表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
橙の灯が落ちるまで  作者: とづきこう
2/5

宙を舞う光

 神社から歩いて5分のところに、ミナコさんの営むカフェがある。そこは40年ほど放置されていた古民家で、築120年にもなる。子どもの頃は「お化け屋敷」と言いながら、友達と屋敷の周りを駆け回っていた。とうにボロボロだったはずの古民家は、ミナコさんが来てから見違えるような変貌を遂げている。外装は修繕したのか小綺麗になり、周辺に生え放題だった草木も綺麗に刈られている。ここまでするのは、さぞ大変だっただろう。


「ミナコさん、おはようございます」

「あら、カオリちゃん。いらっしゃい。今日はよろしくお願いしますね」


 店のある1階に案内されると、内装もお洒落なものだった。土壁と炭で燻され黒くなった梁や柱、少し軋むこげ茶の床板は、恐らく当時のまま使っているのだろう。店内の天井にはガラス製のランプシェードが吊るされ、中央にはアンティーク調のテーブル席が4つと、カウンターには5つの椅子が並んでいる。そして、各所に配置されたドライフラワーたちの鮮やかなくすみ色が、古めかしい内装や家具と絶妙にマッチしていたのだ。


「素敵なお店ですね」

「ありがとうございます。私の趣味をそのまま反映させたんですよ。実は昔、この辺に住んでたことがあったんです。いつかこの古民家でカフェをやりたいなぁって、ずっと思ってたんですよ」

「え、そうなんですか? ミナコさんとは年も近いのに、近所に住んでたのなら私も知ってるはずなんですけど……」

「ふふっ。同世代だと思ってくれて嬉しいわ。住んでいたのはね、ずっと昔なんですよ。だから、カオリちゃんは知らないのかもね」

「そうなんですか……失礼なこと言ってすみません」

「全然! 気にしないで。じゃあ、早速始めましょうか。ご祈祷」

「はい」


 祈祷のために準備してもらっていた供物や酒、米、塩、持参した榊をカウンターに並べる。深呼吸をして心身を落ち着かせたのち、私は祝詞を唱え始めた。いつもは集中している間にあっという間に終わるのだが、この日は違った。体中が急にポカポカし出し、目の前には金色に輝く小さい光のようなものが、いくつも宙を舞っていた。幻覚でも見ているかのような事象に戸惑いながらも、なぜだか心地のいい気分。これはきっと、神様が願いを聞き入れてくれた証なのかもしれない。ミナコさんの思いがよほど強いのか、こんなことは初めてだった。


 祈祷が終わってミナコさんの方へ振り向くと、穏やかな眼差しで私を見つめていた。

「あ、あの……どうかなさいました?」

「……なんだか嬉しくて」

「お店はミナコさんの念願ですもんね。きっと大成功しますよ。ご祈祷中、神様が聞き入れてくれたような、そんな感じがしたんです」

「そう……それならよかった、本当に。」


 先ほどの出来事を伝えると、ミナコさんは少し間を置いて、心底安心したように微笑んだ。思いが強いほど、神様には届くのかもしれない。


「カオリちゃん。今日は午後からなにか予定はある?」

「いえ、特に」

「それならよかった。夕方の4時になったら、お店に来てくれますか?今日のお礼にご馳走したいの」

「え、お礼だなんて……。でも、せっかくなのでお邪魔しようかな」

「うん、ぜひそうして! カオリちゃんにはね、お店の最初のお客さんになって欲しいんです」


 嬉しそうに笑うミナコさんにつられ、私もつい口角が上がってしまう。不思議なもので、ミナコさんと一緒にいると妙に落ち着く。出会って数日しか経っていないのに、昔から知っているような感覚。ミナコさんはきっと、人を惹きつける魅力の持ち主なのだと思う。

 



 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