53.表彰式
華陽の舞優勝はオリビエちゃんで準優勝はヴィヴィアンちゃんだった。
ふたりとも綺麗だったもんな。
ふたりの衣装を俺が着ちゃったから、ふたりとも制服だ。楽しみにしていた皆ごめんよ。
月華の舞、月部門はノワールが優勝した。ギルバートも準優勝した。どうだギルバートよ、ノワールに負けた気分は?しかも、ノワールにはあの制御不能な鈴飾りというハンデがあったんだぞ。
ひれ伏せ。
女子学生達のノワールを応援する声が聞こえる。面白くない。お前らには一応イケメンのギルバートをやるから切り刻んで好きなだけ持っていくが良い。
だから、ノワールは諦めろ、ノワールは将来俺を監禁して楽しむ鬼畜野郎だぞ。
次は、華部門だ。オリビエちゃん、俺ほんとうに大丈夫かな?
電飾鈴イカ、お前にだけは負けたくないが。どうだ。
「優勝は、アレックス・リヴィエラ」
やったー、さすが悪役令息。家のコネなんかも、使えちゃったのかな?ラッキー。
ちなみに準優勝はイカで3位はウサギだった。
やっぱ、完全にキワモノ枠だったようだ。
その時、一階貴賓席席から小肥りの男が立ち上がった。
二階VIP席に入れる人は王族とか選ばれた人だけなんだけど、多額の寄付をしてる人は一階の貴賓席に座れるんだよね。
「異議あり。」
へ?
「優勝者のアレックス君は月華の舞をきちんと踊っていないじゃないか、失格にすべきだ。」
え、それを言うなら電飾イカだって、途中から大漁踊りをおどっていたし、ウサギに至っては鈴すら付けずにニンジン振り回して大音量で踊り狂ってただけだそ。
「アレックス様は華部門。華部門は敵を油断させられたものがコンセプトですわ。」
おっさんに、オリビエちゃんが毅然と言い返す。
「なにを、小娘が。あんな破廉恥な踊りがこの誇り高き学園で許されるはずないだろう。」
おっさんがオリビエちゃんにまでくってかかった。
おっさんよ悪いことは言わないから、この先の人生安泰に生きたかったら噛みつく人間を見極めた方が良いぞ。
オリビエちゃんは組織を束ねるボスだぞ。ほら、見ろ。この剣呑な雰囲気。
「あんな踊りを踊るなんて親の顔が見たいものだ。それに引き換え我が娘の清純な舞ときたら」
お前の娘って、誰なんだよ。そんな奴踊っていた記憶すらないぞ。
それにおっさん、俺の父の踊りはこんなもんじゃないくらい破廉恥の極みだぞ。
いや、父そのものは品の良いダンディなイケオジなんだが……。いかんせん、醸し出す色気がもはや破廉恥の極みなんだ。
「親の顔が見たいですか、それはそれは。」
観客席の扉が開く。四天王のおじ様達が入ってきた。オリビエちゃんパパの愉快そうな声の裏側に強烈な怒りを感じる。俺、ガクブルなんですけど。
おっさんは慇懃に四天王のおじ様達にへこりと頭を下げた。
「宰相、司法長官、魔術師長、それに騎士団団長まで。」
えっ?父の取り巻き四天王ってそんなに偉かったのか?
四天王があわれなおっさんを、笑いながら取り囲む。おっさんは事態が飲み込めていないのかにこにこしている。
逃げろ、逃げたほうが良いぞ、絶対に。
四天王が隙のない動きでおっさんをきっちり逃げられないよう包囲したあと、圧倒的存在感で、魔王様いえいえ、我が父が出てきた。背中にどす黒いオーラを、背負ってらっしゃる。
「私の顔が見たいようだが、私の愛し子が、何か?」
笑いを含んだ低く甘い声に甘美な毒が混ざる。
「いえ。」
ようやくここで事態が飲み込めたのか、震えるおっさん。
「君、名前は?」
父は名前を覚えない。名前を聞くときは、余程相手を認めた時か、徹底的に潰すときのみ。




