52.王太子ガルシア
表彰式は代々王族が執り行う。
てっきり父がするのかと思っていたんだが。
「ガルシアお兄様。」
子供の頃から俺を可愛がってくれている王太子ガルシアが表彰を執り行う為に急遽来たらしい。
「アレックス、月華の舞とても綺麗だったよ。出場すると聞いて予定をねじ込んで正解だったよ。」
凛々しく笑うガルシアお兄様に飛びつく。ガタイの良いガルシアお兄様は、これくらいのことではびくともしないのだ。
「舞はあんなに妖艶に舞えたというのに。アレックスは相変わらず、お子様だなあ。」
ガルシアお兄様にガシッと抱き上げられて、高い高いされる。俺は子供の頃から父に抱き上げられたことなんか無かったから、よく高い高いをガルシアお兄様におねだりしたっけ。
「ガルシアお兄様、俺はもう高い高いをおねだりするような子供ではありません。」
「ふふふ。そうだね。アレックスはあんなに上手に月華の舞を踊れるようになったんだもんね。あと、華陽の舞も……。」
意味ありげに微笑むガルシアお兄様が、ふと、ノワールの『鎖』に目を止めた。
「あれは……。」
俺を降ろすと、ノワールに側によるよう指示したガルシアお兄様はノワールの耳飾りを注意深く眺めている。
成人したばかりだというのに王たる風格が溢れるガルシア王太子の前に跪くノワール。その光景があまりにも美しくて息を呑んだ。
この2人、絵になるな。
「材質は黄金か。」
じっくり検分を終えた王太子は興味を無くしたように呟くと、ノワールに微笑みかけた。
「ノワール、良く似合っているな。」
目を上げたノワールが蠱惑的に微笑む。むむっ、ノワールがやると老若男女問わずよろめきそうだ。
ガルシアお兄様は次期国王になられる大切な玉体だぞ、誘惑厳禁です。
「はい。アレックスから賜った宝物です。生涯大切に致します。」
その言葉にガルシアお兄様の顔がわずかに強張った気がした。
「アレックスからだと?」
どうしたんだろう?そんな怖い顔でノワールを見つめるなんて、もしかしてノワールに惚れちゃって俺、ライバル認定されちゃった?
うわーん。俺を見つめるガルシアお兄様の瞳が怖い。
文武両道で人望もあるガルシアお兄様に勝ち目なんてないよ。俺、ちびっちゃう。
「ガルシア王太子殿下、表彰式の準備が整いました。お出ましを。」
侍従に促されて、ガルシアお兄様がしぶしぶ表彰台に向かった。
侍従、グッジョブ。
「アレックスあとで、聞くからな。」
振り向いたガルシアお兄様がビシッと俺を指差した。
わーん。やっぱ怒ってる、怖いよー。
でも、俺はノワールのこと昔から好きだし。ガルシアお兄様のほうが横恋慕なんだからね。




