6、不器用な思いやり
「うぅ……っ痛たた」
よく朝、ソファの上で目覚めた俺。
ゆっくりと手足を伸ばし固まった筋肉をほぐす。
慣れない場所で寝たせいか身体があちこち痛い。
実は昨日、話しをした後でシエルさんがもう夜遅いから今日はとりあえず泊まっていくようにとリサさんに進めたのでいつも俺が使ってた部屋で寝ている。
さすがに女性にこんなとこで寝ろとは言えるわけがないし、シエルさんが自分のベットを使っていいと言ってくれたけどさすがに申し訳なくて断った。
でもさすがにちょっと後悔もある。
思った通りこのソファは硬くて寝心地は最悪。
おかげであんまり寝た気がしない。
シエルさんは花屋に戻ると1人だと言うリサさんにしばらくここに居る事も進めていたけど、彼女は少し悩んでいるようだった。
考えさせてくださいと言ってたけどどうするのかな?
危険な男が近くにいるなら1人になるのは絶対危ないし、ここに居てもらった方が安心だと思うけど……
俺にとやかく言う権利なんてないし。
せめて、リサさんの為に俺にできる事はないだろうか?
壁にかけてあるアンティークぽい時計を見るとまだ、いつもより1時間以上も早い時間。
あんまりよく寝れなかったからな……
……あ!そうだ。
俺はちょっといい事を思いつき、音をたてないように静かに店のキッチンへと向かった。
2人ともまだ寝ているだろうから、たまには朝食でも作って驚かせよう。
いつも作ってもらってばかりだし、シエルさんも喜んでくれるかもしれない。
些細なことかもしれないけど、美味しいものを食べて少しでもリサさんに元気になってもらいたい。
って言っても、料理なんてした事ないってゆうかそもそも覚えてないんだけど。
ここしばらくの間、シエルさんが料理する姿を見てきたし、事務所の棚に料理本がいくつも並んでいたからそれを少し借りて何か作ってみよう。
とりあえずコーヒーをセットして手を洗う。
慣れない手つきで包丁を握り材料を切っていく。
食パンやハム、チーズとレタス。
「痛っ……」
慣れないせいか包丁で指先を少し切ってしまい、傷口から赤黒い血が滴り落ちた。
慌てて水でその血を洗い流して、救急箱から絆創膏を1枚取り出しキツめに巻き付ける。
シエルさん、いつもこんな大変な事をしてるんだな。
たくさんの料理を作ってお客さんの相手をしたり俺の事を世話してくれて、本当に凄い人だよな……
改めて尊敬するよ。
俺もシエルさんのような優しくて、面倒見が良くて、なんでも出来る人になりたいな。
苦戦しながらも何とか朝食を作り終わり、できた料理をテーブルに並べていく。
2人ともそろそろ起きてくる頃かな?
そう思ってチラッとキッチン横の廊下に続く扉の方に目を向けるとちょうどその奥から誰かがゆっくりと歩いてくる音が聞こえてきた。
徐々に足跡が近づき扉が開くと、そこにはシエルさんがあくびをしながら眠そうに立っていた。
「おはよう。今日は早いのね?ん……あら、いい匂い。もしかして朝ごはん作ってくれたの?」
「はい、たまたま早く目が覚めてしまったので。少しだけキッチンお借りしました。」
「そう、ありがとね」
席に座りコーヒーをカップに注ぐシエルさん。
そんなさりげない姿も、挽きたてのコーヒーの香りも今では見慣れた安心する景色だ。
そこにタイミングよくリサさんが顔をのぞかせた。
「おはようございます」
「おはよ♪」
「おはよう、ご飯できてるよ」
昨日まで2人の少し寂しい食卓だったのが3人になって、今はなんだか賑やかに彩っている。
少し照れくさいけどこうゆうのも案外悪くない。
「すいません、お世話になってしまって」
「いいのよ。さ、食べましょ♪」
なかなか不格好な出来栄えのサンドイッチ。
見かけとは裏腹に手本通りに作ったかいがあって、味はとても美味しくできたと思う。
2人にもかなり好評で、俺が初めて作った朝ごはんはあっとゆう間に無くなった。
2人の嬉しそうな顔を見ていると、かなり大変だったけど作ってみてよかったと俺も嬉しかった。
きっとシエルさんも、いつもこんな気持ちでこのお店をやってるんだろうな。
「ご馳走様。片付けはやっておくから外の掃除を頼んでもいいかしら?」
「わかりました」
「あの、私も何か手伝います」
もうしわけなさそうにもじもじとしているリサさんは、まるで少し前までの自分の姿と重なって見える。
やっぱ最初は気を使うし緊張するよな。
ここは俺がうまくリードしてあげないと。
以前、シエルさんにしてもらったみたいに。
「ありがとう。じゃあ一緒に掃除しようか」
「はい!」
緊張が緩んだのか、顔がぱっと明るくなったリサさんが俺の後をついてくる。
そんな2人の初々しい姿を見ていたシエルさんは、どこか満足そうに微笑んでいた。
過去の記憶をすべて失った俺にとって今、友達と言える人は1人もいない。
シエルさんは年上だからってのもあるけど、どちらかとゆうと恩師?とゆうか親のように尊敬してる人。
リサさんとは普通の友達として仲良くなりたい。
そして彼女を傷つける者がいるなら、俺が体を張って守ってあげたい…なんて。
この時は純粋に、ただそう願っていたんだ。
本当は、俺自身が『 それ 』をまねいてしまったなんて思いもしないで。