54.交差する世界
おっさんとその娘は連れ出された。
「娘を優勝させてくれるというから、大金を払ったというのに」
という叫び声を残して。
おっさんと共に追い出されていく娘の胸元のペンダントが目に付いた。
不釣り合いな程大きな宝玉は血のようなどす黒い赤さが不気味だ。
俺、なんか大事な事を見落としてないか。
さっき、ノワールに『鎖』を付けた時、ちらりと見えた、窓の外の光景が頭に浮かぶ。
何気ない風景。誰かがこの娘に宝玉を渡していた。
ぐらり。突如、視界がブレる。晴れやかな表彰の場。二重写しになる視界。
スクリーンに映し出されたような二幕の光景。一幕は、不機嫌な俺は自宅で無表情の母とお茶をしている。
もう一幕は、この表彰式の光景だ。表彰台は俺の代わりに先程の娘が誇らしげに立っていた。
そして、娘にガルシアお兄様がトロフィーを渡す瞬間、紅い宝玉から出た光がガルシアお兄様の心臓を貫いた。
パニックになる会場。
その会場を呑み込むように闇が大きな口を開けて、人々を呑み込んでゆく。
数名の学生を遺して全てを呑み込んで、その闇が父に迫った瞬間。
母が現れて、父の前に立ちはだかり身代わりに闇に身を投じた。母が呑み込まれたことで、満足したのか、ようやく闇はその口を閉じた。
父を遺して……。
絶望に打ちひしがれる父と、母が消えた事に気付かず呑気にお茶を飲んでいる俺。幕が一つになる。
王太子暗殺。その犯行は全て母のせいにされ、リヴィエラ公爵家の権威は失墜した。
あとに遺されたのは狂ったように闇を求めて各国を彷徨う父と無力な俺。
父を庇おうとした四天王や腹黒執事も呑み込まれ、頼れるのはノワールしかいないのに。何故か俺とノワールは仲違いしている。
だからだ。王太子が側妃マグノリアの息子ロバートなのも、四天王が存在しないのも、両親が、物語に出てこないのも。全てが、この『血の表彰式事件』と繋がる。
そんな俺のそばにいるのは、ギルバートただ一人。
えっ、なんで?
突如、手を取られた。
「アレックス様へ俺の忠誠を。あんな誹謗中傷に耳を貸さないでください。なんと言われようとあなたの舞は素晴らしかった。」
そこにはぼんやりと虚空を見つめる俺を心配したようなギルバート。
ギルバートの纏う雰囲気がいつもと違う。
黙っていれば、男前のギルバートの顔を見つめた。
良く見たらギルバートって、あの隻眼のギルバートじゃん。ゲーム最大の敵役、ニヒルで時に残忍なヒール。
悪役アレックスを影に日向に守り抜き最期にはノワールに斃される。
敵役とはいえ、一身にアレックスを守り抜く忠義の騎士、その最期に敵ながらあっぱれと泣いた記憶が。
え?俺、自分の唯一の味方に今まで酷いことしてた?
わーん。ごめんなさい。




