスの中では、誰とも話さないで大人しくしてたし、解散後は一人で帰ったみたいだから、クラスメイトにあのことは話してないはずです。


 話していたら、今頃、教室は大騒ぎになっているだろうし、絶対、誰かが、私に話かけてくるでしょうから。


 昨日のようすでは、あいつはあのことを誰かに話すつもりはないみたいでした。


 でも、本人がそう言ったわけじゃないし、今日も大人しく黙っているとは限らないので、あいつが誰となにを話すのか、こうやって、監視しているのですが――。


 なによ、あいつ。


 もうすぐ昼休みが終わる時間だというのに、誰とも話さないじゃない。


 昼食のときは、食堂でこっそりあいつを監視してたけど、一人で天ぷらそばを食べてるだけだったし。


 そのあと、図書館へ行ったから、そこでも監視してたけど、一人で小説を読んでるだけだったし。


 昼休みが終わりそうになって、教室に戻ってきてからは、自分の席でひたすらスマホをいじってるだけだし。


 もちろん、授業の合間の休み時間もずっと一人でした。


 どうなってんの?


 …………。


 もしかして、あいつ、ぼっち?


 そういえば、昨日、あいつは一人で歩いてたような気がします。


 あのときは気にも留めてなかったけど。


 クラスでぼっちは、私だけかと思っていたのに……。


 ……いや、別にシンパシーなんて、感じてないわよ。


 感じるわけないでしょ、こんなやつに。


 今まで、こんなやつに注目したことなかったから、気づかなかったけど、ぼっちなら別ね。


 話す相手がいないのなら、あのことを誰かに知られる心配はないし。


 なんだ、必死になって、あいつを監視してた私がバカみたいじゃない。


 …………。


 いや、でも、まだ放課後があります。


 放課後、例えば、帰宅途中とか、私の目の届かないところで、偶然、一緒になったクラスメイトの誰かに、あのことをポロッと話すかもしれません。


「聞いてくれよ、実はさあ……」とか言って。


 ……ああダメね、やっぱり、このまま、野放しにしておくわけにはいかないわ。


 正直言って、あいつがあのことを誰かに話すんじゃないかと思うと、枕を高くして眠れないので、早めに手を打っておくことにします。


 ちょうどいい、考えが浮かびました。


 一石二鳥ともいえる考えが。


 さっそく、今日の放課後、実行することにします。


     ◇


 上里です。


 午後の最後の授業が終わって、僕が帰ろうかと席を立つと、本庄さんがやってきて、こんなことを言ってきました。


「先生たちが、昨日のことについて、詳しい内容を聞きたいって言ってるから、私と一緒にきてちょうだい」


「ええっ?」


 昨日のことって、当然アレのことだよね?


 先生には言わないはずだったんじゃないの?


 本庄さんが言わないほうがいい、って言うから、僕はそれに同意したのに……。


 あとから聞かれて、やっぱり、話してしまったんでしょうか。


 それとも、誰か見ていた人がいて、そっちからバレたのでしょうか?


「ついてきて」


 本庄さんはそれだけ言うと、教室を出ていきます。


 僕も渋々、あとをついていきます。


 内容が内容だから、先生だけでなく、きっと校長とか、上のほうの人もいるんだろうな。


 話すにしても、どこまで話していいんでしょうか。


「ねえ、今のうちに、どう説明するか、口裏合わせ程度はしておいたほうがいいんじゃないのかな? 僕、聞かれたら、うまくごまかすことなんてできないよ」


 後ろから、小声で本庄さんに話しかけますが、返事はありません。


 彼女は無言のまま、階段を下りて、僕を校舎の一階へと連れていきます。


     ◇


 一階の廊下に、本庄さんの履いているロングブーツの靴音が響いています。


 なんで、生徒が校内でこんな靴を履いているのかというと、七本木学園高校は、登校時の靴のまま(つまり土足です)、校舎内に入る学校だからです。


 靴を脱ぐという習慣のない、海外の学校と同じ、といえばわかりやすいでしょうか。


 なので、うちの学校には上履きがないし、玄関に靴箱もありません。


 サンダル以外なら、なにを履いてもいいので、本庄さんみたいに、ロングブーツを履いて登校してきても問題はないのです。


 そういえば、彼女は入学したときから、一貫してロングブーツを履いてるような気がします。


 よほどロングブーツが好きなのか、ファッション的なこだわりがあるのかわかりませんが、気温が高くて、足もムレやすいだろうに、よく履くなと思います。


 …………。


 しかし、こうして本庄さんの後ろを歩いてみると、彼女、結構、背が高いですね。


 ブーツのヒールの分を考慮しても、百七十センチ以上は、確実にあると思います。


 僕は百六十センチくらいしかないから、羨ましいですね。


 せめて、僕もこれくらい身長があれば、そう簡単に、女子と間違われることもなかったのに。


 まあ、羨んでもどうにもならないんだけどさ。


     ◇


 本庄さんが、一階の突き当たりの部屋の前で立ち止まりました。


 プレートには「第一会議室」と書かれています。


 ここに、先生たちが集まっているのでしょうか。


 これからのことを想像して、僕が身震いしていると、突然、本庄さんが無造作に部屋のスライドドアを開けました。


 ええっ?


