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8 オリビエ視点

 辺りを威圧し睥睨するノワール様の視線に怯む。こんなに感情をあらわにしたノワール様を見るのは初めてだ。

 整然と完璧な陣形で取り囲んだ筈なのに、ノワール様が一歩進むごとに脆くも崩れ自然に道が出来た。

 辺りを払うその視線の冷たさに逃げ出してしまいたいのに、ノワール様とその腕に抱かれた佳人が気になって離れることができない。


 その時ノワール様の腕の中の妖精が顔を上げた。とろみのある上質な翡翠のような瞳でノワール様を不安げに見上げる表情が消えてしまいそうに儚い。

 ハチミツを溶かしたような甘い色合いの長い髪が朝日を反射してキラキラと輝いく。あまりの美しさに心を奪われた。

 すると妖精を安心させるように、ノワール様が優しく微笑んだ。先程までの心の奥底まで凍えるような冷たい視線から打って変わったそれは、慈愛に満ちていた。柔らかくまるで愛しい宝物を包み込むようなその微笑みに、同志一同が一斉に息を飲んだ。 

 こんなにも幸せそうなノワール様をわたくし達は見たことがない。

 あまりの麗しい光景に何人もの同志達がバタバタと倒れる音がした。


「尊い、尊すぎますわ。」


 感極まったような囁きと、啜り泣きがさざ波のように広がっていく。

 やがて、人垣は二人を歓迎するかのように男子寮まで続くアーチとなり、わたくし達はおふたりの姿を目に焼き付けたのだった。


 そして、わたくしは確信した。あの妖精こそがアレックス様に違いないと。

 あの髪色と瞳は王族特有の色合い、特にお父上であるリヴィエラ公爵譲りの特徴的な鮮やかさ。そして傾国の美姫とも言われるお母上譲りの儚げな美貌。


 アレックス様は、権力を傘にノワール様を振り回したりしていなかった。

 むしろ、ノワール様が望んで側にいたかったのだと。

 

 行事前に嬉しそうなのも、行事が終わった後少し寂しそうな背中も、全てアレックス様と会える喜びとしばらく会えない寂しさを表していたのだ。

 それを酷い誤解でこのような騒動を引き起こしアレックス様を傷つけた。この責任は取らなくては…。


 やがて、遠くなるおふたりの姿を眺めながらわたくしはある決意を口にした。


「わたくし、今日この日をもちまして『ノワール様の学園生活を守る会』を脱退いたしますわ。」

「そんな、オリビエ様。」

 動揺したようなざわめきが広がる。


 アレックス様もノワール様もそれぞれのご実家の嫡男。ふたりがともに過ごせる日は学園卒業までのわずかな期間。大抵の貴族は学園を卒業するとともに婚姻を結ぶからだ。

 ならば、この責任をとって学園卒業まで、二人の絆を阻むものを徹底的に排除しようではありませんか。

 いえ、卒業後もおふたりをサポートしていく体制を作り上げるのです。

 


「わたくし今日から『おふたりの愛を見守る会』を立ち上げますわ。」

 わーっ、と歓声があがる。

「えぇ皆様、学園生活を送るおふたりの道ならぬ恋を皆で見守っていこうではありませんか。ふたりがともに困難な道を乗り越えて幸せを掴めるよう陰ながら応援するのです。皆様よろしいかしら。」


 わたくしは同志達を見渡した。


 同志達のみなぎる喜びを表すような拍手によって結成したこの会は後に『翡翠の会』と呼ばれるようになる。


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