 ノックぐらいしろって!


 彼女にそう注意しようと思いましたが、部屋の中には誰もいません。


 コの字型に並べられた長机と、パイプ椅子が等間隔で置かれているだけ。


「あれ? 誰もいないけど。これからくるの? 時間と場所は合ってるんだよね?」


 僕は本庄さんに聞いてみました。


「先生たちはこないわ」


 えっ?


「こないってどういうこと? クマに襲われた件で、詳しい話が聞きたいからって、僕たち、呼ばれたんだよね?」


「違うわ」


「はあ?」


「最初から、先生には呼ばれてないわ。先生が詳しい内容を聞きたい、というのはウソよ。それに、あなたに用があるのは、先生じゃなくて私。あなたに用件を正直に話しても、ここまでついてくるとは思えなかったから、少しだけ、強引な手段を使って、あなたをここに連れてきたの。ああ、用件というのは、あの件とは無関係よ」


「なんだよ、それ!」


 いくら温厚な僕でも、こんなことされたら、ブチ切れます。


「つまり、騙して僕をここに連れてきたってこと? なんでそんなことするのさ。あの件と関係がないのなら、教室で用件を話せばいいじゃないか」


「教室ではダメなの。ここにきてもらわないと」


「…………?」


「とりあえず、そこに座って」


 本庄さんが、僕に椅子に座るよう言ってきます。


 僕はこんなところに長居するつもりはないので、立ったままで一向に構わないのですが、座らないと用件を話さないみたいなので、仕方なく、椅子に座ります。


 僕が椅子に座ると、本庄さんは立ったまま、僕のほうに顔を近づけてきて、こんなことを聞いてきました。


「ねえ、上里くん、あなた、なにも部活入ってないでしょう?」


 いきなり、どうしたんでしょうか。


 今まで、一度も僕のことを名字で呼んだことないのに、こんな猫なで声で話しかけてきて、なんか怪しいですね。


 警戒しないと。


「その質問と、ここにきたことと、なんの関係があるわけ?」


「いいから、答えなさいよ」


 質問に答えたら、ここから解放してくれるんでしょうか。


 質問の意図はわかりませんが、部活に入ってないのは事実なので、僕は「入ってない」と素直に答えました。


「バイトは?」


「……してないけど」


「塾は?」


「……いってない」


 なんのために、こんなこと、聞いてくるんでしょうか。


「じゃあ、暇をもてあましているはずよね。ちょうどいいわ。あなた、部活に入って、充実した学生生活、送りなさいよ。そうね『占い部』なんてどうかしら」


 本庄さんがセリフ棒読み状態で、こんなことを言ってきます。


 勝手に、暇って決めつけないで欲しいんだけど。


 それに、占い部?


 もしかして、部活の勧誘が目的なんでしょうか?


 僕は占いなんて、興味ないのに。


「占いは女の子に人気があるし、占いができるようになれば、女の子にもてるわよ」


 本庄さんが、とうとう怪しい誘い文句を口にしました。


 僕の中で、彼女に対する警戒度がMAXになります。


「いや、別にもてなくていいから。もう、帰るよ」


 僕が席を立とうとすると、


「入部しなさい!」


 本庄さんが、強い口調で言ってきました。


「なんで、そんなに占い部なんてのを勧めるのさ?」


 本庄さんと占い部に、なんの関係があるんでしょうか?


「私が部長をしているのよ」


 ……はじめて知りました。


 そうなんですか、だから、こんなに勧誘してくるんですね。


 あれ、でも、今まで勧誘されたことなんて、一度もなかったんですけど。


 変ですね、急に今になって。


 ……はっはーん。


 僕は気づきました。


 本庄さんは、僕があのことを誰かに話してしまうのではないかと、警戒してるんじゃないでしょうか?


 それで強引に、自分が部長をしている部の部員にして、放課後、僕がほかの生徒と接触しないよう、行動を制限して、監視下に置くつもりなのでは……。


 彼女の不自然な行動からして、そうとしか考えられません。


 なんだ、やっぱり、後ろめたい気持ちがあるんじゃないですか。


 そうなら、最初から素直に、そう言えばいいのに。


「心配しなくても、あのことは誰にも言わないよ。安心していいよ。だから、部活には入らないよ。それでいいでしょ?」


 本庄さんが、なぜ誘ったのかを理解した僕は、彼女を安心させるために、そう言ってやりました。


 これで、用件はすんだはずです。


 僕が席を立って、ドアのほうへ行こうとすると、今度は本庄さんに腕を掴まれました。


「まだ話は終わってないわよ! 椅子に座りなさい!」


 そして、僕に座り直すよう、命令をしてきます。


 あのことを誰にも言うなってこと、だけじゃないんでしょうか?


 まだほかにも、あるんでしょうか?


 とりあえず、話を全部聞くまでは、僕を帰すつもりはないようなので、さっさと話を終わらせてよと思いながら、僕はまた椅子に座ります。


 その直後――。


 コンコン。


 ドアをノックする音がしました。


 あれっ、誰かきました!


 この部屋、空いてるんじゃなかったの?


 本庄さんは、慌てる僕とは対象的に落ち着き払って、


「どうぞ。入っていいわよ」


 と、ドアの向こうの相手に返事をします。


「…………」


 ドアが開いて、ローファーを履いた、ショートヘアの女の子が無言で入ってきました。


 今年、開校したばかりのこの学校にいるということは、僕と同じ、高校一年生のはずですが、この子は体つきが幼くて、とても高校生には見えません。


 身長は百五十センチ、ないかもしれません。


 ブレザーの上からでもわかりますが、胸は全然ありません、ぺったんこです。


 小学生って言われても、納得してしまいそうです。


「ちわーす!」


 そう言いながら、次に入ってきたのは、スニーカーを履いた、ポニーテールの活発そうな感じの女の子です。


 この子は、さっきの子とは違って、高校生らしい体つきをしています。


 胸も結構あります。


 身長は、僕と同じくらいでしょうか。


 二人とも、顔立ちの整った美少女です。


「椅子に座ってて」


 入ってきた二人に、本庄さんが指示をすると、彼女たちは、僕の向かいの席に座ります。


 突然、見知らぬ二人の女の子が入ってきたので、僕は困惑します。


「だ、誰?」


「占い部の部員よ」


 本庄さんが、僕の疑問に答えます。


 部員との顔合わせをさせるため、僕をここまで呼んだのでしょうか。


 でも、僕は入部する気なんてないですから。


 ショートヘアの子は、なにか気になることがあるのか、椅子に座ってから、ずっと、僕の顔を見つめています。


 な、なんでしょうか?


 理由を聞こうと思ったそのとき――。


「あなたは男子? 女子? 部長の知り合い?」


 うっ、また聞かれてしまいました。


 入部希望者を連れてくるってことで、本庄さんは、彼女たちを呼び出していたんだろうから、そのときに、僕が男子であることくらい、伝えておいてくれればよかったのに。


「僕は男子で、本庄さんの知り合いというか、クラスメイトだよ。だま……」


 なにやら刺すような視線を感じたので、本庄さんのほうを見ると、こっちをにらんでいます。


 どうやら、騙してここに連れてきたことは、秘密にしてもらいたいみたいです。


 なんだよ、事実じゃないか。


 そんなに、見栄を張りたいのでしょうか。


「……誘われてここにきたんだ」


 ――不本意だけど、言い直してやることにしました。


 ホントは騙されて、ですけど。


 部長という立場のある、本庄さんの顔を立てて、こういう言い方をしてあげたんだから、感謝して欲しいですね。


「そうなんだ。それで、あなたは、どんな占いができるの?」


 ショートヘアの子が僕に聞いてきます。


「占い? できないよ。興味もないし」


「……驚いた。そんな人を部長が連れてくるなんて」


「そんなに驚くようなことなの?」


「部長の方針で、占いの才能がない人の入部希望は全部断ってきた。才能がないと、占い部には入部できない」


 ショートヘアの子が部の方針を説明してくれました。


「普通、部活って、それが好きな人とか、興味のある人が入るものじゃないの? 才能がないと入部できないって、条件が厳し過ぎると思うけど。プロを目指すわけじゃあるまいし」


 僕がそう言うと、本庄さんが反論します。


「仕方ないでしょ。才能がない人を無条件に入れていたら、今週の恋愛運やラッキーアイテムがどうのこうの言って、きゃあきゃあ騒ぐだけの部活になってしまうわよ。私は、占い部をそんな低レベルな部活にはしたくないの。占いの才能を持っている人だけが集まるような、少数精鋭の実力主義の部活にしたいのよ。そして、互いに努力し合って、占いの技術を磨いていけるような部活を目指したいの」


 ええ――――!


 僕の知ってる本庄さんの性格からは、想像もつかないほど、高尚な目標なんですけど。


「だから、部長がなぜ、占いができないという、あなたを誘ったのかがわからない。でも、あなたが入部してくれると、人数が四人になって、はじめて、部活動が認められるようになる。私は早く部活動をはじめたい」


「余計なことは言わないで!」


 ショートヘアの子が補足すると、本庄さんが声を張り上げました。


 入学してから結構たつのに、本庄さんを含めて、いまだに部員(正確にはまだ部員じゃないけど)が三人しかいないって、条件を絞りすぎなんじゃないの?


 この子、早く部活動をはじめたいって、嘆いてるけど。


 僕を部活に誘ったのは、自分の目の届くところに置いて、監視するためだと思っていたのですが、部員の数合わせも兼ねていたみたいです。

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